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数日、アスミは裏の仕事である目的人物の行動範囲の張り込みと監視を行い、その人物のタイムスケジュールを1週間ほど作っていた。ターゲットとなる人物は、一日ごとに全く違う動きをしたため、規則正しい生活はしていない人間だった。仕事が忙しい職種なため外歩きが多く、かなり尾行した。仕事以外のプライベートの時間もはりこみ、ある程度その人物の性格を知ることができた。


報告を目黒にし、一息ついた時だった。カランという入り口のベルの音がなり、来客が来た。急いで振り返ると、「やあ」と手をヒラヒラさせて軟派な男八木橋が入ってきた。


「駅前の新しくできたドーナツ屋さんで買ってきたから食べてよ。アスミちゃん久しぶり、元気だった?」


四日ぶりの再会だった。あのあと、八木橋からは連絡が来ることもなく、平和な毎日を送っていた。またこの男は私にちょっかいをかけるのか。


「目黒さんが好きそうなドーナツ買っといたよ。アスミちゃんは何が好きなの?」


「私は太るの嫌だから食べない」


え、と八木橋は口を開けて某然とした。アスミは体型を維持するためにカロリーが高く、栄養価がないものは食べない。


「君は健康志向なのか」


「まあ…」


「豆腐とか好きそうだね」


なんなのだ、この会話は。咳払いをして会話を切り上げる。


「なんだ。かってきた意味ないじゃないか。そこは嫌でもありがとうってもらうもんだよ。せっかく買ってきたのになあ」


八木橋は早々買ってきたドーナツにかぶりつくと、ポロポロとこぼしながら応接室のソファで食べていた。

それを白い眼差しで眺めながら、スマホを確認する。


着信が2件来ていた。どちらも若竹だった。何かしたのだろうか、LINEにも連絡が入っていたので、中身を見てみる。


「勅使河原が死んだ」


その一文が飛び込んだ。勢いよく針で刺されてできたような寒気を感じた。


「え…」

と飲み込めない状況に頭をフル回転させる。

勅使河原が死んだ?なぜ?


事務所だが、そんなこと言ってられない。すぐに勅使河原に電話をかけるがずっと呼び出し音が鳴るだけで出る様子がない。


急いで、若竹に電話する。


「勅使河原さんが亡くなったってどういうこと?」


若竹は一段と静かな声で話した。


「殺されたのかもしれない。分からないけれど、彼は死んだ。3日前から連絡がつかなくて、店にもこなかったんだ。奇妙に思って、彼の家にも行ったらいなくておかしいと思って警察に届け出を出したんだ。そうしたら、今朝山奥で見つかったらしい」


「殺された?」

考えられるのは、少女の孤児院の職員だ。あいつが彼のことを恨んで、殺してしまえばこの問題も解決するも思って殺したに違いないと思った。


「誰が殺したかは分かっていない。やつは無職だしな、そのままふらふら歩いてて、リンチされた可能性だってないわけではないんだ」


「違うよ、絶対孤児院の職員よ」


「決めつけはよくない」


強い口調で言われた。彼がこのように言うことは珍しいことだった。


「証拠がなければ、確実なことは言ってはいけない。たとえ、やってそうに思えても違うことがあるから」


そのまま電話が切れる。もう動くなということにも聞こえた。勅使河原が動きすぎて殺されたとしたら、後を追うようにアスミも捜索してしまえば、二の舞いになるのかもしれない。だが、黙ってみていられるか。


「アスミちゃん、どうしたんだい?」


八木橋がアスミの顔に浮かぶ汗とゆがんだ表情に異常を感じて心配して声をかけてきた。アスミはもつれる舌で、知人が殺害されたことを説明した。


「大丈夫かい、とても顔色が悪くなったよ、ちょっと休んだほうがいいんじゃないか」


八木橋が矢継ぎ早にに彼女に問う。優しい声音で、背中を擦ってくれる。甘い手助けだった。


「私も行かなくちゃ」


「どこに?」


「あの孤児院に、そうしないと女の子が危ないから」


「やめなって」


「勅使河原さんがやったことは間違ってない。ここで知らないフリをしたら、彼の死は無駄になるし、女の子が平気なわけない」


「ヘタに首突っ込むと自分が危険な目に会うよ。相手は人を殺すことも躊躇しない俺みたいなやつかもしれない。そんなやつに狙われたら、君だって無事ではいられない」



「トラブルを起こすようなら解雇だ」


低くよく通る声で、黙っていた目黒が初めて声を上げた。有無を言わせない迫力がある。


「ほら、目黒さんもそう言うんだからここは冷静になろうよ。ドーナツ食べて一息つきなって」


アスミは、その場で複雑な気持ちになりながら再び椅子に座った。


「アスミちゃん気分転換に議論でもしようよ。セックス談義だ!」


「そんな気分じゃない」


吐き捨てるように言った。八木橋を軽蔑のまなざしで睨みつけた。


「そんなぁ…。君とこの前会った時もいい雰囲気だったのに。俺は君ともっと楽しいことを話したいよ。好きな体位とか、好きなプレイとか」


「一人でやって」



「俺がセックスのことしか話せないって知ってるでしょ?もうちょっと話の話題を俺似合わせれるようになれればいいのになあ。そうすれば君はもっと魅力的になれるよ」


「都合よくなるだけでしょ」


「あーあ、アスミちゃんは相変わらずオレに冷たいから、今流行りのパパ活でもいってくっかなあ。かわいい女の子連れて、男どもに自慢してこようかなあ」


「いってらっしゃい」


「アスミちゃん、オレとパパ活しようよ!

