復興〜クローザー・トゥ・ザ・ハート〜
朝靄の腫れ上がりつつある木立の中。
一本の木の根本に横たわる幼い子供。
穏やかに差し込む陽の光。
幼児に朝の祝福をおびた雫が一滴、二滴。
淡い光に包まれゆく幼児はうっすらと目を開く。
身体を起こした幼児は周囲を見回す。
木立の中の轍。
癒しの笑みを浮かべる幼児。
轍を風の音しか無い荒廃の街へと幼児は進む。
幼児の背には淡い光が。
一対の翼のようにひろがった。
◇
荒廃した領都。
その真ん中で茫然と佇む一人の男。
領主は、どこから手をつけて良いのか何も思い浮かばない。
立ち尽す彼の足下には、いつの間にか淡い光が。
(最初の一歩を踏み出さないと)
彼の心に不意に湧き上がるメッセージ。
(かつて思い描いた理想を現実に)
彼はかつて夢見た理想を思い出す。
様々なしがらみによって諦めていた夢を。
今なら出来るのか?
彼の目に光がともる。
その淡い光は彼の心に寄りそってゆく。
その淡い光は彼に心の内の理想を気付かせてゆく。
◇
瓦礫となったかつての工房。
目の前の現実を受け入れられない老夫が地べたに蹲まる。
鍛冶職人は工房の惨状に絶望の沼に沈んでいた。
打ち拉がれた彼の横には、いつの間にか淡い光が。
(こんな時だからこそ腕を揮わなくては)
そんな考えにはっとする彼。
(磨いてきた腕と技術が今こそ必要とされている)
彼は修行と研鑽の日々を思い出す。
何のためにあの日々を送ったのか。
彼はやるべき事の大きさ重さに奮い立つ。
目の前の工房の立て直しなど些細な障碍だ。
その淡い光は彼の心に寄りそってゆく。
その淡い光は彼に心の内の矜持を気付かせてゆく。
◇
朝靄を払うように光条が差し込む大地。
遠くから微かに聞こえる鐘の音。
誰の耳にも聞こえない鐘の音。
だが耳を澄ました人の心に響く鐘の音。
幼児の慈愛の瞳は領都郊外へと向けられた。
◇
燃やし尽され荒し尽された畑。
その大地に身を横たえる一人の男。
農夫の何も映してはいない二つの瞳は抜けるような青い空に向けられていた。
全てを失なった彼の目の前を横切る淡い光。
(何故畑を耕すのか? 糧を得るため?)
彼の脳裏に疑念が浮かぶ。
(生命を育むためには畑が必要……)
彼は上半身を起こす。
荒れ果てた大地に生えるものはまだない。
ここに生命を。
彼の視線は大地の先の未来を見据える。
その淡い光は彼の心に寄りそってゆく。
その淡い光は彼に心の内の希望を気付かせてゆく。
◇
領主は領地の未来を描き始める。
彼が思い描いていた理想の領地を。
それを実現するための第一歩を踏み出す。
鍛冶職人は工房の再建に奔走する。
彼の技術を人のために。
領の未来を形作るために。
農夫は大地に鍬を振り降ろす。
種の目処はまだ無い。
それでも大地を耕す。
いつか種が必要とする畑を作るために。
◇
領地を空から見下ろす淡い光の翼をひろげた幼児。
幼児は眼下の人びと全てに淡い光を降り注ぐ。
(自分の足で立ち上が勇気が持てたなら)
(ボクは君の行く道を照らそう)
(君が自分の人生を切り開けるように)
その淡い光は人の心に寄りそってゆく。
その淡い光は人に心の内の理想を気付かせてゆく。
その淡い光は人に心の内の矜持を気付かせてゆく。
その淡い光は人に心の内の希望を気付かせてゆく。
◇
領主は領内の視察に東奔西走した。
現状をつぶさに観察しては復興計画を練っていった。
鍛冶職人は炉を作り直した。
焼け残った鍛冶道具を拾い集めた。
鉄屑を貰い受けては新たな道具を、部品を鍛えていった。
農夫は一心不乱に大地を耕した。
荒地を駆逐する勢いで。
彼等の行動はやがて周囲の人びとを巻き込んでゆく。
領主の周りには領官達が集う。
彼等は復興計画をより柔軟で精密なものへと仕上げてゆく。
練り上げられた計画はやがて国を動かしていく。
鍛冶職人の行いは同業者の職人魂に火をつけた。
その火は建設にかかわる者達へと飛び火していく。
次第に高まる炎は復興計画が発表されるやいなや爆発した。
一人黙々と耕し続ける農夫の姿に、他の農夫達は一人また一人と鍬を手にする。
彼等はただ黙々と大地を耕し続ける。
何時かこの地を生命で溢れさせるまで。
今や領地は様々な音で溢れていた。
資材を運ぶ荷馬車の音。
杭を打つ槌の音。
鉄を鍛える音。
土を掘り返す鍬の音。
復興のための人が集まればそれを支える人も増える。
賄いを作る音。
洗い物の音。
生活のリズム音。
人が集まれば交流が増える。
噂話。
笑い声。
怒鳴り合い。
酔っ払い。
様々な音で溢れる領地に、諦めや絶望の音は無かった。
◇
十年後。
領都の中央広場。
美しく整然とした建物に囲まれた中央広場には様々な屋台が立ち並ぶ。
老いも若きも男も女も。
この一日を心から楽しむ。
今日は復興の第一歩を踏み出した記念日。
皆、この十年のお互いの働きを讃え合う。
その顔には理想と、矜持と、希望しかない。
絶望や諦念はひとかけらも無かった。
やがてその宴に軽快な音楽が加わった。
リズミカルな音に合わせ人びとは踊り始める。
領主も。
鍛冶職人も。
農夫も。
皆踊る。
その踊りはいつまでも、いつまでも続いた。
その踊りは夜通し続いた。
淡い光の翼の子供は空からその様子を楽し気に眺めていた。
終
お読み下さりありがとうございます。
後書きで言うのも何ですが、私事都合により当分の間、投稿お休みします。




