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紫の煙

作者: 葉沢敬一

毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。

Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)

 私は香木に火を付けた。パロサントという名前の香木。ソロキャンプに来ているのだけど、ちょっとだけ贅沢をしたくて、火付け用に香りの高い木の棒を買って持ってきたのだ。


 ナイフで、香木の棒を削って、毛羽立たせる。削りかすに着火してその上に香木を置く。そして、近場で拾ってきた木の枝を交差するように置いて行く。


 確かに宣伝文句のように甘い素晴らしい香りが漂ってきた。防虫効果もある。パチパチという燃える音を聞きながら、良い買い物をしたと思った。


 まずお湯を沸かす。そして、キャンプ用のフライパンにバターをちょっと載せると肉を置く。じゅうじゅうという音がして、香木に加えて美味しそうな肉の匂いがする。


 沸いたお湯で、カップラーメンを作る。手間が掛かりすぎる料理はしたくなかったが、粗末な食事も嫌だったので、神戸牛を別に買ってきた。


 さて、一口いこうかなと思ったところに柴犬がぬっと現れた。


 どこから来たのだろう。飼い主は? ソロキャンするときに犬と一緒に来るキャンパーもたまにいるのだ。私もそんなのに憧れているけど、アパートがペット不可物件。飼うとなると引っ越し代に家賃、飼育費がかかる。それに、私は車じゃない。バイク。ライダーのキャンパーなのだ。


 犬を見ると、結構やせ衰えているようで、腹が減っているように見える。

 まあ、いいだろう。熱い肉を冷まして犬に与えることにした。


「待て、火傷するから冷えるのを待て」

 貰えると知って、犬は嬉しそうに待機の姿勢を取った。別皿に取って香辛料とかは掛けずにおいておく。自分の分はたっぷりかける。


 とりあえず、カップラーメンを食べながら、この犬の素性を考えた。現代に野良犬なんて珍しい。居るとすれば、飼い主から捨てられた遺棄犬だ。


 首輪もしていない。犬に「ヨシ」と言って冷ました肉を与える。その間にキャンプ場の管理人さんのところに行って犬を連れてきた人が居ないか聞いてみた。


 管理人さんは帰宅準備している途中だった。

――ああ、あの犬ね。最近出没するようになったけど、捨てられた犬みたいだよ。良い柴犬なんだけどね。市役所に通報済みだから明日にでも捕獲されるんじゃないかな。家族なんだから責任持って飼えばいいのに。


 ということは、処分されてしまう犬と言うことか。今日の肉が最後のごちそうなのかもしれないと思うと切なくなった。


 戻ると、犬は、尻尾振ってくぅんと鳴いた。動物は近づく人がいい人か見分けられるという話を聞いたことがある。ホントかどうか知らない。でも、食べ物を分けてくれる人を選んで近づいていることは確かだ。


 調理器具を片付け、ゴミを所定の場所に置くと、テントの脇で犬は座っていた。

――ごめんよ。俺ライダーだから連れて帰ることもできない。


 一晩、テントの中で考え、翌朝別れを告げた。犬と朝食に用意したパンを分け、そして、バイクに乗る。


 高速を走っているときに心が決まった。


 帰るとすぐに市役所の担当課に電話して、もし捕獲したら私が飼うので待っていて欲しいと連絡した。


 そして、捕獲したという連絡が来ると同時にレンタカーを借りてもらい受けに行き、ペット可のマンションに引っ越した。お金はちょっと厳しかったけど、なぜかこのタイミングで100万の宝くじが当たった。まるで、飼うのが運命だったかのように。


 名前は考えたあげく、パロサにした。香木がきっかけだったと思ったので。


 でも、バイクに柴犬を乗せるのは大変だな。売って中古車買うか悩み中。

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