第3話:魔法修行の日々
フィンとの出会いから一夜明けて、セレナは村の外れにある小さな丘へと向かった。
朝露に濡れた草を踏みしめながら、ルゥが軽く翼を広げて空気を確かめる。
レオニスも後ろから歩いてきて、手には魔術院から借りてきた魔導書があった。
「フィンは本当に来るのかな」
セレナが呟くと、ルゥが小さく鳴いた。
それは、期待と少しの警戒が混ざった音だった。
すると、丘の頂にある一本の木の陰から、ひょっこりとフィンが現れた。
昨日と同じ少年の姿。けれど、その瞳には、三百年分の知識と余裕が宿っていた。
「おはよう。よく来たね。さあ、始めようか。魔法の時間だ」
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フィンの魔法修行は、驚くほど実践的だった。
まずは、魔力の流れを“感じる”ことから始まった。
「魔力は、頭で考えるものじゃない。
風を感じるように、肌で受け止めるんだ」
セレナは目を閉じ、ルゥの背に手を添えた。
すると、ルゥの体内を流れる魔力が、微かな鼓動のように伝わってきた。
「……これが、共鳴の源?」
「そう。君の魔法は、絆を媒介にしてる。
だから、相手の魔力を“尊重”することが何より大事なんだ」
レオニスは少し離れた場所で、補助魔法の練習をしていた。
フィンが渡した魔導具を使い、魔力の精度を高める術式を試している。
「王宮では、力を制御することばかり教えられた。
でも、ここでは……魔法が呼吸みたいだ」
フィンは笑った。
「魔法は、日常を豊かにするためのもの。
戦うためだけじゃ、もったいないよ」
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昼過ぎ、フィンは魔法陣を描きながら言った。
「さて、今日はちょっと面白い魔法を見せよう。
ルゥ、ちょっとこっちに来てくれる?」
ルゥが首をかしげながら近づくと、フィンは指先で軽く空をなぞった。
すると、魔法陣が光り、ルゥの体がふわりと浮かび――
次の瞬間、ルゥは手のひらサイズになっていた。
「……えっ」
セレナは思わず声を上げた。
小さくなったルゥは、羽ばたくたびに花びらのような風を巻き起こし、
セレナの肩にちょこんと乗った。
「かわいい……!」
セレナは頬を緩め、ルゥをそっと抱き上げる。
フィンは笑いながら言った。
「この魔法は、魔力の密度を調整してサイズを変える術式。
ただし、使いすぎると疲れるから注意してね」
レオニスも目を見張っていた。
「これは……王宮でも見たことがない。
君の魔法、どこまで応用できるんだ?」
フィンは肩をすくめた。
「魔法は、使う人次第。
君たちなら、もっと面白いことができるよ」
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その日、セレナは小さなルゥと一緒に村を歩いた。
子どもたちは歓声を上げ、村人たちは微笑みながら見守った。
魔法は、戦うためだけじゃない。
誰かを笑顔にするためにも使える――
セレナは、そう実感していた。