カボチャクッキー
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好き合っているならすべて分かり合えるだなんて幻想だ。いつからそんなことを思い込みはじめたのだろう。
俺たちは違う人間だから惹かれ合った。俺は俺の面倒臭さに嫌気が差したから。俺たちは同性でこそあって、生殖なんてできやしないし望んでもいない。けれど根源には有性生殖という、それは俺たちにとって性別ではなかったけれど、性分という点で、自分とは違うものを求めたわけだ。憧れたわけだ。人生という各々に与えられた無自覚で呑気な絶望の中に活路を見出したわけだ。惹かれ合っても、そこには必ず、陰もある。罅も。そこを、愛せていただろうか。
こういうときにこの季節に薫る金木犀は煩わしかった。苛立つ。匂いに?俺も相当、参っている。匂いが煩く、目障りになるなんて。
原因はあいつだった。ハロウィンに浮かれているのはいいけれど。他のやつに餌付けをされて喜んでいるのが嫌だった。
どうせ俺は狭量だ。けれどプライドが邪魔をする。自覚はある。だがそれを表立って露呈することができない。それこそ恥だ。ここで耐えて器は広がるのか?伸びてびよんびよん、ゴムみたいになるんだろう。それともはち切れるのか?
俺は嫌だ。嫌だった。この一言二言を吐き出すのはエゴでしかない。俺は相手に完璧な振る舞いを求めているのか?都合の良い恋人を求めているのに過ぎないのか?
すぐそこに置かれたクッキーが憎らしかった。叩き割ってやりたい。カボチャの化物が俺を嘲笑っている!
俺は疲れていた。重罪人みたいに俺は全身を鎖で巻かれて拘束されているみたいだった。
けれど確かに俺には辜があって、今その咎を受けているのかもしれない。いやいや、悲劇のヒーローぶるのはよせ。自分で選択し、自分で飛び込んだことだ。
連絡は休日は1時間に1度。何をしているか、写真付きで。誰とも2人きりにはなってはいけない。連絡先はどういう相手でも追加するたびに見せなければならなくて、許可を乞う。そんな生活できるのか?
これは罰か、真っ当な報いなのか。
求めたからには俺が完璧な恋人というやつになりたかった。俺はプライドが高かった。そんな器量はないくせに。
けれどここでやめたら?捨ててきたあいつの最後の泣き顔と謝罪が目蓋の裏に甦って苦しくなるだけだ。立ち止まれない。本心は殻に閉じ込めて構わない。演じるのみ。
あの日叩き割って粉々にしたカボチャの化物が、まだ俺を嗤っている。
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2023.10.19




