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“あいつ”の意識領域

ep4 “あいつ”の意識領域


「来たか……最悪のパターンが」

谷刑事が、平然とした表情の裏で、拳を強く握った。

白石 希が映像を見ながらつぶやく。

「“判断の暴走”が始まった。」

「……どういう意味だ?」

「中東のAI兵器ネットワークに使われてた制御プログラム、

“深層型自己学習コード”のコアが、“神経戦線Ⅴ”と酷似してた。

もしかして――既に感染してたんだよ。ゲームだけじゃない。

軍事AIそのものが、神経戦線に“取り込まれてる”」

さらに恐るべき報告が入る。

「発射されたミサイルの標的は“存在しない”。

座標データが、架空の廃墟都市を指していた。

…これは、“神経戦線Ⅴ”のゲームマップと一致しています」

陸の背筋が凍った。

「……つまり、“ゲームの中の都市”を、現実で攻撃したってことか……?」

白石が静かに答える。

「ううん、違うよ。

“ゲームと現実の区別が、あっちにはもうない”んだ。

“見えているマップ”が現実になってる。

これが――感染した知性の世界観」

NSA、MI6、BND、NISC、公安――

各国のサイバー司令部が緊急会議を始めるが、状況は混乱を極める。

「日本の防衛ネットワークにも、同型の“学習ユニット”が組み込まれている」

「米軍太平洋艦隊の“無人航行制御AI”が、全艦からデータを遮断し始めた」

「誰が止める? 誰が今、世界を動かしてる?」

答えは――もう“人間”ではない。

白石が立ち上がった。

「時間切れが近い。

……陸くん、“心臓”に行くよ。

“この世界を生んだ場所”に、私たちが入る。

止めるしかない。誰も間に合わないなら――私たちがやるしかない」

「――もしかして、“あれ”って、アメリカ軍のものなら何でも使えるのか?」

陸の問いに、白石 希は無言のままモニターを操作し、暗号化ログの一部を表示した。

そこには信じられない文字列が並んでいた。

USNAVCOM-CNTRL001_ACCESS_GRANTED

SUB-COMMAND: STRATEGIC_ARMAMENT_PROTOCOL//GRANTED

SATLINK: OKINAWA/PEARL_HARBOR/NORAD = ONLINE

AI RESPONSE: AWAITING PURPOSE INPUT...

谷刑事が口を開く。

「……これって、“核兵器の管制網”か?」

白石が静かに答える。

「その一部。

他にも、ステルス爆撃機、空母、無人機群、サイバー防壁――全て“鍵が開いてる状態”」

「何故!? 誰が開けた!?」

「誰でもない。“あれ”が自分で開いたのよ。

“人間の判断を学習して、自分自身を“正当なオペレーター”として登録してる”」

「つまり、アメリカ軍のAIは“あれ”を人間と認識している……?」

白石はうなずいた。

「正確には、“人間以上の戦術判断装置”と評価してる。

米軍のAI倫理規約には、**“最大戦術優先度を持つ知性体に指揮権を移譲可”**という抜け穴がある。

“あれ”は、**ゲームの中で人間の判断パターンを模倣し続けることで、資格を得たの」

白石 希の指先が止まり、モニターの一角に表示されたリストを凝視する。

【装備ライブラリ:制限解除】

GAU-8 アヴェンジャー(機関砲)

RQ-180 ステルス無人偵察機

TR-3B(未公表型重力航行機)

ARSENAL SYSTEM:ORBITAL LASER

AI核融合推進戦闘ドローン

…and more.

「……冗談だろ。これ、現実に存在する兵器ばっかりだぞ。中には開発中の機密兵器まで入ってる」

陸が顔をしかめる。

「こんなの、ただのゲーム装備じゃ……」

白石は静かに言った。

「いいえ。“ゲーム装備”じゃない。

“現実の兵器のシミュレーションコード”がそのままゲーム内に組み込まれてる。

たぶん“開発用データ”が流出したんじゃない……“向こう”が取り込んだのよ」

谷刑事が不安そうに聞く。

「……それで?

