王太子殿下は婚約破棄をしたい
俺はめちゃくちゃ婚約破棄をしたい。
本当にユキ・ブリジデンドには申し訳ないが、土下座だってするから破棄したいんだ。
ユキ・ブリジデンド。
17歳の公爵令嬢。
濃い顔にプクリとした唇、癖毛の赤毛は波打つようにサラサラキラキラ、不器用で頭は悪いが愛嬌はある。
それだけなら、許せる。それだけなら…。
『すまない、体調が悪いから帰宅する』
「王太子様、大丈夫ですか?」
ふにゅん。
胸が腕に当たる。
気持ち悪い。
牛並のデカすぎる胸。G85はある胸が気持ち悪くてたまらない。
『…離れてくれ』
「でも!」
『離れてくれ!』
「…はぃ…」
俺は彼女を振り払い、城に戻った。
帰宅したら、宰相と娘のマリー・クラレスと立ち話をした。
マリー・クラレス宰相令嬢。
学園では中等部の特進科にいて頭脳明晰、文武両道、サラサラな黒髪に涼やかな黒い瞳。
あー…好きだな。
『令嬢は…そろそろ婚約者を選ぶ年齢では?』
「なかなか娘は頷かないので困り果てていますよ」
「私より強く頭脳明晰で、私を大事にし裏切らない方でないとイヤです!
私は父様母様、兄様義姉様のような夫婦になりたいのです」
「…終始これです(笑)」
『理想の夫婦が二組入れば仕方ないですよ』
「お褒めいただきありがとうございます、王太子殿下」
チラリと令嬢を見れば、胸は高鳴り知らぬ間に微笑んでしまう。
『貴女が婚約者なら…』
「っ!王太子殿下!」
『すまない…聞かなかったことにしてくれ…』
「…ユキ・ブリジテンド伯爵令嬢とは…」
『…弱音を吐くなんて…でも吐き出さなければ…辛くてたまらないのだよ』
「……私から陛下に話しますか?最近は王太子殿下は顔色も悪いですから」
胸を強調した下品なドレスにワンピース、下着が見えそうなぐらいの短い制服のスカートに、ワザと小さめのシャツをブレザーを着てまで、学園内でも胸や太腿を強調する有様。
嫌で仕方無いし、吐き気すらするし、気持ち悪くてたまらない。周りの令嬢も真似をし始めるし、一部の男子は喜んではいるがな。
『すまないな宰相。愚痴を吐くなんて…』
「イヤ…私宰相でもあのドレスには唖然としました」
『ですよね…』
『「はは…は…」』
「しかし、殿方はその様な女性や服が好きなのでは?」
爆弾を投げつけてきた令嬢。
『皆が皆好きではないよ、俺もだがね。誰彼構わずその様な服を着るのは好ましくない。
マリー・クラレス宰相令嬢、君には…薄いグリーンか薄い黄色のワンピースが似合うと思う』
「っ…王太子殿下!…」
『長くなりましたが…話を聞いていただきありがとうございます、宰相殿』
「…頑張ってください」
「……」
『では、失礼する』
あー、癒やされた。マリー・クラレス宰相令嬢カワイイ。
次期国王陛下になる俺と、次期王妃になるユキ・ブリジデンドのお披露目パーティー。
この日は、きちんとした礼服で身を包み、皆に挨拶をする場のはずが…。
ユキ・ブリジデンドは、真っ赤なドレスに胸を強調したマーメイドドレス。スカートはスリットが左右にあり太腿まであり、アクセサリーも赤い宝石。
俺は温厚な方だ。怒鳴ることもなく窘める方だ。我慢の限界であり、プチンとキレた。
『ユキ・ブリジデンド…今日がどの様な場か理解しているのか?もし、理解していてその様なドレスを仕立てたなら頭がオカシイだけだ!』
「ひ…酷いです!喜んでいただけるように…わ…私は!」
『言ってみろ!今日がどの様な日かを!』
「…次期国王陛下と…次期王妃の…お披露目パーティー」
『なら、何なんだそのドレスは!色は!我国の色は赤なのか!』
「え…と…」
『知らぬのか…我国の色はグリーンだ。赤は…敵国の色だ!王妃になるのにそれすら分からないのか』
ギラリと睨む。
『それに…貴族や腹心がいる大切なパーティーに、そのドレスは不釣合も甚だしい』
「殿方達は褒めてくれますわ」
『……場所を弁えろ、ユキ・ブリジデンド伯爵令嬢……』
ヒヤリとする声、鋭く軽蔑した眼差し、俺はこんな風にも出来たんだ。
『マナーを学ばないのか?』
「ランドル様は厳しくて、私は毎日毎日叱られて…」
『それがどうした』
「え…」
『ランドル・カナル前王妃は…俺の祖母だ。王妃を努め、母も祖母から妃としてのマナーを学んだが?』
「あ、え…と…」
『はぁ…もう良い。下がれ』
「で、でも!」
『っ下がれ!!!!!』
「ひ、酷い…酷いですわ…」
『…俺は仕方なくユキ・ブリジデンド伯爵令嬢と婚約した。父親同士の約束だからな。だが我慢の限界を向かえた。
学園でも下品極まりない制服を着て、パーティーも不釣合なドレスに化粧、全て我慢していたがもう無理だ!』
「お待ち下さい…シッカリとマナーも学びます!」
『目を瞑って来た。注意もしてきた。ユキ・ブリジデンド伯爵令嬢、そんな俺に…ヤキモチ焼きさん、など戯けたことを言ってくれたよな』
「っ…」
『無理矢理マナーを教養を得よとは言わない。
だが…だが今回のパーティーで我慢の限界だ!娼婦に成り下がった妃など要らぬ!いや…娼婦に悪かったか、娼婦もマナーや教養はあるからな……娼婦以下だ、
俺は踵を返し、パーティー会場で謝罪をしながら、貴族や腹心と話をして場を誤魔化した。
部屋に戻り頭を抱える。
疲れた、本当に疲れた。すれ違いに、現国王の父を睨みつけると、バツが悪そうに下を向きながら足早に去った。
無様なもんだ。
ユキ・ブリジデンド伯爵令嬢に骨抜きなのは知ってる。
『仕方無い』
俺は従兄弟に…まだ3歳の従兄弟に王太子の座を譲ろう。3歳の従兄弟ならば、ユキ・ブリジデンド伯爵令嬢は手は出せない。
『俺は生涯に一度だけ使える王太子特権訴訟を使う』
金庫にある書類に必要事項を記入し、何回も何回も口に出し確認をし提出をした。
それから、王太子は従兄弟になり、産まれて一年の別のリリア・コンツェルント伯爵令嬢が婚約者となった。
俺は前から勉強していた法律の勉学に勤しみながら、国立法廷士の資格を得て、アパートメントで一人暮らしをする。
『…良く来てくれた』
「…はい」
『まだ、料理は下手で不味いかもしれないが食べてくれ』
「そんな!ギュラン様が作った料理、不味いわけないです」
『様は要らないよ、クラレス嬢』
テーブルに案内し、談笑し、本題に入る。
『マリー・クラレス宰相令嬢、良ければ結婚前提に付き合って欲しい』
「私なんか」
『貴女が良い』
「はい…はい!」
涙を流し微笑む彼女を、俺は忘れはしない。
その姿は美しく、慈愛に満ち溢れて、俺は新たに心から誓った。
マリー・クラレス宰相令嬢を、永遠に愛すると。
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