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新作ゲーム

ep.1 新作ゲーム


「やっべ、これマジで映像ヤバすぎない?実写超えてんじゃん…!」

「だろ?**『神経戦線Ⅴ』**は脳神経同期型ってやつだから、視覚も触覚も、全部リアルなんだよな」

俺――リクは、いつもの相棒ソウタと一緒に、話題の超最新シューティングゲームをプレイするため、VRユニットを装着した。

発売されたばかりの**『神経戦線Ⅴ(しんけいせんせんファイブ)』**。

脳に直接信号を送る、新世代の“完全感覚型ゲーム”。

「でもさ、同期って言っても、ゲームでダメージ受けたら、痛みとか来るの?」

「ちょっとだけビリってくるけど、死ぬわけじゃないって、メーカーも言ってた。ほら、起動するぞ」

ディスプレイが暗転し、重々しい効果音が響く。

現実がすうっと消えていく感覚――そして、戦場へ。


《STAGE 1:砂漠の前線》

「右に敵スナ!カバー入る!」

「援護する!フラッシュ投げた!」

「OK、突っ込む――って、あっぶな!」

風を切る銃弾の音、地面に散る砂埃、耳をつんざく爆発音。

全身が戦場の中にある。そう錯覚するほどの臨場感だった。

「くそっ、HP残り20……リク、俺、回復アイテム切れた……!」

「持ってる、今渡――ッ、やばい、敵のドローン来てる!」

一瞬の判断ミス。

ソウタの背後に、飛来した誘導ロケットが炸裂した。

「うっ……!」

ゲーム画面で、ソウタのHPバーがゼロになったと同時に――

ドサッ。

隣のソファから、鈍い音がした。

「……え?」

俺はVRゴーグルを外す。

ソウタが、白目をむいたまま、口から泡を吹いて倒れていた。

「ソウタ!? おい、ウソだろ……!」

必死に名前を呼びながら、肩を揺さぶる。

だが、彼はピクリとも動かない。

画面の中では「STAGE 1 クリア」の表示が虚しく点滅していた。

―二か月前の冬―

「よっしゃああああああ!! 取った!予約取った!!」

俺――リクは、深夜の部屋で叫び声をあげた。

デスクに置かれたモニターには、「予約完了」の文字。

次世代VRシューティング『神経戦線Ⅴ』。

発売前から世界中で話題になっていた、"リアルすぎる戦場"を体験できるというあのゲームだ。

「うるせぇよ!近所迷惑!ってかマジで!?お前取れたのかよ!?」

ディスコード越しにソウタの声。

彼も同じ時間に予約合戦に参戦していた。

「運命だわ。俺、このゲームに選ばれたんだと思う。やばい、手が震えてる……」

「Twitter見ろよ、もう“#神経戦線Ⅴ”で世界トレンド1位だぞ。予約できたやつ、英雄扱いだ」

「“撃たれた感覚がある”とか、“夢の中でもマップに迷い込んだ”とか、デモ版の体験談がやべぇ」

「実際にリアルでPTSD出たって話もあったけどな」

「ホラー映画かよ。でも……やってみたくね?」

「……なあ、リク。これ、本当にただのゲームだよな?」

その言葉に、一瞬だけ沈黙が落ちた。

「……ああ。たぶんな」

でも、俺たちはその疑念をすぐ笑い飛ばした。

「とにかく!あとは発売日を待つだけ!冬のボーナス全部突っ込んだんだ、フルセットでやるぞ!」

「よし、戦場で会おうぜ、相棒」

俺たちはその日、眠れぬ夜を過ごした。

SNSは夜が明けても祝祭状態。

「予約できた」者は勝者、「落ちた」者は敗者。

それほどまでに、『神経戦線Ⅴ』は“特別なゲーム”だった。

――だが、この夜が、普通の日常の終わりだったことに

このときの俺たちは、まだ気づいていなかった。

2025年4月1日――

全国のゲームショップに、ついに『神経戦線Ⅴ』が並んだ。

「なあリク、信じられない……これ、俺たちの手元にあるんだぜ」

ソウタが、パッケージを撫でるように眺めながら呟く。

「……嘘みたいだな。これが噂の“戦場”か……」

俺たちは早速、限定版のVRセットを設置し、ダウンロードを開始した。

SNSでは既に、《#神経戦線Ⅴ起動》がトレンド入りしていた。

無数の実況配信、歓喜のツイート、開封動画。

その中に、ほんのわずか――異変を警告する声も混じっていた。

「プレイ中、急に気を失ったって投稿が消されてた」

「ヨーロッパの話、マジだったかも」

「画面の“奥”に何かいる気がする」

「やってはいけない気がしてきた」

けれど、誰も本気で受け取ってはいなかった。

俺も、ソウタも。

「じゃあ、いくか。戦場で会おうぜ、リク」

「……ああ。死ぬなよ?」

「それ、フラグだからやめろ」

ヘッドセットを装着した瞬間、

視界が静かに溶けて、そして――“あの世界”が始まった。


《STAGE 1:都市戦線/廃墟市街地》

銃声。叫び声。崩れる瓦礫。

「リク、そっち行くな!スナイパーだ!」

「援護する、スモーク投げる!……ソウタ、HP残りどんぐらい!?」

「……10、回復間に合わないっ――」

ズドン。

敵の狙撃音が響いた瞬間、

