学校という監獄に囚われましたが...
ありふれた街角。
この道何回往復してるんだよ。
目で確認できる城壁、否---監獄。
何百人もの生徒がそこに囚われ、毎日毎日同じことを繰り返す。
時に叱られ、時に褒められ、時に...仲間割れをする。
俺はそんな場所が大嫌いだった。幾度も消えてしまえと望んだ。
結論なぞ、言わなくても分かると思う。
高校に上がれば、もう行かなくてもいい、自由になれるんだと思っていたが、そんなことはなかった。半分以上自業自得なんだが。
と、難しい表現はやめて、俺の目先には、学校がある。つい2時間前の午前9時30分、学校の先生から電話がかかり、学校へと呼び寄せられた。
不登校になろうとしていた俺が、「すいません、今行きます」なんて言えるはずもなく。
なん十回もこの道を歩いていたのである。
すぐ近くにある、駄菓子屋の古びた時計は11時30分を示す。
このまま待てば、今日も学校を休むことになるのではないか、と悪事を浮かべる。
だが、母さんのあの手紙...約束を破るわけにはいかない。
という気持ちも少なからずあるわけで、着々とは言えないが、学校との距離は短くなっていた。
不意に、学校のチャイムがなる。
授業が終わったのだろう。
これはチャンスと思い、俺は全力で校舎へと走り出す。
そう、常識的に考えると、今この瞬間に4時間目が終わり、次は給食なのではないか。つまり今いけば特になにもしなくても、給食食べて休み時間と言うわけだ。
学校の前の道が上り坂なんて知らないほどの速度でかけ上り、開きっぱなしにされている玄関を潜る。
クラスは分からないので、下駄箱の名前表記を確認。1-Cだ。
1階は職員室やら保健室やらだったので、2階へ。
1-Cと記された札を確認し、勢いよく、ドアを開く。
席につく皆の声は一瞬にして静まり...
「おお、サボりのお前にしては早かったな」
「いえいえ、それほどでもないです」
「時間もちょうどいいし」
この言葉を待っていた、と言わんばかりの面立ちをし
「給食ですね」「自己紹介を頼む」
二人の全く違う声が教室に響いた。
あれ...と思い時計を見ると、10時30分。
「ほら、早く自己紹介しろよー」
*
今俺の目の前に広がるのは、椅子に腰かけた約40人の人参。あ、人間。
なぜこうなったか?そんなのは簡単な話だった。
駄菓子屋にはめられた。あいつ、時間ずらしてやがったな。いや、そんなことないと思うけど。
隣には、先生が立っている。
この状況の中、皆はなぜか、俺が面白いことを言ってくれると期待しているようだ。
無理だろ。
だが、思想の読めない彼女は、皆と異なった、喜怒哀楽を示さぬ、無表情で窓際の一番後ろの席に座っている。
そちらに目を向けると照れているのか、はたまた興味がないのか、目を背けた。恐らく後者だろう。
自分ではあまり時間が経った気がしないのだが、
「長谷川ッ!早く自己紹介しろよ!!」
という声で我にかえり、何故か背筋がのびる。
その姿勢を見るに、自信満々な感じが犇々と伝わってくるが、これはあくまで先生の声の効果であって、自己紹介の言葉が思い付いた訳ではない。
その結果...まだまだ硬直します。ということ。
やっぱり、面白いことを期待している人を裏切るわけにはいかないのだから、面白いことを言うべき。それが♂というもの。
さあ、意は固まったか、長谷川叶。今こそいい放つ時。
心は芸人、心は芸人。
「え、えっと、長谷川叶です。その...連続で休んで、今日遅刻したのは、寝てたからです...」
あ、これしまったな。と思うのも束の間、教室は笑い声でいっぱいに包まれた。
大声で笑ってくれる人、クスクスしてくれる人。本当にいって良かったと思う。
隣にいる先生も、鬼の形相をしてくださったしな。
後々、職員室に呼ばれ、怒られました。