部活に勧誘されましたが...
季節は春という、多くの人が暖かいイメージを浮かべるこの季節。多くの別れをし、多くの出会いをするこの季節。ああ、なんと素晴らしい季節なんだろう。
...なんてなるわけがなく、クラスからは冷たい目で見られてしまった。
更には体温さえも低く感じるのは、きっとここが地下室だからだろう。
代わりといってはなんだが、目の前には、顔を透明のファイルで隠した美少女が、椅子に腰掛けクルクルしている。
「んで、なんだっけ?」
「だから...部活に入ってくださいって...」
そう、俺は今、部活動の勧誘をされている最中なのだ。
正直、部活動は嫌いだ。ああ、間違えた、動くのが嫌いなんだ。だから、部活動に入る気はない。
と、言いたいところなのだが、この高校、部活動強制入部という制度があるのだ。
土曜登校な上に強制入部とは、どうなってんだこの高校、不登校になっちゃうだろうが。
逆に言えば、彼女の部活が俺にあった、楽な部活であれば入らないこともないというわけで。
5秒程思考を巡らせ、、聞いてみる。
「部活って具体的に何をする部活なんだ?」
「えっと...その...」
口をもごもごさせ、再び顔を赤面させる。
「いえない部活なのか?」
「い、いえ。簡単です。じょう...けんきゅ...部です」
「いや、全然聞こえないから」
「だから!超常現象研究部です!」
「いや、全然聞こえないから」
「嘘ですよね!?」
「いやいや、まじだって、超常現象研究部。ハイ」
「超常現象研究部。って聞こえてるじゃないですか!?」
ああ、これ割りと面白い。
「東京特許許可局。ハイ」
「東京特許許可局。ってなに言わせてるんですか!?」
痛え。ファイル投げやがった。しかも、角が当たった。
「それで、なんだっけ?」
「だから!部活です!」
「ああ、そうだった。それで、何て部活だっけ?」
「遊んでますね?それくらい分かりますよ。もう高校生なんですから。いいでしょうあえて答えますよ。超常現象研究部です!」
流石にこの手は何回も使えないらしい。あえて答えられた俺がとるべき行動か。
ならば、あえて...無視してみた。
いやいや、だって超常現象だぞ?こんな部活入ったらもっと冷たい目されるかもしれないし。第一そんな子供だまし...
あった。他の何者でもなく、俺自身。この能力だって超常現象の類いじゃないのか?
これは入る価値があるのかもしれない。しかも、彼女の思想だけなぜ読めないのか、疑問が解明される訳じゃないが、糸口は掴めるかもしれない。
そして、楽だしな。
つまり一石三鳥。
「えっと、だめですか...?」
不安げに尋ねる彼女の顔は曇る。
そんな顔をされては気が引けるもので、入ると言わざるを得ない雰囲気を醸し出されてしまった。
まあ、元々部活に入らないといけなかったし、相手にとっても俺にとっても良いことだけだろう。
となると、脳から導きだされる答えは一つに固まった。
「ああ、分かった。入るよ」
その一言で彼女の顔は一変し、眩さを持つ笑顔となった。
「どうした?嬉しすぎて言葉も出ないか?」
「そんな訳ないじゃないですか。妄想しないでください」
「お前キャラ定まらなさすぎだろ...」
「仕方ないじゃないですか。これが私なんですから」
「開き直るなよ...。あと何で敬語なんだ?同級生なんだからタメ口でいいだろ?」
「これがぼっちの特性というやつです」
「お前ぼっちだったのか?」
その容姿で有り得ないだろ(笑)とか言うと理不尽にセクハラだと言われ、嫌われそうな気がしたので言わない事にした。
「いえ、だったではなく現在進行形でぼっちです」
「ああ、つまり俺と一緒でぼっちんぐしているってわけな」
「?何を言ってるんです?あなたはさっきクラスに馴染んでたじゃないですか。私と同じにしないでください」
「いや、あれは向こうから話し掛けてきただけで...」
「じゃああなたは、別にぼっちでもいいと言うわけですか?」
「...友達はいなくてもいいと思ってる」
「じゃあ私と同じにしないでください」
「どんだけ同じにされたくないんだよ!?」
ふぅ...と溜め息をつくと、彼女が用意したと思われる椅子に腰を掛ける。椅子と言っても、木でできた貧相な丸椅子だ。
金属でできた机もかなり錆び付いており、見るにたえないといった感じだ。
もっと酷いのが天井や壁。へこみや傷が異様な程ついている。年季がある、というより、ただただ扱いが悪いのではないかと思う。
「そんなこの部屋がおかしいですか?
どうやら大分長い時間周囲を見渡していたようで、彼女がキョトンとした面持ちで聞いてきた。
「いや、この部屋だけやけに汚いなと思ってな。学校の内装自体は綺麗なのに」
「ああ、何十年もの間使われてないですし、昔は問題児をここに閉じ込めていたそうですよ」
「まじかよ...」
おいおい、それ虐待ってやつじゃねえのか?よく知らねぇけど。
「今は使われてないので、入れませんよ?」
「断じて入りたくねえからな!!!」
やはりこいつと話してるとどうも疲れがたまってくる。つっこみをするんが別段得意じゃないからな。
そういえば、なんでこんなところに来たんだ?と考えていると、
「さて」という言葉が宙に舞い、どこからか緊張感が高まり、張りつめた空気が漂う。
何がくるのか、それ相応の面構えで迎える。
「な...名前を教えてください」
「なんだ、そんなことか」
若干がっかりした顔をする俺。
「そんなこととはなんですか!?名前が呼べないのは不便だと思わないんですか!?」
「そんなことより、お前に友達ができないのはそういうところだよな」
「何度も言いますが、そんなこととはなんですかっ!?あとあなたには言われたくないです!!」
「さっき言ったろ?俺はお前と違って作ろうとしてないだけだ。決して作れない訳じゃない」
いや、結局はどっちもどっちだと思うんだけど...友達できるかな...
「それで、なんの話でしたっけ?」
「そんなことって言ったのを否定してなんで忘れてんだ」
キーンコーンカーンコーン...
不意にチャイムがなる。
まだ名前も聞いていないのだが、如何せん、時の流れには逆らえないもので、昼食の時間は無常にも過ぎ去っていく。
「それじゃあ」とだけ言い、彼女はそそくさと部屋を出ていく。
「あっ、おい!!」
俺の言葉は閉められた扉にかき消され、後にはなにも残らなかった。
まだ休み時間はあるんだけどな...なにか急ぎの用事でもあったのだろう。