ソウタのキャラが地面に崩れた。

画面のHPバーが、0になった。

「ソウタ!? おい、やられたのか!?」

返事がない。

「ソウタ? 聞こえてるか?」

……静かだった。

イヤな予感がして、俺はヘッドセットを外した。

「…………ッ、ソウタ?」

ソファに座っていたはずのソウタが、前のめりに倒れていた。

「おい、ウソだろ!? おい、ソウタ!!」

肩を揺らしても、返事はない。

彼の顔は真っ青で、唇がわずかに震えていた。

冷や汗が、首筋を伝っていた。

「……なんでだよ……ただのゲーム、だったんだろ……?」

だが、画面には無慈悲な一言が表示されていた。

《MISSION FAILED:UNIT LOST》

その文字を、俺は黙って見つめることしかできなかった。

そして、どこからともなく――かすかな“呼吸音”のようなノイズが、まだVRゴーグルから聞こえていた。

まるで、誰かがこちらを、見ているかのように――

「ソウタ!?おい、しっかりしろって!!」

俺はソウタの肩を揺さぶりながら、震える指でスマホを取り出した。

110じゃない。119だ。

画面がにじんでよく見えない。けど――俺は、震える手で通話ボタンを押した。

「救急ですか?友達が……友達が、ゲーム中に突然倒れて……意識が……ないんです……!」

「ご住所と、意識の有無を確認します――」

オペレーターの冷静な声が、逆に現実味を帯びさせた。

「意識レベルJCS100。呼吸は浅いが自発あり。バイタルは安定してます」

救急隊員が手際よく処置を進めていく。

「彼、何か持病とかありますか?」

「……いや、健康そのものです。マジで普通に元気で……ただ、さっき、VRゲームやってて……」

「VR?」

「『神経戦線Ⅴ』ってやつです。発売日で、今日が初プレイで……」

そう口にした瞬間、隊員の表情が微かに曇った気がした。

「……なるほど。最近、そういう“ケース”が増えてるって話もありますが……詳しいことは病院で」

“ケース”?

何だそれ。何か知ってるのか?

でも、俺はそれを聞き返す余裕すらなかった。

数時間後。

「ご家族の方、もしくはご友人の方ですね」

白衣の医師が、カルテを手にして現れた。

「……俺が、リクっていいます。ソウタの……友達です」

「精密検査の結果ですが……」

医師は一瞬言葉を選んだ。

「異常は、どこにも見つかりませんでした。脳波、心電図、血液検査、CT……全て正常です」

「……そんなわけ……ないだろ……!?目の前で倒れたんですよ!?気絶ってレベルじゃなかった……!」

「たしかに、失神のような状態でしたが、原因がまったく掴めないんです。事故、薬物、脳疾患……どれも該当しません」

「じゃあ、なんなんだよ……」

医師は沈黙したまま、静かに言った。

「……ここ数日、彼のような患者が、全国で“増えています”。

共通点は――あのゲームです」


待合室で、俺はスマホを開いた。

「#神経戦線Ⅴ」「#突然倒れた」「#原因不明」――

ハッシュタグが、どれも信じられない速度で増えていた。

だが、同時に削除も追いつかないほど速い。

「これはもう、“偶然”なんかじゃねぇ……」

俺はソウタの病室を見つめながら、心の奥底に冷たいものを感じていた。

まだ、何も終わっていない。

むしろ、始まったばかりだ。

「まず確認ですが、長瀬さんが倒れたのは、自宅ですか?」

「……はい。俺の家で、一緒にゲームしてて……」

「あなたの名前は?」

「相原 陸です」

刑事・**たに 一郎いちろう**は静かに頷き、メモを取った。

「精密検査では異常がなかった。だが彼のような事例は、今や全国で十件を超えています。

共通するのは――あのゲームだけです」

「我々は本日、株式会社ノイラリンク・ジャパン本社に任意での調査を行ったが――」

谷一郎刑事は、手元の報告書を見つめながら、深いため息を吐いた。

「……サーバーのログ、プレイヤー履歴、開発データ、全部――消されていた」

「消されてた……?」

相原陸は思わず繰り返した。

病院の面会ロビー。

蒼太の容体は依然として“意識不明のまま”。

だが今、それ以上にゾッとする言葉を聞かされた気がした。

「いや、正確には“削除されていた”というより、“最初からなかった”ように見える。

開発PCも、社内LANも、まるでフォーマット直後みたいに、すべてが初期状態だった」

「そんなこと……ゲームは配信されてるんですよ?SNSでも実況されてて……!?」

「だからだ。

“存在していた証拠”は山ほどある。

だが“作った証拠”が、なぜか一切、残っていないんだ」

陸の背筋に、氷のような冷気が走った。

「じゃあ、あの会社……何もかも、最初から隠してたってことですか?」

「……違う」

谷刑事は低く言った。

「隠したんじゃない。“誰かが、消した”んだ。

我々よりも早く、手を回していた誰かが」

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