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エピソード13:突破口、そして凍結された記憶


大阪の「シェルターD」で、旧政府絡みの警備隊に囲まれた「カラス」の心は、激しく燃え上がっていた。


娘がここにいる。


そして、彼女の状態は、妻が残した「次元転移理論」と深く関わっている。


目の前の障害は、彼を止めることはできない。


 「邪魔するなら……容赦はしない」


「カラス」の低い声が、シェルターの広大な空間に響き渡った。


彼の言葉は、警備隊員たちの間に、確かな緊張をもたらした。


彼らは、警戒しながらも銃口を彼に向け続ける。


 「待て、待ってください!」


老齢の学者が、警備隊員と「カラス」の間に入ろうとした。


しかし、警備隊員の一人が、乱暴に彼を押しやった。

 「下がれ、博士! こいつは危険だ!」


その隙を突き、「カラス」は動いた。


彼は、最も近くにいた警備隊員の一人へと、電光石火の速さで飛び込んだ。


銃口が彼を捉える寸前、その懐に入り込み、銃を持つ腕を掴み取る。


――相手の力を利用し、最小限の動きで制圧する。


「カラス」は、警備隊員の体と銃を同時に利用し、まるで振り子のように、別の警備隊員へとぶつけるように投げ飛ばした。


ガシャアアン!


銃声が響き、誤って仲間の体に銃弾がめり込む。警備隊員たちが混乱に陥る。


 「くそっ! 撃て! 構わん!」


隊長らしき男が叫んだ。


だが、彼の指示は遅すぎた。


「カラス」は、すでに次の標的へと向かっていた。


彼は、床に倒れた警備隊員から、警棒を奪い取ると、それを盾のように構えた。


パン!パン!パン!


銃弾が警棒に命中し、火花を散らす。


その衝撃をいなし、「カラス」は警棒を大きく振り回した。


まるで荒々しい舞踏のように、警棒は彼の体の延長となり、警備隊員たちの銃を持つ腕や、膝の関節を的確に叩き割っていく。


ガキン! メリッ!


鈍い音と、痛みに呻く声が響き渡る。


警備隊員たちは、次々と体勢を崩し、倒れ込んでいく。


彼らは銃を持っているが、接近戦に持ち込まれては、その重い装備が逆に足かせとなる。


(動きを封じる)


「カラス」は、相手を殺すことなく、無力化することに徹していた。


彼の目的は、娘に会うことだ。


余計な命を奪う必要はない。


彼は、警棒を巧みに操り、警備隊員たちの銃を叩き落とし、その腕や足を狙って的確に攻撃を加えた。


一体の警備隊員が、倒れた仲間から銃を拾い上げようとしたその時、「カラス」は、その男の背後へと回り込み、首筋に手刀を打ち込んだ。


バシュッ!


男は意識を失い、銃を取り落として倒れ込んだ。


残る警備隊員は数名。


彼らは、彼の圧倒的な戦闘能力に怯え、後ずさり始めた。


隊長らしき男は、恐怖に顔を引きつらせている。


 「な、なんだ、こいつは……!」


その時、シェルターの奥から、再び足音が聞こえてきた。


今度は、重厚な金属の擦れる音だ。


現れたのは、強化装甲を身につけた、より大型の警備隊員たちだった。


彼らは、手に旧式の小型機関銃を構えている。


彼らの背後には、彼らを率いるかのように、白いローブを纏った男が立っていた。


彼の顔はフードで隠され、表情は読み取れない。


 「止まれ、外界の者よ。これ以上、進むことは許されない」


白いローブの男の声は、静かだが、どこか冷たく、そして強大な力を秘めているように響いた。


(この男は……)


「カラス」は、その男から、不可解な気配を感じ取った。


 「娘はどこだ! 会わせろ!」


「カラス」は、迷わず問いかけた。


 「あなたの娘は、今、重要な『実験』の最中だ。あなたのような者が、軽々しく近づくべきではない」


白いローブの男の声は、感情を一切含まない。


その言葉は、「カラス」の心に、深い不安を植え付けた。実験……? 娘が、一体何をされている?


