アルコール依存症111
闇の中に多数の赤い眼が一斉に出現し、整然と隊列を組むように歩き出し、木の下に銘々集結した。
行雄が泣き笑いの表情を浮かべてから言った。
「お前、恐怖で頭とち狂ったのか。俺達には生き残れる保証など何も無いのだぞ。死ぬか生きるかも分からないこんな極限状態の中で、お前は何を戯れ事を言っているのだ?」
悪友が滲む脂汗を再度拭い、自分を嘲るように苦笑いしてから答える。
「それはそうだな。すまない、こんな時に。と言うか、どうやら奴らのお出ましのようだぞ」
悪友の言葉通り、闇の中に多数の赤い眼が一斉に出現し、整然と隊列を組むように歩き出し、木の下に銘々集結した。
その数は十五頭にも及び、それを見下ろして行雄が恐怖におじけづき震えながら呟いた。
「こ、これはもうお手上げだな」
その言葉に呼応して悪友が手に汗を握り、応じようとする言葉を呑み込み絶句した。
そして一頭の鹿が合図をするかのように後ずさりして勢いを付け、木の幹に渾身の力を以って角をぶつけると、それに続けて他の鹿達もタイミングを計りつつ、力任せに角をぶつけ始めた。
その度重なる体当たりに立ち木が激しく揺れ、行雄が幹に抱きつきへばり付いて涙ながらに喚いた。
「こ、こいつら俺達を振り落とすつもりだ!」
悪友もライフルを肩に背負ったまま行雄と同じく幹を抱き込みへばり付いて喚いた。
「振り落とされるなよ、落ちたら一巻の終わりだぞ!」
行雄が大声で呼応した。
「分かった。お前こそ落ちるなよ!」
悪友が声を限りに呼応した。
「分かった!」




