モブ令嬢が立ち上がったら、聖女の奇跡が全部嘘だとバレました~モブらしく静かに暮らしたいだけなんですけど!?~
私はリゼット・ハイゼル。ハイゼル子爵家の三女です。
学園での立ち位置は……まあ、所謂モブですね。
クラスでも友達は少なくって、婚約者様もいない。
成績は中の中。特に悪くもないけど、優秀でもなく……
容姿は黒髪眼鏡で地味。
お母様はいつも私を褒めてくれるけれど、自分の容姿のレベルくらいわかってる。
そんな平凡な私が、なぜか二周目の人生を歩むことになって…
一周目の人生で何があったかは、正直あまり思い出したくない。
まあ簡単に言えば…聖女と呼ばれた女に濡れ衣を着せられたのです。
「この人が私に呪いをかけた」と泣きながら告発され、証拠もないまま入学したばかりの学園を追放され…
婚約者は、元からいなかったけど、唯一仲良くしてくれていた友人、エルナまで私のもとから離れていった。
社交界から消えた私は、実家に戻ることもできず、辺境の修道院で三年間おとなしく過ごしていた最中、階段から落ちてしまった。
……ちなみに、誰かに突き落とされたわけではない。ただ純粋に足を滑らせただけ。
で…目が覚めたら何故か、学園に入学する前に戻っていた。
もちろん理由はわからない。
私の人生があまりにも地味すぎて、神様から慈悲を頂いたのか…
とにかく、やるべきことは一つだけ。
正直なんでこうなったかはどうでもいい。
今度こそ、静かに、地味に、モブとして暮らしたい!
そのためにはまず、絶対に守らないといけないことがある。
絶対、聖女には関わらない。もちろん目立つこともしない。
学園を卒業したら、辺境で本でも読んで暮らそう。
……そのはずだった。
学園の入学式。講堂に並ぶ新入生たちの中に……彼女がいた。
ミレーユ・バートン。男爵家の三女。
のちに「聖女」と呼ばれることになる女。
栗色の巻き髪に、ぱっちりとした緑の瞳。
小柄で儚げな容姿は、確かに「守ってあげたい」と思わせる何かがある。
前の人生でも、この入学式の日から彼女は注目を集めていた。
……ただ、私は知っている。
あの「治癒の奇跡」が、全部嘘だということを。
ミレーユの正体は単純だ。治癒魔法の才能はほぼゼロに近い。
彼女がやっていたのは、王立図書館の禁書棚から盗み読んだ薬草調合を密かに使い、その効果を「聖なる力」として演出することだった。
…と、以前の私は知るよしもなかった。
追放されて修道院で薬草学を学んだ時に、匂いで気づいたのだ。
でも、その時にはもう全てが終わっていた。
だから今回は絶対に関わらない。
知っていても、黙っている。それが私の処世術。
入学式の翌日、教室の席について教科書を開いていると、隣に座った女の子が声をかけてきた。
「あの、よかったらお昼一緒に食べませんか」
エルナ・フォーゲル。伯爵家の次女。
前の人生で唯一の友人だった子。
明るい金髪に、人懐っこい笑顔。
彼女はこの入学初日に、たまたま隣の席になった私に声をかけてくれた。
前の人生と、まったく同じ台詞で。
「……ええ。いいですよ」
断れるわけがなかった。
でもここは聖女と関係ないし、一人ぐらい友達が欲しかったのは事実だ。
最初の一ヶ月は平穏だった。
エルナと一緒に食堂で食事をして、図書館で課題をして、たまに中庭を散歩する。
テンプレートで地味な学園生活。でも、それで私には十分だった。
一方ミレーユは、上級生の騎士科の生徒が演習で怪我をした時に「治癒の奇跡」を披露し、一躍学園の有名人になっていた。
前の人生と、手口も状況も同じだ。
でも、今回は私には関係ない。
そう……関係ないはずだった。
入学して二ヶ月目のある日。
昼食の時間に、エルナがいつもと違う顔をしていた。
「エルナ、どうしたの?なにか悩み事でも?」