一万で飯おごるよ。その後もよろしくね」


「…」


「パパ活やってもいいんだけどさー、みんな飯食って金もらってスタスタ帰ってくんだよ。俺がせっかくセックスの話ふってんのにみんなフルで無視するし。ホント怖いよね。金もらって飯食うだけで、俺ってなんなんだろうって思う。優しい子は居ないのかな」


「…」


「かわいい子なのにさ、全然セックスの話に食いついてこないんだよ。そんなの知りませんみたいなさ、みんな絶対好きだと思うのに、隠してるみたいでさ。なーんか面白くないよね」


「…」


「アスミちゃんはさ、俺がほかの子とセックスするとするじゃん?嫉妬とか感じる?」


「感じない。早く性病なって痛い目見ればいいって思ってる」


「酷いなあ。そこは思ってなくても、感じちゃうって言ったほうがかわいいのに。俺がついてるなんてほんとお得だからね。背後にスナイパーついてるようなもんだよ」


「性病になれば、うるさいのも止まる気がして」


「俺は寂しがりやで、何か話してないと寂しくってしょうがないんだよ。セックスするときは静かなんだけどね」


「そうだ!アスミちゃん、今度乱交パーティーに参加しようよ。安いところで15000円くらいの参加料なんだけどさ、俺もけっこう行ったりしてるんだ。絶対君が参加したら男どもが群がるからいい気分になると思うよ」


「行かない」


「なんで?君の美貌がもったいないよ。皆にかわいがってもらったほうがもっと魅力的になれるよ」



「いいの」


「アスミちゃんってさ、好きな男いるの?」


「いないよ」


「ならいいじゃん。男旱になってるなんてだめだよ。水を与えて、どんどん魅力的にならないと」


「迷惑よ」


「あー、ここで全裸になってセンズリしたいよー。

今日のおかずはアスミちゃんだ」


「…」


「俺って凄くてさ、君の仕事姿見るだけで3回は射精することできるんだ。裸になればもっとなんだけどね」


「…」


その時、目黒が立ち上がった。上着を持って、ベストとシャツ姿でかばんを準備していた。


「連城、少し出かけてくる。頼むな」

一瞥してから目黒は事務所からでて行こうとする。八木橋が、目黒にしきりにドーナツを勧めていたが無視されていた。この男と二人きりはとても疲れる。


「私も外出してきます」


目黒は振り返っていう。


「事務所に残っていてくれ」


心のなかで舌打ちをする。八木橋と2人きりになると、彼は何をしてくるかわからない。能天気に話しているが、いつでも全裸になって自慰をしかねない雰囲気がある。このうっとうしい男をどうにかしなければいけないという仕事が増え、うんざりする。


「二人っきりだね」


八木橋が目を輝かせながら言ってくる。片手には自分の買ってきたドーナツをつかみながら、今度は目黒の椅子に座ってもぐもぐとドーナツをほおばっている。


「それにしても、あんな怒んなくてもいいのにね。アスミちゃんが優しいから殺された男なんかの敵をとろうとしたら目黒さんが解雇するなんて言って脅してさ。ひどいよね、そういうときは俺の胸に飛び込んでいいんだよ」


「…」


「俺が、君のかたきを討とうか?」


八木橋の声音が変わる。真剣なトーンだ。


「俺は別に殺されようが捕まろうが、どうでもいいって思っていつも暮らしてるからさ、君がやるよりもずっといいと思うよ。アスミちゃんがかかわるより俺のほうが殺す場所とか隠し方とかちゃんとするからさ、これでも殺し屋だし」


「でも…、本当に孤児院の職員がやったか分からないから」


「そいつ、女の子に手出してるんでしょ?なら、どうにかしてそいつを追放させないと。こういう時こそ、俺を利用しなきゃ」


「でも、今度はあなたが狙われるかもしれない」


「その時はその時だよ。死ぬときは来るときはくるし、俺は毎日好きなことやってるからいつ死んでもいいって思ってるからね」


「でも…」


八木橋も殺されるかもしれない。彼はプロだと言っても、相手もプロだとしたら容赦しないだろう。自分がかかわったせいで、八木橋に被害がいくのを考えると、何もしないことが正解のような気もしてくる。


「せっかく、こんな俺を使ういいタイミングなのに、使わないなんて、ハサミを使うところで手でちぎるようなもんだよ。いい女は男を都合よく使わなきゃ」


八木橋が白い歯を出して笑う。


「でも、あなたがほんとに死んだら私には責任がとれない。そこまですることはないのかもしれないし」


「心配することないよ。俺が死んでも敵なんて取らなくていいことは言っておくよ。俺はそんな弱くないからね」


八木橋が再び真剣なトーンになった。


「俺もその殺された男と同じ考えだよ。小さい女の子に手出す大人は黙って見過ごせないな」

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