経費で落とせない缶コーヒーの件について
「あ! 予約し忘れた! 」
「班長またですか……」
呆れて俺は溜息をついた。それに続いて周りも溜息。
「昨日入れたと思ったんだけど」
「なに言ってるんですか。クレーンの予約は一週間向こうからやらないとって毎回言ってるじゃないですか」
彼女は一年前に来た班長。
確かここに来る前は事務方だったはずだが、こと現場の細かい予約に疎い所がある。
それを毎回しりぬぐいしなければ仕事にならないのでどうにかするのだが、反省する気が全くないようで。
「じゃ、後お願いね」
「あ。ちょっと班長! どこに」
「就業時間よ」
そう言いロッカールームへ行ってしまった。
「あの様子だと男、だな」
「事務のやつだろ? 噂になってるぜ」
「まぁドンマイだ。副班長」
「お前らな……。他人事だと思って」
そう言いつつも苦笑いで応じる。
なんだかんだで一緒にやってきたメンバーだ。明日の仕事をなくさせるわけにはいかない。
やるしかないのか。気が重い。
「じゃぁ俺行ってくるわ」
「わりぃな。後で飲みに行こう」
「今回は奢ってやるよ」
その言葉に少し元気をもらいつつ部屋を後にした。
★
クレーンの予約をしに工場の中へ。
一旦外へ足を運び後ろポケットに手をやった。
自販機に着くと財布からお金を出して缶コーヒーのボタンをポチッと押した。
ガタン。
冷たい空気に重厚な音が響く。
屈んで温かい缶コーヒーを二つ手に取って目的の場所へ足を向けた。
「お疲れさん」
「ん? お疲れ」
「最近どうだ? 」
「ん~。お前の所の班長がやらかしていること以外は何とも」
「そっか」
会話をしながら缶コーヒーを渡す。
彼はそれを当然のように受け取って「カシッ」っと音を鳴らして蓋を開けた。
「で、明日クレーン空いてるか? 」
「そう来ると思って空けていた」
「悪いな」
「クレーンの予約時間は大体決まってる。緊急じゃなければ予想がつく。完全に忘れてただろ? 」
「あぁ」
「やっぱりか。ま、彼女もその内慣れるさ」
「世話になる」
ははっと笑い合いコーヒーを飲み干す。
俺は腰を上げて空の缶を二つ持つ。
そしてそのまま部屋へ向かった。
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