二人の緑の髪の少女
ある男性が二頭の馬で引かせた馬車を走らせていた。彼は御者台から後ろを見ると、二の腕まで緑の長い髪の毛を靡かせた少女が率いてる盗賊団が追いかけていた。
「何者なのだ。あの少女は」
彼は呟いた。その少女の髪と同色の瞳には狂気が宿っていた。だが、彼はそんなものに負けるわけにはいかなかった。彼には守るべきものがある。それは馬車の中にいる家族だ。しかし、相手はまだ余裕がある様に見える。
「遊んでいるな」
彼はさらに鞭を馬に当ててスピードを上げたが、すでに馬達も限界を肥えていた。馬車は失速して、強盗団に追いつかれそうになった。その時、馬車に乗っている子供の一人が空を指差して興奮していた。
「どうしたの、フロル」
そのフロルと呼ばれた子供の傍に居た女性が優しく訊ねると、さらにもう二人いるうちの一人が同じ様に空を指差す。
「お母さん、あれを見て」
その言葉で、その女性が空を見た。
その少し前、近くの道をフード付きのマントを羽織っている人物が走っていた。
「待っていてね、すぐに行くから」
美しい清涼の声が漏れる。
「どうしたの」
その人物の肩に乗っている小妖精が声をかけると、その人物は素早く、なにかの呪紋を唱えた。
「それって、飛翔魔法どうしてなの」
「誰かが、助けを求めているの」
その人物が言うと、小妖精が驚く。
(私には、聞こえなかった。)
「ともかく、行くわよ」
その人物は高く飛び上がった。
フード付きのマントを羽織り、腰と背中に剣を装備した人物が空中から現れて、馬車と強盗団との間に強引に割り込んた。
強盗団の少女がその人物を睨む。
「あんた、邪魔しないでよ」
その人物はマントのフードを脱ぐと、そこには強盗団の少女と同じ、緑色の髪があった。
「あなたはどうして、こんなことをするの」
そのフードの人物が訊ねると、盗賊団の少女が叫ぶ。
「あんたには、幼い頃に親を無くした者の気持ちなんか、わかる筈はないでしょう」
「わかるよ。私もそうだったから」
その人物はそう言って、フードを脱ぐと、彼女と同じ様に二の腕まで長い髪があり、一目で少女とわかり、緑色の髪の毛と同色の瞳をしていた。
その様子を馬車の女性は驚いて見ていた。二人の緑色の髪の少女、それと緑の瞳、でも、何かが違っていた。そう、例えるなら、強盗団の少女の髪の緑はやや黒に近い緑、空から降りて来た少女の髪の緑は明るい緑、瞳の緑もその様に感じる。
同じ緑の様で異なる緑、それはまるで、その二人の今の状態を示した。
闇と光、邪と聖、憎しみと優しさ、そう、強盗団の少女はまるで世界中が敵である様に、マントの少女は世界中に散らばら悲しみを打ち払う、そんな感じがする。
「あなた、一人でどうするつもりなの」
強盗団の少女は、マントの少女を睨んだ。
「あなたは、なにが言いたいの」
マントの少女は不思議そうな顔をする。
「あなた、よく見なさいよ。これだけの人数をたった一人で、たおせると思っているの」
「さぁ」
彼女は思わず笑った。
まるでそれが、合図だったみたいに、強盗団が彼女に襲い掛かって来る。すると、彼女は腰にしていた剣を抜いて、彼らに立ち向かう。
彼女が剣を振るうと、風が起きて、数人が吹き飛ばされた。
「なによ。アレは」
強盗団の少女は目を大きく開く。
「どうするの、これ以上、無駄なことはしたくないの、降参してくれる」
彼女は呟き、少女を見た。