未来へ
知っている。
大人たちが本気で悩んでいたことを。
知っている。
今年の冬、村長が口減らしに名乗り出たことを。
知っている、知っている。
皆が悩みに悩み抜いて、兵士と戦うと決めたことを。
知っている、知っている知っている!!!!!!
誰も人を殺したくなんてなかった、なんて。
知っている、のに。
「こんなの、言えるわけ、ねえ。ねえんだよ。」
どうすれば
どうすれば皆を守れる?
俺一人で抱え込む。駄目だ。人数が違いすぎる。
村長にだけ伝える。これも駄目、全員に伝わるだけだ。
しかも伝えたところでどうなるというのだ?村を移動させるのか?無理だ。村の家も家財も山の中じゃ領主の兵隊が探せないほどの長距離までは運べない。しかも移動したとしてもあの山賊たちに探されて見つかれば密告までされるだろう。オレひとりではどうにもならない。
山の中をゆっくりと回り道で歩いていても、いつかやはり目的地についてしまう。いっそ、一生つかなければよかったのに、と馬鹿な考えをしていた。
「あっ!!デル!!!よかった、無事だったのね!」
りー、ん姉ちゃん
「もうちょっとで日が沈むじゃないの!それは……リス?
もしかして、あなたみんなからがっかりされるのが嫌だから帰ってこなかったの?」
「……うん。そう、かな。誰もがっかりしてほしくないよ。」「馬鹿ねえ。……えっ!?まさか、泣いてる!?」
誰もこれ以上苦しめたくないのだ。親もいない、さぼりがちで性格も悪い自分に、一度も飯を我慢しろとも言ってくれない皆をもう、悩ませたくなんかない。
「仕方ないんだから……ほら、こっち来なさい。ママがだっこしてあげる。」
え?なにが?なんで?
「なんでって顔しないの!いつもいつも親がいないからって遠慮ばかりして……寝てサボるふりで自分食べる量を減らそうとしてることなんてバレバレなんだから!」
……。
「親がいないからあなたが気を使って遠慮するなら、私がお母さんになってあげる!から!あなたは!もっと!
自由に生きて!もっと笑顔になりなさい!!!!」
……ずるいなあ、リーン姉ちゃんは。
「ママって呼ぶの!それと、女はズルイ方がいいの!」
「リーン姉ちゃん。」「ママ!」「リーン姉ちゃん。」
「強情なんだから……なあに?」
「俺は姉ちゃんと結婚したかったよ。大好きだ。」
「んふふ、知ってる。でも私はキールが好きだったの。皆が殴ってたキールが、ね?」「知ってるさ。はあ……」
「まったく、世界は俺に優しくねえな。」
備えよう。
「大げさなんだから、馬鹿デルは。」
この人たちを守れるように。
「とりあえず、飯食ってキール殴ってくるよ。」
誰も傷付かないように。
「じゃあ、私がそんなキールを慰めるわね。」
圧倒的なまでの、戦の準備をしよう。
おや?友人くんじゃないか!どうしたんだ?え?リーン姉ちゃんはヒロインやん、だって?何を言ってるんだ?こいつ人妻だぜ?たしかに俺はネトリネトラレもイケる口だが……
ま、考えておくよ。(考えるだけ)




