表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

「気をつけて帰ってね、俺が家までついていこうか」


八木橋が眉を下げながら尋ねてきた。アスミは途中で寄る場所があるからと断り、彼と別れた。

夜道はしんと静まりかえっていて、おぼろげな人の姿も見えない。足早に自宅に戻るが、途中でコンビニに寄り食べ物と飲み物を買った。


スマホを見ると若竹から連絡があった。LINEを開くと、


「勅使河原の馬鹿がトラブルを起こしたらしい」


と一言綴られていた。

昼の勅使河原の様子を思い出す。思い立ったが吉日というような勢いのある性格。それは勢いがあるという長所とトラブルメーカーという短所を兼ね備えているらしい。


「本人は大丈夫なの?」


返信するとすぐに返事があった。


「ケガとかはしていないが、少女が過ごしている孤児院に乗り込んで直接話をしたらしい。例のイタズラをしてる職員に」


アスミは顔を歪めた。直接行けば、一悶着起きるのは絶対だ。疑惑の職員はやってないの一点張りだろうし、その証拠ははっきりしていない。無謀と言えばそうだが、相手の反応を見ることができる。


「否定されただろうね」


「案の定、そのとおりだったらしい。職員が警察を呼んで無理くり帰らせたらしい」


次の行動を起こせなくなってしまったわけだ。彼の行動により少女が危険な目に晒されるかもしれない。彼の行動は短慮だったのだろうか。しかし行動を起こさなければ、少女は毎日のように加害されていた可能性がある。勅使河原が動いたおかげでその職員が危機感を感じて、加害行為を一時的にやめるかもしれない。

だが一時的だ。次がないわけではない。早急に証拠を見つけなければ、最悪証拠を抹消されてなかったことになるかもしれない。少女の精神的なダメージもケアしていかなければいけないだろう。やることは山のようにある。


「勅使河原さんに直接話を聞きたいんだけど、番号知ってる?」


若竹に番号を教えてもらって、すぐに勅使河原に電話する。


「はい、勅使河原」


快活な張りのある声が聞こえた。


「あの、今日一緒に喫茶店に行ったアスミですけど、急にごめんなさい。勅使河原さんの番号を若竹くんに教えてもらってかけたんです。話は聞きました。大丈夫ですか?」


「ああ!あなたでしたか。大丈夫ですよ!あのあと、孤児院に向かって話をしに行ったんですよ。そしたら例の女の子に手を出したらしい中年の男性職員がいましたね。彼に問い詰めたんです。あなた少女に手を出してるでしょうって。そしたら青ざめた顔をして慌てて、否定するんです。あいつは絶対やってますよ、反応でわかる!」


勅使河原の勢いのある声が言った。彼はその男性職員が少女を性加害したと確信したらしい。実際に反応を見たのは大きいだろう。相手の動揺や動作の違和感に気づくことができる。不正を嫌う彼ならば、すぐに違和感に気づいたはずだ。


「でも警察に邪魔されたって」


ああと勅使河原の声のトーンが下がる。


「もう片方の職員が僕が入ってきたのを不審に思って警察に電話したんですよ。そうして僕は無事に…、帰ったわけですけどね。警察にも話したんですよ。あの男は子供に性加害してるって。でも証拠がないってことで聞いてもらえないんですよ。今思い返してみれば、もっといいやり方があった気もするけれど、正々堂々問いただした時の相手の反応をみたいと思いましてね。でも、女の子にとっては最悪だったかもしれない。だからまた明日行こうと思って。早くあいつを追放させないと、少女が危ない」


「あなたも危ないですよ、私も行きます」


「いや大丈夫です、あなたはお仕事があるでしょう?無職だからこそ、できることなんですよ」


「でも…」


「大丈夫。何かあったら警察に言いますから」

ニッコリと笑ったような声で勅使河原は歯切れよく言った。アスミは心がざわざわする予感を感じたが、無理くり振り払うと、


「無事に少女を救えるように祈ってます」

とカラッとした声で応援した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