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獣社畜は平穏に暮らしたい  作者: 田中八二九
1/1

ある日、住宅街でクマさんに出会った

リハビリがてら、不定期でアップしていく予定です。

1、深夜、仕事終わり


社畜とは、主に日本で「会社」と「家畜」を組み合わせて作られた造語で、会社に飼い慣らされた賃金労働者たちのことを指す言葉である。


なるほど、人間はなんともマゾヒズムに富んだ表現を思いつくものだ。

人間のボキャブラリー能力に感嘆しながら、僕は毛の奥にべったりとくっついたノミ虫のように会社のパソコンを見つめている。

時計は2時を指したところ。

隣の席に目をやると、明日の資料を手分けして作成していたはずの同僚が、机と一体化しながら大きないびきを鳴らして眠っている。

まさに社畜を体現したような景色である。


そろそろ家に帰るか…。

まだまだ仕事は残っているけど、ここ3日位まともに家に帰れていない。

自分の匂いも気になってきた。


「相田、おーい」


寝ている同僚の肩を揺らし、先に帰ることを伝えようとするも、気持ち良く深い眠りに入っていて起きそうにない。



よし。置いてこう。



無理やり起こすのも忍びないので、彼はここに置いて行ってあげよう。

起きたら誰もいないオフィスで一人寂しく始発まで過ごすがいい。


会社を出て、自宅の方向に歩くことにする。

この会社に終電を逃した社員に出すタクシー代などあるわけもなく、できるだけ自分の財布を守るために家に向かって歩くのが日課になっている。

会社と自宅の往復で、運動不足なサラリーマンはこれくらい適度な運動は必要だろうと考えるようにしているが、果たしてこれが本当に正しい選択なのかは考えないようにしている。


深夜2時すぎ、歩いている人はまばらだ。

30分ほど歩いただろうか、ちょうど飲み会帰りのサラリーマンをおろしたタクシーが目の前に止まったので、歩くのを辞めてタクシーに乗り込むことにした。

今日はここまで歩いたら上々だろう。出費は痛いがこれ以上睡眠時間を削るわけにもいかない。


運転手と当たり障りない会話をしている間に家の近くに到着する。

すると運転手があれ?と何かを見つけて声を出す。

僕も釣られてフロントガラスの先を見ると、そこには10台近くのパトカーがパトランプを光らせながら停まっている。

車の周りには近隣の警察官全員が集められたんじゃないかと言うくらいに大量の制服警官が集合しており、中にはドラマとかで見るシールドのようなものを持った警察官も。


「これは只事じゃないですね」と運転手がその様子を見ていう。

「猿でも住宅街に紛れ込んだんですかね」


はははと、あまり気に留めないふりをするも、何だか嫌な予感を覚えていた。


「運転手さんここでおろしてもらって大丈夫です」

「こんなところで降ろしちゃって大丈夫ですか?目的地までもうすぐですけど…それに…」


パトカーの方に目をやる運転手。


「僕は全然大丈夫なので。そこのコンビニで買い物して帰ろうかなと」

お会計を済ましてタクシーを降りる。

タクシーが見えなくなったのを確認し、コンビニには入らず僕はそのまま家に向かう。


何か嫌な予感がする…。

背中・首筋が総毛立つような感覚だ。

あの角を曲がれば自宅のアパート。

すぐに建物のエントランスがある。

そう、いつもと変わらない僕の日常。きっとこの先も変わらず社会の歯車として働く僕の運命。


自分に言い聞かせながら角を曲がると、そこにはこの都会には決してあってはいけない姿だった。

エントランスの明かりに照らされている黒い大きな影が一つ。

その影は住宅街の暗がりに溶け込むように、しかし異様な空気を漂わせて立っている。


僕が近づいてきたのに気がついたのか、影の正体が視線を僕に向ける。

なるほどそれは警察も総動員な訳だ。

都内の住宅街でこんな光景。そりゃ大騒ぎになる。


そこには1匹のヒグマが立っていた。


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