121/260
アルコール依存症121
「待てない、今すぐ酒を持って来い!」と震える行雄が怒鳴った。
禁断症状に苦しむ行雄が狂い苛立ち再度怒鳴る。
「おい、気休めを言うなよ。お前はさっき俺の見た婆さんは幻覚だと言ったばかりではないか。その幻覚が幻覚装置の中にいる俺達をどうやって助けるのだ!」
悪友が嘆息してから答える。
「だから幻覚も現実と全く同じなものならば、それは現実じゃないか。違うか?」
「それじゃ再度尋ねるが、幻覚ではなく、これが現実だとして、婆さんは何故俺に助けを求めたのだ。助けて欲しいのは俺の方なのに?」
悪友が息をつき、諭すように言った。
「止めよう。こんな不毛な話、しても無駄ならばする必要はあるまい…」
震える行雄がうめき声を上げ激しく瞬きしてから言った。
「とにかく婆さんを助ける前に、ここに酒を持って来て俺を助けてくれ。お前が友達だろう、違うかのか?!」
悪友が拒む。
「ここに酒は無い。辛抱するしか無いのだ」
「いつまで辛抱すればいいんだ?!」
悪友が言い含めるように言った。
「おい、もう少し待てないのか?」
「待てない、今すぐ酒を持って来い!」




