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甘やかスノーグローブ

* * *


 何となく入ったケーキ屋で、恋人はショーケースを眺めていた。オレンジ色の光が洒落た洋菓子をひとつひとつ、熱心に見ている彼の頬で照り返している。




 今の時代はどこでも撮影できる。スマートフォンを構えて、画面に収め、好きなところでシャッターを押す。模写されたワンシーンを事実よりも麗しく変えることもできる。

 スマートフォンを構える。画面を通して、ひとつのケーキを指で差す彼がこちらを向いた。日に焼けた顔が華やかに、白い歯はオレンジ色の光で照る。近くの飾りが光芒を作り、大好きな人の形が途切れてみえた。シャッターを押す瞬間を逃す。連写するか、彼に見惚れるか。一瞬の隙もない。片想いを連写している。彼は恋人だというのに。




 彼が選んだキウイとイチゴのタルトを買った。星空は見えなかったが斑らな灰色が広がっている。それでいて陽気な音楽によって地上はどこも陽気だった。 


 隣を歩く恋人と体温を狭い布地の間で共有する。歩幅は合わない。ブラウンの革靴と、寒げなスニーカー。真横の彼はイルミネーションに彩られた街灯を見上げて歩く。繋いだ手と反対のダッフルコートのポケットが蠢いた。




「これ、100均で見つけた!」




 彼の表情に淡雪が掛かる。白くなる。触れたはずの柔い熱も、唇を当てた肌も、軽やかな笑い声も、覚えていて、蘇らない。ケーキ屋の前に立っても思い出せなかった記憶が、テレビから流れる音楽ですべて帰ってきた。あの日貰ったものを知っていたくせ長いこと目を背けていた。箱を開けるのは二度目だ。球の中で寄り添うウサギに降り掛かる溶けない白化粧を羨んだ。




* * *

2020.12.19

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