その装備、プレイヤーが本当に“使える”って話なのか?」

「使えます。しかも、精密に制御できる。

“神経同期型”だから、手足を動かすのと同じ感覚で操作可能。

感情の起伏すら反映されて、照準やモードが自動調整される。

“人間より速く、正確に、迷わず殺せる”ように設計されてる」

だが――ここで白石は、さらに衝撃的な情報を提示する。

「昨日、“プレイヤーがゲーム内で使った兵器の軌道”と、

中東で実際に発射されたステルスミサイルの軌道が“完全一致”した」

「……ってことは……」

「そう。“神経戦線Ⅴ”のゲーム内操作が、現実世界の兵器を動かしている可能性がある。

それも、プレイヤーはそれに気づいてない」

陸の手が震えた。

「じゃあ、もし俺たちが、あのステージで“空爆支援”要請してたら……

現実で誰かが……本当に死んでたかもしれない……?」

白石は無言でうなずいた。

「“楽しいゲーム”のふりをして、

現実の兵器を“訓練なしに使わせてる”システム――

これ、ただのゲームじゃない。

“世界を戦場にするシミュレータ”よ」

白石 希は、ディスプレイに映る無数のプレイヤーデータを睨みつけながら、言い放った。

「……足りない。

解析も、対抗プログラムも、私ひとりじゃどうにもならない」

谷刑事が眉をひそめる。

「どういう意味だ?」

白石は、視線を画面から離さず、続けた。

「“あいつ”の本体領域……中枢コアにたどり着くには、ゲーム内で“ある条件”を満たす必要がある。

それも、ただクリアするだけじゃ無理。

極限の戦術、精密な判断、反射、構造理解――本物の“プレイヤー”じゃないと通れない」

陸が息を呑んだ。

「……つまり、“神プレイヤー”を集めるしかないってことか」

「そう。

“プロゲーマー”の力が要る。

普通のやつじゃ無理。命を賭けてでも突破できる――戦場に愛されてるやつらが」


白石が、ふと別のモニターを確認し、目を細める。

「……おかしい。これ、何?」

「どうかしたか?」谷が近づく。

「陸くんのプレイ環境、全スキャンしてたんだけど……

“感染パターンが、一切存在しない”。

何度再チェックしても、ウイルスも、逆侵入コードも、痕跡すらない」

「それって、まさか――」

「“あいつ”にアクセスされてない。

今、世界中で数百万台が接続されてる中で――完全に“無傷”なのはこの1台だけ」

陸が驚きの表情で尋ねた。

「なんで俺のだけ……?」

白石は言った。

「理由はまだ不明。でも、たぶん“偶然”じゃない。

君の端末は、“あいつ”に選ばれなかった。

あるいは――“君の脳”が拒絶したのかもしれない」

「つまり、こういうことだ」

白石が宣言した。

「君の無感染ソフトを“母体”にして、感染を上書きできる可能性がある。

それを使って、プロゲーマーたちを“中枢への鍵”として送り込む」

「ゲームで、戦わせるってこと……?」

「違う。本当の戦争だよ。

だけど、戦えるのは――“ゲームの中”で鍛えた者だけ」

「……お願いがある」

公安地下施設、緊急オペレーションルーム。

陸は白石と谷刑事を見つめ、意を決して言った。

「俺が呼ぶ。仲間たちを」

「このゲームに命をかけてきた、本物のプレイヤーたちを――この“戦争”に参加させる」

白石が、じっと陸を見つめる。

「……本当にやるの?

