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ルージュナの始動

「ルージュナ、起きなよ。もう朝だよ」


 カーテンを勢い良く開き、声をかけてくれるのは同室のクレーアさんだ。

 30代だと言う彼女は平民の未亡人だそう。

 茶色のボブカットの眼鏡をかけたふくよかな人だ。



「すいません、クレーアさん。何だか熟睡しちゃって。お布団がフカフカだからかな?」


「そうかい? 普通の布団なんだけどね。まあ疲れもあったろうから。でもご飯の時間は決まってるから、行くよ」

「はい。ご飯食べたいです! すぐ準備します」

「ああ、一緒に行こう。まずは洗面所に案内するからね」

「はい。お願いします!」



 男爵ではまともに食べていないルージュナだ。

 時間に遅れて貰えなくなるなんて絶対嫌だった。


 とにかく超特急で準備する。


「急げ、急げ! ご飯が待ってるぞ!」


 それをみるクレーアさんは、呆気に取られて笑った。

(あれっ、この子は男爵令嬢じゃなかった? まあ田舎だとこんな感じなのかしらね)


「いや、そこまで急がなくても良いよ。まず落ち着きな」

「はい、です!」



 バタバタと賑やかに準備は完了し、2人は食堂へ向かった。

 使用人用の食堂には、既にたくさんの人が食事をしていた。


「わあ、たくさんいるんですね。賑やかで嬉しいな」

「そうかい。良かったね」

「はい!」


 幸せそうに頬を染めるルージュナに、すっかり毒気を抜かれたクレーア。

 てっきり貴族と同室となり、嫌みの一つでも言われると覚悟していたのだ。


 でも朝からの様子で、なんか違うとさすがに気づいた。

(この子ってば所々貴族っぽいけど、大体の行動が荒いわ。何て言うか、そう! 付け焼き刃的なのよ。

 やっぱり田舎だから、最低限のマナーしか学んでないのかしら。

 それじゃあ、少し教えてあげようかしらね)


 クレーアは今は平民だが、元は子爵令嬢だ。

 嫁ぎ先は男爵だったが、早世後に追い出されたのだ。

 今は夫の弟が男爵になっている。

 幸い子が居なくて良かったと、当時は辛い思いを押し殺して生きていた。

 生家にも戻れず、悔しい思いをした。


 救ってくれたのが、この邸の伯爵夫人レイカだった。彼女は平民も多く雇い入れてくれる、慈善事業を推奨している人物なのだ。

 だからこそクレーアは、彼女に恩義を感じていた。

 そんな彼女(レイカ)が意地悪な貴族などと同室にする訳がないと、はっとしたのだ。


(これは、この子を教育しろと言うことかしら?)


 今回はただ、2人部屋の1つが空いていてルージュナが入っただけなのだが、何となく深読みしたクレーア。

 そんな感じなので、何かとルージュナに関わってくれるのだった。




◇◇◇

 可笑しなことにルージュナは殆ど口を開けずに、食事を食べ終わっていた。

 それにめっちゃ速かった。


「ああ、美味しかった」


 ご満悦のルージュナだが、クレーアはまた驚いた。


「ちゃんと噛んで食べないと、駄目よ。飲み込むだけじゃ、美味しさを感じられないわよ」


「美味しかったよ。私、変だった?」


「変じゃないけど。ゆっくり噛んで食べると、余韻があって香りも感じられるから、もっと美味しく感じるよ。   

 ほら、私のパンをあげるから、ゆっくり噛んで食べてごらん」


「ええっ、良いの。ありがとうございます。ゆっくりね、ゆっくり。もぐもぐ、もぐもぐ。

 あっ、美味しいね」

「そうでしょ。時間がある時は、ゆっくり食べなさい」


「はい、そうします」


 ニコニコと食べるルージュナが、何だか無性に可愛く思える。これが母性かとはっとした。


 その後は部屋に戻り、ルージュナの髪をとかしてあげていたクレーア。


「毎朝とかさないと、絡まるのよ。わかったかい?」

「イテテテッ。はい、わかりました。ありがとう、クレーアさん。イデデッ」


 クレーアの朝の仕事は、ルージュナの世話から始まりてんてこ舞いだ。

 けれど知らずと、元気が出るのが分かった。

 ルージュナも痛がりながらも、嬉しそうにしていた。


 すっかり整えられたルージュナは、伯爵令嬢ミルメークに合うべく部屋へと向かう。


「コンコンッ、失礼します。おはようございます。ルージュナでございます」

「どうぞ、入って」


 入室が許可されて、ルージュナは令嬢の部屋へ足を踏み入れた。

 ベッドに横たわるのは、金髪碧眼の美しい令嬢だった。ルージュナよりいくぶん若く感じる。


「はじめまして。私はルージュナ・ユコーンでございます。本日より、よろしくお願いいたします」


 付け焼き刃ながらも、ぶれずにカーテシーを成功したルージュナ。

 それを見て頷き、よろしくと言うのはミルメーク・ハニービーだ。


 その頬は痩け元気ではない様子が窺えた。

 白い肌に赤い唇は、微笑んでいても更に病弱に見える。


「ごめんね。暫く私に付き合ってね。一緒に勉強頑張りましょう」

「はい、喜んで。よろしくお願いします!」


 これが今後親友となる、ルージュナとミルメークの出会いだった。



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