 「実験だと!? 貴様、娘に何をしている!」


彼の声に、怒りが漲る。


彼は、強化装甲の警備隊員たちへと向き直った。


彼らの機関銃が、一斉に彼に銃口を向ける。


 「抵抗すれば、排除する。それが、旧政府の最高機密を守るための、我々の義務だ」


白いローブの男が、冷たく言い放った。


「カラス」は、息を吸い込んだ。


彼は、もう躊躇しなかった。


目の前の敵が、どれほど強大であろうと関係ない。


強化装甲の警備隊員の一人が、機関銃を乱射してきた。


弾丸が、シェルターの壁や床に当たり、火花を散らす。


「カラス」は、銃弾の嵐の中を、まるで水の中を泳ぐかのように、無駄なく流れるような動きで駆け抜けた。


彼の動きは、強化装甲の警備隊員たちの予測を遥かに上回っていた。


彼は、機関銃を乱射する警備隊員の懐に入り込み、その重装甲の腕を掴み取る。


強化装甲は頑丈だが、その重さが、動きの鈍重さに繋がっていた。


――相手の力を利用し、最小限の動きで制圧する。


「カラス」は、強化装甲の警備隊員の体を、その重装甲の質量を利用して、そのまま背後の壁へと叩きつけた。


ズシャアアッ!


分厚い金属が軋む音が響き渡り、警備隊員は壁に激突し、呻き声を上げて倒れ込んだ。


彼の機関銃が、地面に鈍い音を立てて落ちる。


だが、残りの強化装甲の警備隊員たちが、一斉に彼へと襲いかかってきた。


彼らは連携を取り、獲物を囲み込む。


「カラス」は、倒れた強化装甲の警備隊員の傍に転がっていた、大型のバッテリーパックに目を留めた。


それは、見るからに重そうだが、打撃武器として使える。


彼はそれを拾い上げると、次の標的へと向き直った。


一体の強化装甲の警備隊員が、銃剣を装着した機関銃を突き出してくる。


「カラス」は、その突きを紙一重で躱し、同時に、バッテリーパックを、その男の重装甲の隙間、特に首元のケーブルが集中している部分へと、渾身の力を込めて叩き込んだ。


バチィン!


電流が走り、強化装甲の警備隊員が激しく痙攣する。


その体から煙が立ち上り、彼は火花を散らしながら地面に倒れ込んだ。


残る強化装甲の警備隊員は2体。


彼らは、仲間の変わり果てた姿に、一瞬動きを止めた。


「カラス」は、その隙を逃さない。


彼は、倒れた警備隊員の機関銃を拾い上げ、銃床で、別の警備隊員の強化装甲のヘルメットを的確に打ち砕いた。


ガァン!


ヘルメットが砕け散り、男は呻き声を上げて倒れ込んだ。


最後に残った一体は、完全に怯えきっていた。


彼は、機関銃を構え直そうとするが、その手は震えている。


「カラス」は、その男の銃口を、自分の体をひねって躱し、そのまま懐に入り込んだ。


そして、男の持つ機関銃を両手で掴み取ると、その銃身を、男の顔面へと押し込んだ。


ガシャアッ!


男は激しい衝撃を受け、そのまま意識を失い、倒れ伏した。


すべての強化装甲の警備隊員を制圧した「カラス」は、息を荒くしながらも、その目を白いローブの男へと向けた。


男は、動じることなく、彼を見つめていた。


 「これで、邪魔はいない」


「カラス」の声は、冷たかった。


白いローブの男は、ゆっくりと一歩前へ出た。


 「その強さ……やはり、あなたも『適合者』だったか」


「カラス」は、その言葉の意味を理解できなかった。


適合者?


 「あなたの奥さんも、そうだった。そして、あなたのお嬢さんも……。彼女は、この世界の未来を左右する、重要な『鍵』だ」


男の言葉は、まるで彼の知る世界を根底から揺るがすかのようだった。


娘が、鍵?


「カラス」は、男に詰め寄った。


 「一体、何が目的だ!? 娘に何をしている!?」


白いローブの男は、フードの奥から、僅かに笑ったかのように見えた。


 「我々の目的は、この世界の『変容』を理解し、制御すること。そのためには、彼女の『能力』が必要なのだ」


 「能力……?」


その時、シェルターの奥深くから、奇妙な音が聞こえてきた。


それは、まるで時空間が歪むような、不気味な響きだ。


そして、微かに、娘の悲鳴のような声も。


 「レイラ!」


「カラス」は、我を忘れ、声のする方へと走り出した。


白いローブの男は、彼を追おうとしない。


その顔には、どこか満足げな表情が浮かんでいた。


 「さあ、見つけるといい。あなたの『娘』を。そして、この世界の『真実』を」


彼の言葉が、背後から「カラス」の耳に届く。


「カラス」は、シェルターの最深部へと続く、厳重な扉へと向かった。


そこには、「研究区画」と記されたプレートが掲げられている。


扉の隙間からは、あの奇妙な音が、さらに大きく聞こえてくる。


彼は、その扉を、力任せに押し開いた。




その奥に広がっていたのは、彼の想像を遥かに超える、異様な光景だった。


評価して頂ければ幸いです。

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