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メープル

作者: をりふで
掲載日:2026/01/11

 三年近く暮らしている茶色の猫は、甘い匂いがする。

 どこかで嗅いだ匂いだ。

 記憶を手繰り寄せようと、もう一度猫に顔を近づける。

 ぷにっと顔に肉球の感触がした。

 これ以上嗅ぐのを猫に止められる。

 猫は私の手から抜け出すと、カーテンの内側へ行く。

 なんだよ。

 自分から構ってくれと来るのに。

 こちらから構うと嫌がる。

 ……そんなところも、可愛い。

 飼い主バカとは、よく言ったものだ。

 私が嫌なことがあって落ち込んだ時、猫は寄り添ってくれた。

 嬉しさも相まって涙を流す。

 泣き止むまで猫はいてくれた。

 元気になったら、励ます必要はないと思われたらしい。

 距離感が戻って、少し寂しく感じた。

 私が落ち込む度、猫は寄り添う。

 何度も心を癒してくれている。

 猫に限らず、動物は人間の感情に敏感なのだろう。

 

 休日、友人と喫茶店に行った。

 私と友人は同じパンケーキを注文する。

「うちの猫、甘い匂いがするんだよね」

「へえ、どんな?」

「どこかで嗅いだ匂いなんだけど、わからないの」

「そのうち、わかるんじゃない?」

 友人は軽い調子で言った。

「このまま一生わからないかもしれないのに」

「でも、三年経ってから気づくこともあるんだ」

「最近、猫の匂いを嗅いだんだよね」

「猫ちゃん、嫌がらない?」

「抵抗される」

「大丈夫なの?」

「いいよ。可愛いから」

「私も動物飼おうかな」

 しばらくすると、店員が注文したものを持って来た。

 二枚重なったパンケーキの上にバターとはちみつ、白いふわふわの生クリームが添えられている。

 ふわりと漂う甘い匂い。

 あ。


 帰宅すると、私のベッドの上に猫はいた。

 穏やかな寝息を立てている。

 呼吸に合わせて、茶色の毛が上下に動く。

 本当に、よく眠るな。

 寝違えたりしないのだろうか。

 目を閉じた猫の顔を見る。

 寝ていても、やっぱり可愛い。

 優しく撫でたら、ゴロゴロと音がする。

 猫の首の後ろに顔を近づけた。

 甘い匂いがする。

 猫は起きて、アーモンド形の目をこちらに向けた。

「ただいま」

 私は愛猫の名前を口にする。

 

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