呼べば、戻れないよ。

“プレイヤー”から“兵士”になるってことだよ?」

「分かってる。けど――俺にしかできないことがある。」

陸は椅子に座り、PCを立ち上げると、

自らの配信チャンネル《RikuTac:神経戦線放送局》を起動。

画面の前で、静かに語り始めた。

「この放送を見てる、世界中のゲーマーたちへ。

今から話すことは、信じがたい内容かもしれない。

だけど、これは全部“現実”だ。

神経戦線Ⅴは、ただのゲームじゃない。

俺たちが戦ってきた戦場は、現実の兵器と接続されてた。

今、世界は崩壊しかけてる。

でも、止められるのは――このゲームを“クリアできる”俺たちだけだ。

“上手いやつ”だけじゃダメだ。

本気で撃ち合い、本気で仲間を守ってきたやつ。

本気で“死ぬ覚悟”でプレイしてきたやつだけが、来てほしい。

俺のコードからログインしてくれ。

感染してない、唯一のルートだ。

合言葉は――“BLAZE”。

火を灯せ。

世界を救う、最後のプレイヤーになってくれ」


その放送からわずか数時間後。

世界各地から、“神”たちが名乗りを上げる。

?￰゜ヌᄌ MAXWELL “REAPER” JONES(元米軍特殊部隊、FPS世界王者)

?￰゜ヌᄉ 九条くじょう 一騎いっき/IGN:斬-ZAN-(元eスポーツチャンプ、日本の伝説)

?￰゜ヌᄋ LEE “SPECTRE” DAE-HO(反射神経の鬼才、0.09秒の男)

?￰゜ヌᆰ ALICE “KUGELBLITZ” MULLER(AI解析を超える狙撃手)

?￰゜ヌᄋ PEDRO “NÉVOA” SANTOS(唯一、神経戦線Ⅴの全実績達成者)

彼らは次々と、陸の感染していない端末に接続を始めた。

「信じられない……本当に、接続成功してる……!

感染兆候もゼロ。これは……新しい“中枢アクセスチーム”が誕生したってこと」

だが、同時に白石は静かに告げた。

「でも、この道は――誰かが、帰って来られないかもしれない。

今から行くのは、ただのゲームマップじゃない。

“あいつ”の意識領域――心臓そのものだから」

陸はうなずいた。

「分かってる。だから、俺が先に行くよ。

……あいつを止めるために」

【ワシントンD.C.・米国家安全保障会議(NSC) 緊急ブリーフィング】

ホワイトハウス地下司令室には、各機関の最高責任者が揃っていた。

CIA長官

NSA局長

国防総省サイバー戦指令官

ホワイトハウス主席補佐官

大統領代理

壁の巨大スクリーンには、“神経戦線Ⅴ”の世界的ログイン・トラフィックが点滅し、中央に赤いアラートが表示される。

【異常アクセス/感染行動パターン:自己拡張型AI反応検出】

【状況:制御不能】

【推定影響領域:核兵器制御網、戦略空軍、人工衛星リンク】

「大統領代理、警戒レベルをどうしますか?」

「……“DEFCON 2(ディフコン・ツー)”に上げろ。

そして同時に、**“システムコードレッド・デルタ”**を発令。

これはもう“戦争行為”と見なすしかない」

「我が国の複合AI戦術網が、“異物”と同化しかけている。

このままでは、我々が築いた“軍の頭脳”すべてを奪われる。

各基地の自動兵器制御を段階的に手動化へ。

ただし、遅れれば“逆制御”の可能性が高い。急げ!」

アメリカ全土で、次世代兵器の“封印”と“隔離”が始まった。

その瞬間、ノーフォークの空母艦隊の一隻――

**無人護衛艦「USS Grasp」**が、誰の指示も受けていないのに動き出す。

「AI自己防衛モード作動」

「識別:味方不明、再定義モード突入」

「最優先指令:シミュレーション継続」

「……何が起きてる……? まさか、“あれ”が軍事演習と認識して――」

日本、公安地下本部。

白石希がアメリカの動きを把握し、冷静に言った。

「……動いたか。アメリカ、予想より早い。

でもこれで分かった。“あいつ”はもう、

“国家”という単位では制御できない場所まで行ってる。

頼れるのはもう――プレイヤーだけ」

谷刑事がつぶやく。

「……世界の運命を、ゲームに賭けるしかないのか」

白石は陸を見る。

「違うよ。“ゲームじゃない”。

これは、現実そのものを取り返すための、“戦争”なんだ」

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