「この前、ミレーユ様にお茶会に誘われたの」
「……ああ、そうなの。楽しんできてね」
「聖女様と一緒にお茶できるなんて光栄よね。断る理由もないかなって」
手が止まった。
これも前の人生と同じだ。
ミレーユは、まず人懐っこい笑顔で近づく。そしてお茶会などに誘い、親しくなり、信頼させる。
そして……必要なくなったら容赦なく、切り捨てる。
以前のミレーユのターゲットは私だった。
今回は、婚約者もなく地味すぎる私ではなく、伯爵家の令嬢であるエルナに目をつけたのだろうか。
「……エルナ」
「どうしたの?」
「……いや、何でもないわ。今日は天気があまり良くないわね」
それから一ヶ月後、入学から三ヶ月目。
エルナはミレーユとの付き合いが増え、私と昼食を取る回数が減った。
ここも予想通りだ。以前と同じ…わかっていた。
わかっていたけど、胸の奥がじくじくと痛んだ。
前の人生でもこうだった。少しずつ私から人が離れていく。
ミレーユの温かい笑顔の引力には、モブの私では勝てない。
……いいんだ。今回は何も関わらないと決めたんだから。
そう自分に言い聞かせていた。
入学から四ヶ月目。
図書館で薬草学の本を読んでいたら、隣に座っていたエルナがぽつりと呟いた。
別に盗み聞きする気はなかった。だけどここで席を立つのも変かもしれないと考えてしまって……結果として話を聞いてしまった。
「ミレーユ様の治癒って、すごいわよね。魔力をまったく感じないのに傷が治るの」
私は本から顔を上げなかった。
知っている。あの治癒に魔力なんて使われていない。
一周目の追放後の修道院で、私は毎日のように薬草を煎じていた。
修道女たちに教わった薬草の匂いは、体に染みついている。
だからミレーユが「治癒の奇跡」を披露するたびに、風下にいる私の鼻は正直に教えてくれた。
ベルガモット、ヴァイス草、紫根の焦がし粉……修道院の軟膏と、ほとんど同じ匂い。
でも一つだけ、違うものが混ざっていた。
甘くて、少し焦げたような匂い。
修道院の薬草庫で、シスター・アグネスが棚の一番奥から、薬草が入った小さな瓶を取り出して見せてくれたことがある。
「これはルートヴィアというの。傷を一瞬で塞ぐ力があるけれど、体の中の魔力を食い潰す。これを使った人間は二度と魔法が使えなくなる。だから禁忌なの。絶対に、使ってはいけないわ」
あのときの匂いだ。
甘くて、少し焦げたような匂い。
ミレーユの「奇跡」の正体は、修道院の軟膏にルートヴィアを足したもの。
治療された人はなんでも傷が治る代わりに、知らないうちに魔力を失っていく。
……でも、黙っているべきだ。せっかく得たやり直しのチャンス。
ここで出しゃばって無駄にするわけにはいかない。
「……あの治療、受けた人って、その後魔法の調子が悪くなったりしてませんか」
……なぜか口が勝手に動いていた。
「え?」
「薬草で治してるんだと思うんです。…私が知っている軟膏と似た匂いがするので…。でも、一つだけ普通じゃないものが混ざってる気がして」
エルナは目を丸くしていた。
「教わったんですけど、傷を無理やり塞ぐ薬草があって、それを使うと魔力に影響が出るらしくて。それは禁忌だって、シスター……いや、家庭教師の先生に言われました」
嘘はついていない。
知っていることをそのまま言っただけだ。
絶対じっとしてるって決めたのに……なんだか見過ごせなかった。
でも、話したのは聖女本人じゃないし……ギリギリ大丈夫かな?
…前みたいにならないといいけど。
エルナは翌日、治療を受けた生徒に聞き回っていた。
私は何も頼んでいない。本当に何も。ただ知っていることを呟いただけだ。
……私の独り言が、こんなに拾われるとは思わなかった。
ここで、ひとつだけ言い訳をさせてほしい。
私は聖女を告発するつもりはなかった、本当に!
