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地上で縺れパスタ

* * *


 愛撫、愛撫、愛撫。俺にはやらない細かい手付きで彼は自分で焼いたスポンジケーキに自分で混ぜたクリームを塗りたくる。俺にはしない力加減で、ゆっくり、優しく、細やかに。俺の髪を掻き乱して、引っ掻いて、噛むくせに。



 浮き足立った鼻歌を聞きながら俺は皿を洗っていく。所々外れる音程も、他のやつなら不快なのに、こいつのものだと可愛く思うから惚れた者負け。不条理だ。すべて許せてしまうから。



「イチゴうま~」




 クリームを塗りたくりながら片方の手はいちごをひとつ拾っていく。もう3個目だ。




「飾るものがなくなるぞ」



 皿の水を払い、パスタの茹で具合を確認する。ベーコンは厚切りにして、トウガラシは少々。ニンニクチップは多め。味も濃いめ。ソーセージを添えよう。惚れた者負け。味付けはあいつ好み。ニンニクは苦手、薄味が好き。俺とは反対。それでも美味しいと言ってくれるなら俺も美味しくなるのだろう。不条理だ。何色にしろ、こいつ次第でカメレオンみたいに俺の好みは移り変わる。




「スパゲッティーどう?」

「いい感じだ」




 イチゴに伸びた手が止まる。クリームを満足に塗ったら、次は絞り袋でデコレーションをはじめる。




「あんま食ったら、お前の食えなくなっちゃうな」




 そこにもホイップクリームを塗ったのかと思うほど白い歯を見せて笑う。それであいつとのキスはホイップクリームよりずっと甘い。不条理だ。俺ばっかりが物足りない。それでいて簡単に満たされる。




「お前のペペロンチーノ、大好きだもん、オレ」



 口元、鼻の頭、俺のキスする場所にあいつは口実を残してくれる。どうしたらそうなる?こいつは俺を試していて、きっとこいつにそんなつもりはない。惚れた者負け。惜敗なんてものではなくて、俺の完負け。複雑に絡んでいたはずの俺の恋心は簡単に巻かれて、こいつの可愛い口でなかったことにされるんだ。




* * *

2020.12.20

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