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トランコーツの愉悦

「あらあら、今月も賃金が送られて来るわ。あんな子でも役に立つものね」


 ルージュナの給金16万円は、毎月男爵家に送られていた。

 それを受け取る度に義母であるトランコーツは、満面の笑顔となっていた。


 先妻ナルートの娘、ルージュナを追い出して、愛する娘ミロソと顔の良い夫シオンと暮らせるからである。

 それに懸命に働いたルージュナの賃金は、自分や娘のアクセサリー代に使えるのだから。


 そんな母を見て、さすがにルージュナの義妹であるミロソは気が咎めた。

「王都に行けるのは羨ましいけど、一生懸命に働いたお金を全部送らされているなんて。

 本当は私のお義姉ちゃんで、男爵令嬢なのに。

 お母さんは酷いよ!」


「急にどうしたのよ、ミロソったら…………」


 困惑するトランコーツには、ミロソの気持ちは分からなかった。ただ機嫌が悪いくらいにしか、思われていないのだ。



 ミロソは美人なルージュナと比較され、いつも劣等感を抱いていた。だから母親と一緒に彼女(ルージュナ)を虐めていたのだ。


 王都に行く時にルージュナは13才、ミロソは8才だった。けれど義姉が居ない家で1年、冷静になって考えると理不尽さを感じていた。

 

 当時はミロソも子供だったのだ。

 母親のトランコーツとは、そもそも性根が違っていた。本当はシオン寄りの、優しい気持ちの持ち主だから。


 真面目に学習し家庭教師に学ぶようになると、その様子を見て親身になってくれた教師バゲットは、彼女に助言をした。


「貴女はとても頑張っていますね。昔から見ると本当に成長しました。

 けれどその聡明さで、まわりのことも分かってきたでしょう?

 残念ながらお義姉様のルージュナ様は、トランコーツ様に嫌われ、話し相手と言う名の奉公に出されました。

 本来この家の嫡女であるのに。

 貴女は真似をしてはいけませんよ。

 いざと言う時は、何が正しいか考えて行動して下さい。


 貴女がもしルージュナ様と、手紙ででも謝罪したいなら、私が送ってあげますよ。

 きっとトランコーツ様は、それに反対されると思いますので。

 お手紙のやり取りも、私を通せばうまくいくと思いますし(バゲットがミロソの手紙を送り、ルージュナからのミロソ宛の手紙をバゲットの家に送って貰い、それをミロソに渡す)。


 もし思うところがあれば、お手伝いしますからね」


 

 毒親に振り回されるミロソを見ていると、同じ年の孫メルマと重なり、つい口を挟みたくなるバゲットだ。


 「バゲット先生、ありがとうございます。……私いつも後悔してたの。

 ここにいた時、いつもイジワルしてたから。

 ごめんなさいって言いたくても、お義姉ちゃんに会えないから。

 私のことなんて嫌いだと思うけど、仲直りしたいです。ぐすっ、ぐすん」


 誰にも言えない気持ちを吐露し、我慢出来ずに泣き出したミロソ。

 母親には言えないし、父親のシオンに言えば夫婦喧嘩になってしまいそうで、打ち明けられずに内に秘めていたのだ。


 そんな時に話を聞いてくれたバゲットは、彼女の救いだった。


「私、手紙を書きます。許して貰えなくても、何度でも書きます。届けて、先生……」

「ええ、ええ。良いですよ。任せて」


 微笑むバゲットは、まるで孫のように彼女を抱きしめた。ミロソもその体温に安堵し、前に進み始めたのだ。


 

 自我の芽生えたミロソは、食べ過ぎを止めたことで、適正体重となっていた。

 母親と違い優しくなった彼女は、シオンにも使用人達にも大事にされている。

 トランコーツはプライドばかり高く、周囲を威嚇するので変わることなく敬遠されていたが。



◇◇◇

 周囲の子供達とも仲良くなったミロソは、今ではいろいろと憐れまれていた。


「お前の母さん、強烈だよね。何か拗らせてる感じって言うか?」

「この田舎で服装派手だよね。誰も見てないのに」

「昔はデブって言ってごめんな。きっと母親のストレスで食ってたんだろ? 分かるぜ!」


「う、うん。いろいろありがとう、みんな。

まあ、私の太ってたのは自業自得なので、お母さんとは別なのよ。でもいつもありがとうね」


「ああ、何でも言えよ。ただでさえ、ここらは子供が少ないから協力しようぜ!」

「そうよ、遠慮なんかしないでね」

「今度みんなで釣り行こうぜ!」


「「「良いねえ、行こう」」」

「うん。私もお父さんに言ってみるよ」

「おう。きっと母さんだと反対されるからな。良い判断だ!」

「そうよ、様子を見ながら頼むのよ。子供全員で行くから、行かないと仲間はずれになるわとかってね」


「おおっ、頭脳派。さすが腹黒姫!」

「誰が腹黒じゃ、ブッ飛ばすぞ!」


「ふふふっ。もう仲良いよね。それより私の焼いたクッキー食べない?」

「おおっ、ミロソのお菓子旨いからな。食べるぞ!」

「僕も食べたい」

「私もご馳走になるわ! 楽しみね」


「オレンジーナは作れないもんな。女子力低いし」

「埋めるぞ、グレフル!」

「もうやめなよ、オレンジーナ」


「クッキーとジュース持って来たよ。座って!」

「「「はーい!」」」



 辺境伯爵令嬢、オレンジーナ・カインズ。

 子爵令息、グレフル・ザナレード。

 男爵令息、ユズレ・モラン。


 昔は意地を張って疎遠だったが、今はミロソが折れて謝罪し、友好を築きつつある。

 親達もシオンに免じて、付き合いを許してくれている。


 なんだかんだ言っても魔物や猛獣の出る田舎は、殆どが闘う能力が高い脳筋集団で、オレンジーナもメッチャ強い。

 男衆(一部女性も)はみんなで協力して治安維持をしている。団結の強い地域なのだった。


 そんな中でトランコーツは溶け込めず、頻繁に王都近くの生家、ラメン子爵家に帰っていたのだ。ミロソを置いて。


「もう、本当に田舎は嫌だわ。最近はミロソも言うことを聞かないし。反抗期かしら。子育て大変だもの、たまには羽を伸ばさないとね」


 馬車に揺られてご満悦なトランコーツがいないと、ユコーン家は平和なのだった。


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