ただ、目の前に「次の被害者」になるかもしれない友人がいて、私は前の人生で全部を知っていて……。
それでも黙っていられるほど、賢くも強くもなかった。
前の人生で一番辛かったのは、追放されたことじゃない。
誰も、本当のことを知ろうとしてくれなかったことだ。
目の前で嘘が通って、誰も疑問に思わなかった。
あの無関心が、追放よりも辛かった。
だから、せめて一言だけ…知っていることを口にするべきだと思った。
五ヶ月目。事態が動いた。
……動いたというより、動かされた。
エルナの調査は、想像以上に広がっていた。
治療を受けた生徒に聞き回った結果、三人が「最近、簡単な魔法が発動しにくくなった」と答えたらしい。
エルナはそれを親しい友人に話し、友人がまた別の友人に話し……学園の噂というのは、水のように流れるものだ。
そしてその噂は当然、ミレーユの耳にも届いた。
ある日の放課後、廊下でミレーユの取り巻きの一人、カテリーナとすれ違った時、声が聞こえた。
「ミレーユ様、最近変な噂が流れてます。治癒を受けた人の魔力が下がっているとか……」
「……それ、誰が言い出したの」
「フォーゲル家のエルナ様らしいです。図書館で薬草のことを調べ始めたとか」
まずい…どう考えても私のことだ。
私の独り言が、ここまで回ってきてしまった。
翌日から、ミレーユの雰囲気が変わった。
いつもの柔らかい笑顔は同じだけど、目の奥に追い詰められた鋭さがあった。
一周目の私は、あの目を見たことがなかった。
もちろん、あの時はミレーユの都合のいい生贄でしかなかったから、気づく余裕もなかったのだけど。
そして五ヶ月目の終わり。
学園の大講堂で、ミレーユが泣き崩れて大きな声で叫んでいた。
「エルナ様が……私に、呪いをかけたんです……っ!」
前の人生と、同じ構図。
でも今回のターゲットはエルナだ。
なぜエルナを選んだのかは、たぶんわかる。
噂の出どころを辿れば、エルナに辿り着く。
そしてエルナに薬草のことを教えた人間が誰かは——エルナの友人を見れば、すぐにわかる。
……そして私の唯一の友人がエルナだということは、皆が知っている。
エルナを潰せば、私も黙る。
ミレーユはそう計算したのだろう。
周囲がざわめく。教師たちが駆けつける。
エルナは顔面蒼白で立ちすくんでいた。
ミレーユの演技は完璧だった。
声の震え方。すがるような目から流れる大粒の涙。助けを求めるように震える指先。
嫌というほど見覚えがある。
一周目で私に向けられたものと、まったく同じだ。
ミレーユの周りに、取り巻きであろう生徒たちが集まっていく。
カテリーナがミレーユの肩を抱き、アンネリーゼが涙を拭って、ブリギッテがエルナを睨みつけている。
「エルナ様は……昨日の放課後に私に何かを付けてすれ違って……それで昨晩、寝ていると呪いの症状が表れていて……
絶対あの時に私に呪いを掛けたのです……!」
「ひどい……! エルナ様、どうしてこんなことを……」
「ミレーユ様は皆を癒してくださっていたのに……!」
教師がエルナに詰め寄り、話す。
「エルナ嬢…呪いとは本当か?」
エルナは唇を震わせてパニックになっている。
「わ、私はそんな…呪いなんか…何も……」と絞り出すのが精一杯だったようだった。
ああ…これは一周目と同じだ。
涙を流し、誰が見ても被害者の聖女。
それに困惑する被害者。そして取り巻きの壁。
あの時の私も、こうして何も言えずに立ちすくんでいた。
誰も「本当にそうなのか」とは聞いてくれなかった。
……もう、いいや。
モブでいるって決めたのに。
二周目こそ静かに生きるって決めたのに。
こんなの見せられて、見過ごすような薄情者な私じゃない。
「……すみません」
声を出すと、大講堂にいた全員が様々な表情で私を見る。
…何をしているんだ、私は。
でも……もう引き返せない。
