昼飯
「あら、起きてきたのね。ねぼすけさん。」
「んー、おはよう。リーン姉ちゃん。」
リーン姉ちゃんは16の、この元村現在山賊の集落の中で最も若く最も美しい女性だ。マドンナというやつである。結婚しているが。彼女が結婚すると決まったときは村の男衆全員で相手の男の丈夫さを確かめたものだ。もちろんオレ(当時8歳)も参加した。そのあと泣いた。憧れの美人お姉さんは少年たちのアイドルだったのだ。
「お昼ごはんはできてるから、ちゃんと食べておきなさい。今年が一番食べれるんだから。」そう、オレたちの村は山賊になった。この場合の山賊の定義とは、山中に住み処を持ち、それでいて税の穀物を納めない者たちのこと、らしい。だが税を納めたら全員飢えて死ぬのに税を納めないといけないというのはわけがわからない。きっと領主はバカなんだろうな、とオレは思っていた。
税を納めなければ、今年の分の食べ物は解決できる。問題は、来年からの食糧と、税を納めなくなったことに気付いた領主からの兵士の派遣であった。山賊は兵士たちから隠れながら小さな畑などをつくり、兵士たちを自分たちの集落を隠しながら撃退せねばならないのだ。税を納めず山賊となってその年の冬を越した村が、領主の手先とのかくれんぼに熱中しすぎてその次の年の冬の食べ物が足りず、散り散りになって本職の山賊につかまる、というのも悲しきお約束なのだった。
幸いというべきか、オレたちはくにのこっきょう?というところにある山がいくつも連なったところに住んでおり、よく知らないが領主はあまりここに兵士たちを向かわせれないそうだ。また、山の中は豊かで、兵士たちに見つかりさえしなければ小さな隠し畑で十分暮らしていけるというのが大人たちの考えらしい。
「ま、難しいことは村長、おっと、今はお頭かな?まあいいか。そいつらに任せとこう。メシメシっと。」
そう言いながら広場に歩いていると、誰かが自分にむかって歩いてくるのが見えた。
「おお、デルじゃないか。もうふて寝はいいのか?」
「お、そんち……お頭?」「お頭はやめとくれ」
「じゃあやっぱ村長だな。おはよう。なかなか山賊も悪くねえってわかったよ。。昼まで寝てられるし、飯も食えるしな。」そう言うと、村長は苦笑いをして見せた。
「いや……飯はともかく、隠し畑もあるんだから普通におきなければならんぞ。特にお前はわしらの肉のためにもこれからは早起きじゃ。」
「くそう、やっぱりかよ。あーあ、オレ以外にも誰か狩人やってくんねーかなあ。」
オレの父ちゃんはすごい狩人で、熊とか猪とかをバンバン狩ってくるやつだったが、怒りっぽくて喧嘩早かったせいで、オレ以外に狩人としての技を教えれなかったのだ。オレも父ちゃんに叩かれまくってたけどな。
「お前が子供たちに教えればいい……いやダメだな。お前は父親によく似てめんどくさがりのくせに怒りっぽいからなあ。」
「おいおいオレは父ちゃんみてえに怒ったりしねえよ!狩人になるには間違えたときに殴ったりしたほうが分かりやすく覚えやすいんだよ!」
「それがダメなんじゃがなあ……おっと、デルや、このままだと昼飯までなくなってまうぞ。」
「うわやっべ!じゃあな村長!」
やっぱりじいさんになると話は長くなんのかねえ。ま、とっとと飯を食っちまおっと。
綺麗なお姉さんとか憧れの人の結婚って複雑よな……経験ないけど。




