第4話:小さなルゥ
「ちっちゃい……」
セレナは、手のひらに乗ったルゥを見つめて、何度もそう呟いた。
ルゥは、翼をぱたぱたと動かしながら、セレナの指先に鼻先を寄せてくる。
その仕草は、いつもの威厳ある空竜とはまるで別物――まるで、ふわふわのぬいぐるみのようだった。
「かわいすぎて、どうしよう……」
セレナは頬を緩め、ルゥをそっと胸元に抱き寄せる。
「魔力の密度を調整するだけで、こんなに変わるんだな」
レオニスが隣で感心したように言う。
彼の指先には、フィンから渡された魔法式のメモが握られていた。
「フィンの魔法、やっぱりすごいね」
セレナが言うと、ルゥが小さく鳴いた。
それは、誇らしげな音だった。
---
村の広場では、子どもたちが集まっていた。
セレナが小さなルゥを連れて歩くと、歓声が上がる。
「わあ! ちっちゃいドラゴンだ!」
「ふわふわしてる! 飛んだ! 飛んだよ!」
ルゥは、子どもたちの頭上をくるくると飛び回り、時折小さな風を巻き起こす。
その風に花びらが舞い、子どもたちは笑いながら追いかけた。
「ルゥ、人気者だね」
セレナが笑うと、レオニスが少しだけ肩をすくめた。
「君が抱いてる姿も、なかなか絵になるよ。
王妃というより……優しいお姉さんみたいだ」
「それ、褒めてる?」
セレナが少し頬を染めると、レオニスは静かに笑った。
「もちろん。僕は、君のそういうところが好きだ」
その言葉に、セレナは少しだけ目を伏せた。
ルゥが胸元で丸くなり、静かに鳴いた。
それは、照れ隠しのような音だった。
---
夕暮れ。
セレナとレオニスは、村の丘に並んで座っていた。
小さなルゥは、セレナの膝の上で眠っている。
「この村、静かでいいね」
レオニスが言う。
「うん。王都の空も好きだけど……
ここは、風が優しい。空が、近い気がする」
「君が空翔ける者だから、そう感じるのかもね」
セレナは、ルゥの背をそっと撫でながら言った。
「この子が小さくなっても、絆は変わらない。
魔法って、不思議だけど……温かいね」
レオニスは、セレナの横顔を見つめながら、静かに頷いた。
「君とルゥがいる空なら、僕も信じられる。
この国の未来も、きっと――優しくなれる」
風が吹いた。
それは、小さな翼を包む、穏やかな風だった。