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へこたれない3

 

「エリーお姉様。わたくし、考えてしまいますの。今回のこの騒動が収まった時、“魔女のした事だから”と、彼を許さなければならないのでしょうか? それって変じゃありませんか?」


「アリス様……」


  とうとう明日はダンスパーティーです。学園の舞踏会場は前日である今日から支度され、私たちは最後の打ち合わせ、という名の作戦会議中です。

 やれる事は全てやったと自負しております。

 問題の新月の夜は、彼らが出会わないよう画策しています。そして明日の満月の夜、全てを終わらせようと私たちは決めたのです。

 魔女に自白させ、拘束し、封印しよう、と。



「彼らに悪気はなかったと思います。魔女のせいだって事もよく存じております。

 しかし、悪気が無かったとはいえ、わたくしは傷つきましたわ。とても心配もしたし、腹立たしくも思いました。あの女の手を取って、()()()()わたくしの前まで来て暴言を吐いた事、忘れられるものですか!あの侮辱!それを全て無かったことにされるのは、どう考えても納得できないのです!」


 そんな事してたの? ヒューイ様(あの馬鹿)は。

 聞いてるだけの私も腹立たしいです!


「アリスちゃん……そうよね、私も同じ思いだわ。何故、私たちだけが煮え湯を飲まされて、それを黙認しなければならないの? 理不尽だわ! 今回のダンスパーティーのドレス! ブラウン嬢のドレスの請求書を、あの馬鹿ルイ、(うち)に回してきたのよ! 私のドレス代ですって! 巫山戯てるわ!」


 えぇ? それは支払い義務など無いのでは?

 ブラウン嬢用のドレスをチャタム商会で作るのは、まぁ普通の事でしょう。お商売ですもの。その支払いがノーサンプトン家に請求される? ルイーズ嬢のドレス代だと偽って?

 それって、詐欺って言いますよね?

 そんな詐欺行為が罷り通ると思っているのなら、間違いなく巫山戯てますわ! ルイ様の(おツム)が!



「ルイーズ姉様も理不尽な目に合ってるんですね……

 わたくし、今となっては結局、婚約者(あの人)って魔女の色香に惑った、ただの愚か者なんだなって思えてきたんです。そんな人に侮辱されたんですよ? クラス全員の前で! それを簡単に許す道理が有ります? 有りませんでしょう?」


 言われてみれば納得しかないです。


「私は魔女の贄に選ばれて、不憫な奴だという認識しかなかったな……そうか、アレを許さなければならないのか……そうか……それは、うん、心情的に難しいな……」


 リリベットにも思う所が多いみたいですね。


「リリ……ダン様を、許せそう?」


 アレクサンドラ様が残念そうな顔で笑いながらリリベットに質問します。


「もともと、あいつの視線が嫌いだったからな。許せそうもないな」


「視線?」


「胸をじろじろと露骨に見るんだよ。子どもかってくらい」


「まぁ! なんて失礼なの!」


「それで……あの女を連れて、わざわざ私の前に来て、露骨に彼女の胸と私の胸を見比べて、鼻でせせら笑って去って行った事があった。

 ……あれは流石に剣を抜きたくなったな……」


 ブラウン嬢のお胸はたっぷりしてるのを更に見せびらかしてますものね。

 リリベットはそれなりにあるけど、邪魔になるからって布を巻いて押さえています。そんな事、見ただけで判断出来ませんもの。


「我慢したんですか?! リリ姉さま、なんて忍耐力が強いのっ!!」


「私怨で剣は抜かない」


「もともとダン様は剣の腕がリリより劣っている事を気にしている節があったから……魔女に感化されて、嫌がらせしたのだと思うわ……斜め上にグレードアップしてね。

 そうか……あの魔女に影響を受けると人間性が嫌な方向に捻じ曲がってしまう……というか、心の底に隠していた欲望を我慢出来なくなるんだわ。強欲の魔女と呼ばれる所以かしら」


「こう言ってはなんですが……ダン様はとても騎士団に入れる器ではありませんね」


  彼は正義感が強い方だとは思うのですが、ちょっと子供っぽいというか、ご自分の我を抑える事ができない方です。リリベットは『私怨で剣は抜かない』と言いましたが、もし同じ立場にダン様が立ったとしたら、間違いなく抜刀していた事でしょう。


「騎士になれたとしても……王宮勤めが出来る程の騎士になれるかどうか分からないな。というか、品性下劣だから無理だろう。騎士には高潔さも求められる。考えるくらいは人間なんだから許されるだろうが、それを面にだすなど、言語道断だ」


 リリベットの言うことはもっとも過ぎて、皆頷くしかありません。


「アリス様もリリベットも、魔女を連れた婚約者に挑発された事がお有りなのね?」


 頷く二人。()()()()()()()()()……いいえ、逆なのかもしれません。()()()、婚約者を連れて私たちの前に来たのかも……。


「ねぇ、アレクサンドラ様。もしかしたら、魔女は私たちの婚約者を奪い取ったという事実に、なんらかのステータスを認めているのではなくて? 次のダンスパーティーの時も、同じような行動をとるかもしれないわ。斜め上にグレードアップして」


