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贅沢な水  作者: 電柱工房
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(三)


( 三 )


「何やら、変な感じだね」


 里見清史郎が広場を見ながら言った。私は彼の視線を追った。

 公園は少しづつ人出が増えて来ていた。平日とは言え、都心の人気の公園なのだ。ちょうど昼食時になりかかり、軽食を売る向こう岸の売店では、行列も出来かけている。焼きそばとかお好み焼きを買って仲間に配っているグループや、クレープとコーラを持ってベンチに座るカップルが見えた。

 これからもっと混み合って来るだろう。

 池のこちら側の広場では、大道芸人のグループが公演の準備を始めていた。その横に並ぶ露店の方でも、熱心な売り子に声を掛けられて、立ち止まって品物を物色する行楽客が増えて来ていた。

 私には特に変わった様子を感じられなかった。


「どうしたんです?」

「遠くから見ていると、何やら目的があって動いているグループがある。バラバラに動いているようで、上から見ていると分かる。哉太は分からないのかい。ちょっと、観察力が足りないのじゃないか」


 里見清史郎は少し皮肉に言った。


「ほら、東の方、広場の公園駅口側の入り口に立っている男、あの周りに何やら緊張感がある。それと何本かある橋の付け根に立っている男たち。広場の出入り口は彼等が押さえている感じだ。そう思って見ると、人混みの流れの中にも、周りに気を配りながら歩いている男たちがいる」


 目を凝らして見るとそういう男が交じっているような気もするが、どうなのだろうか、よく分からない。


「いやいや、もっと俯瞰して、流して見る感じかな」


 気をつけて見ていると、露店の似顔絵描きの男に声を掛けている人に気がついた。笑いながら話しかけているが、似顔絵描きの男の挙動がおかしくなって来た。少し視線を泳がせるように、チラチラ周りを見ている。

 すると、少しづつ二人に近寄って来る男たちが広場の周りから出て来た。人の流れに従い周りから寄って来る。ここまで来ると全体の動きが集約されて来ているのが分かった。

 我慢できずに似顔絵描きの男が、手に持っていた絵葉書か何かを前に立つ男に投げつけて逃げ出した。大道芸人たちの方へ走って突っ込んで行くが、周りに寄って来ていた男たちが逃さなかった。一人が男に抱きつき倒れ込んだ。そこにまた寄って来た別の男が上から押さえ込む。すかさず他の男たちがその周りを取り囲んで、集まって来た見物客から見えないように隠した。その中の一人が周りを見渡して大声を出した。


「お騒がせしました。警察です。心配ありませんので、固まらないようにお願いします!」


 朝と同じように、池のボート置き場の前に警察車両がゆっくりと入って来て駐車した。男たちは一斉にそちらへ向かって動いて行った。何人かが見物客を整理する。捕まった似顔絵描きは、不貞腐れたように引っ張られていった。男が車に乗せられると、直ぐに車は出ていった。後には、いつの間に入って来ていたのか、数人の制服警官が後始末をしているだけだった。

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