「ミレーユ様がおっしゃっている話ですが……昨日のその時間、エルナ様は私と一緒に図書館にいましたよ。
遅くまで二人で本を読んでしまって、校内にはほとんど人がいなかったです。」
さっきまでうるさかった取り巻きも、野次馬の生徒たちも、打って変わって静寂が広がった。
「もちろん図書館の出入記録にも残っているはずです。
司書のヴェーバー先生に確認していただければ」
ミレーユの目が、一瞬だけ鋭くなった。
「あなた……誰ですか。なんであの人をかばうのですか?」
「ハイゼル子爵家のリゼットです。エルナ様の……友人です」
「友人……あなたが」
彼女の声に、かすかな侮蔑が混じった。
子爵家のモブ令嬢が、聖女に逆らうのかと。
すぐにカテリーナが前に出た。
「ちょっとあなた。ミレーユ様がこんなに苦しんでいらっしゃるのに、友人の肩を持つために嘘をつくの?」
「嘘ではありません。記録に残っています」
「記録なんていくらでも細工できるでしょう。
子爵家程度の令嬢が、聖女様に楯突くなんて身の程知らずだわ」
アンネリーゼも続いた。
「そうよ。ミレーユ様は今まで何人もの人を救ってきたの。あなたに何がわかるの」
この人たちは「ミレーユの味方」なのではなく、「聖女の味方」なのだ。
聖女という肩書きの光に集まっているだけ。
でもここで言い返しても水掛け論にしかならない。
全部わかる私を敵にするなんて、運が悪かったわね。
私が黙っていると、教壇にいた教師の一人——ブレンナー教授が口を開いた。
「……少し、いいかね」
講堂が静まった。ブレンナー教授は魔法計測学の権威で、学園でも一目置かれている。
「ハイゼル嬢の証言は、記録の照合で確認できる。それは後日行えばよい」
教授はミレーユに視線を向けた。
「それよりも私が気になったのは別のことだ。ミレーユ嬢。
あなたの治癒に関して、正式な魔力計測が一度も行われていないことに気づいた」
ミレーユの顔から、ほんの一瞬だけ血の気が引いた。
すぐに顔を作り直したけれど、私は見逃さなかった。
「聖女認定は魔力検証を経て行われるのが通常だが、あなたの場合は実績のみで認定されている。これは手続き上の不備だ」
「……それは、私の治癒が本物だからこそ、検証が不要だと……」
「本物かどうかを判断するのが検証だ。来週、教授会議で公開検証を行う。異論はないね」
ミレーユは笑顔のまま「もちろんです」と答えた。
でも、手は震えていた。
取り巻きたちは教授に反論できなかった。
カテリーナが「そこまでしなくても……」と言いかけたが、教授の厳しい視線に押し黙った。
翌週。教授会議による公開検証の日が来た。
大講堂に教授陣が並び、ミレーユは壇上に立たされた。
模擬傷を受けた志願者の前で、治癒を行うよう求められる。
私は講堂の隅で見ていた。
エルナが隣にいて、私の袖をぎゅっと掴んでいた。
「リゼットさん……大丈夫かしら」
「大丈夫、だと思います」
客席にはカテリーナたち取り巻きもいた。
でもいつもの勢いはなくて、不安そうに顔を見合わせている。
ミレーユは志願者の前に立った。
いつもの微笑みを浮かべて、いつもの祈りの言葉を唱えて、手をかざした。
でも…何も起こらなかった。
当然だ。
手袋の内側に仕込んだ薬草軟膏は、教授たちの目の前では使えない。
計測魔術師が淡々と報告する。
「魔力反応、検出されません」
講堂がしん、と静まった。
ミレーユの手は震え、明らかに顔に動揺が現れていた。
ブレンナー教授が立ち上がった。
「ミレーユ嬢。もう一度聞こう。あなたの"治癒"は、魔力によるものなのか?」
ミレーユは何も答えなかった。
取り巻きたちの席で、カテリーナが立ち上がりかけたが…アンネリーゼに袖を引かれて、気まずそうに座り直した。
壇上のミレーユと目が合った時、カテリーナはそっと視線を逸らした。
聖女でなくなった瞬間に、人が離れていく。