「同じような? グレードアップして? ……例えば、5人を侍らしてパーティー会場に来るとか?」


 ダンスパーティーは、パートナーを伴い二人一組で入場するのが一般常識です。


「えぇ――? なんて非常識なのぉ……でもやりそう……」


「わたくし達の前に、戦利品()を見せびらかしに来る……あり得そうですわね」


「その時に、魔女の口から、自分が殿下たちを操っている事実を話させれば……」


「あ! 条件が、揃いますわね!」


「“本人に魔女の自覚があるという宣言”をさせ、“正しき力で拘束”し、“聖女の祈りで封印”、この3つの条件の一番難しい部分、“本人の魔女宣言”が出来るかもしれないって事ですね!」


「大人しく犯行を自供してくれれば手間が省けるのだがな」


「相手を煽って、癇癪を起こさせる方向でいくのはどうかしら? もしくは、おだてていい気分にさせて自供させるとか」


「どちらにしても難しいですね。気がついて逃げられてもマズイし。ブラウン嬢本人の意識がどの程度残っているのかも分かりませんし……」


「霊体になって逃げられたら私には追えないぞ?」


「そうなったらまた一から……憑依体探しからやり直しだわ。出来れば明日で全てのカタをつけたいの」


「もし、霊体になって逃亡されたら……その時の殿下たちはどうなるのでしょう? 今でさえ、魔女が傍にいないと生きる屍、だなんて言われていますのに……」


 私の質問に、皆が黙ってしまいました。


「……最悪、その魂を贄にされてしまうわね。そうならない為に明日(満月)の晩を選んだのだけど……どうなるかは、神さまにしか解らないわ。それに……取り憑かれていたブラウン嬢も、生命力を奪われる……本当に“第一の犠牲者”になるわ」


 神のみぞ知る、ですか……。


「殿下たち5人の魂と憑依体の魂を贄にしてから逃亡したら……次は、更に強い力を持つ魔女になってるかもしれないって事だよな?

 ルイーズ、アリス、二人は今何歳だ?」


「え? 私、まだ誕生日が来てないから16歳ですけど」

「わたくし、3か月前に16歳になりました。」


「万が一、逃亡を図った魔女の次の憑依先になる可能性がある。二人は明日のダンスパーティーには絶対来ないでくれ」


「そんな事が……」


「そうね、絶対起こらないとは限らないわね。実際、二代前の聖女が逃亡先に選ばれた事があるの。一番近くにいた“17歳になったばかりの少女”だったから。その時は壮絶な最期だったと記録されているわ。聖女の自覚がありつつ、魔女の意識と戦って、自分ごと封印したらしいわ」


 魔女に憑依される対象は15~16歳の少女だと聞いておりましたが。


「17歳になっていても狙われてしまうのですね……」


「アリは?!」


「大丈夫、わたくしはもう18歳だから。リリ、あなたも大丈夫でしょ? エリーは?」


「私も、もう18になったから、大丈夫かと……では、明日のルイーズ様とアリス様のお二人はお休みですわね。絶対、学園に来てはダメですよ?」


「おねぇさま……」


「エリー姉さま……判りました……でも! 私は2年生だから、元々参加資格がないです!」


「興味本位で来るなって事だよ」


「わたくし……ヒューイ様が迎えに来ますかしら? 来ない気がします。今日になってもエスコートする旨の連絡などありませんから……」


「もし万が一、迎えに来るようなら、ちょっとは許して差し上げてもいいんじゃないかしら? ほら、言ってたでしょ? 今回の事、許すのは納得できないって」


「あぁ、なるほど。試金石になりますわね」


「それに、よく考えてみて。ヒューイ様(馬鹿野郎)を捨てるのは簡単だけど、それをすると、貴女も『浮気者を絶対許さない狭量な女』と呼ばれるって事を」


「……あ」


「この貴族社会では変な噂を立てられる事が一番怖いと思うの。そしてどんな方向から責められるか予想もつかない。アリス様に、その覚悟はあって?」


「でも! 変な我慢するのも、辛いと思います!」


「その通りよ。だから、よくよく考えた上で結論を出してね。吟味した上での結論なら、それがどんな結果を産んだとしても、私はアリス様の味方をするわ。絶対にね」


  もっとも、私の可愛い妹分のアリスに妙な噂話なんて付けさせる気は、毛頭ないけど……って本人に言えたら、私もカッコよく成れるでしょうにねぇ。口下手な自分が情けないですわ……。






 そして。


 まさか、あんな結末が訪れるなんて、この時の私たちには想像も出来なかったのです。




“あんな結末”は、アルファポリスさまに掲載している『もしかして俺は今、生きるか死ぬかの岐路に立っているのではなかろうか』で先読み出来ます。

が、テイストが全然、全く、90°、否、270°位違うのでガッカリする事、請け合いです。


或いは、改題した『婚約破棄宣言をした直後に前世を思い出した俺は、この絶対絶命のピンチから生き延びるつもりだ』で知ることもできます。

『もしかして俺は今~』をなろう用に改稿したものです。


未読の方はこの『戦う女子~』を完読する迄、未読のままで居る事をお勧めします。

既読の方は『へふっ』と鼻先で笑って下さいまし。

m(_ _)m

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