今回は、運が悪かったようだ。
「……薬草です」
ミレーユが、ぽつりと言った。
「薬草の調合で……傷を塞いでいました」
講堂が大きくざわめく。
教授会議の結論は即日、その場で出された。
聖女の称号剥奪。虚偽の申告による学園規則違反。
そして、エルナへの虚偽告発。
累計の処分として、退学。
カテリーナたちは処分が発表された後、一人また一人と講堂を出ていった。
誰も、聖女様ではなくなったミレーユのそばには残らなかった。
退学の日。廊下でミレーユとすれ違った。
偶然ではないと思う。彼女は私を待っていた。
「……あなた、最初から全部知っていたのね」
「さあ……私はモブですから、何も知りませんよ」
「嘘つき」
ミレーユは私を鋭く睨みつけた。
今までの聖女の演技ではない、初めて見る素のミレーユだった。
「男爵家の三女には、聖女の肩書きしかなかったの。それがなくなったら、私には何も残らない」
「……」
「あなたは、それを奪ったのよ」
「……ミレーユ様。でも…あなたの薬草の知識は、本物ですよ」
彼女は驚き、目を見開いた。
「あれだけの調合を独学で再現できる人は、そういません。……聖女の肩書きがなくても、それは消えない」
「……」
「嘘をつかなくても、生きていける場所は…きっとあると思います」
ミレーユはその後、何も答えなかった。
ただ、少しだけ目を伏せて、私の横を通り過ぎていった。
……さて。
聖女事件が解決し、エルナは無事に学園生活を続けている。
私は念願のモブ生活に戻った。
……はずなのに。
「リゼットさん、お弁当作ってきたの。良ければ一緒に食べましょう!」
エルナが毎日お弁当を持ってくるようになった。
しかもきっちり二人分。
「リゼットさんは命の恩人だもの。これくらいさせて」
「……そんな大げさな」
「大げさじゃないわ。来週のお茶会にも誘っていい?うちの伯爵家主催の豪華なお茶会よ!」
「それは遠慮したいのですけど……」
エルナはその後も断る隙を与えてくれなかった。
なんとかエルナを巻いて、図書館に逃げ込んでもそこも安全ではなかった。
「リゼットさん、少しよろしいですか」
図書館で本を読んでいたら、薬学科のミュラー先生がやってきた。
「あの薬草の件、もっと詳しく聞かせてくれませんか」
「……私はただ、前に教わったことを呟いただけですけど」
「噂ではどこかで薬草学を学ばれていたとか。
あれだけの知識、もったいない。来月、薬学科で特別講義をしていただけませんか?」
「も、モブに講義なんか無理ですよ。それにあれくらい、普通ですし……」
「もぶ…とは?薬草の名前でしょうか?さすがリゼットさんです。やはりもっと話をしたいですね…この後は開いていますか?私が知らない薬草学を教えていただきたい」
会話が噛み合わない。
極めつけは、講堂での一件を見ていたらしい王子殿下だった。
「……あの証言、見事だったな。君、名前は」
「ハイゼル子爵家のリゼットです。お忘れになって結構です」
「忘れるわけないだろう。あの場で取り巻きに囲まれた聖女の前に立てる人間は多くない」
「立ち上がりたくて立ったわけではないのですけど…」
「そういうところが面白いんだ」
面白がらないでほしい。本当に…。
私は前の人生と今の人生で、ひとつだけ学んだことがある。
モブでいるつもりでも…知っていて見ないふりをすることだけはできないのだと。
それは別に、正義感なんて立派なものじゃない。
ただ、二度目の人生で同じ後悔をするのが嫌だっただけ。
でも、おかげで今の私には友人がいる。
命の恩人だと言ってくれる人がいる。
毎日のお弁当が妙においしい。
……でも、私はただ静かに暮らしたいだけなんだけどな。
聞こえていますか、神様!私をモブに戻してください!!
二周目のほうが忙しくなるなんて、聞いてないんですけど!
【完】




