再びあれか
大変申し訳ありません。更新遅れました。
しっかりと完結させるつもりですので、これからもどうぞ、よろしくお願いします。
内容覚えていないよ、という方は前話から新章が始まったので読み返してみていただけると幸いです。
あらすじ。
夏休みに入って朝比奈夜鶴の母親が経営する喫茶店でアルバイトをすることになった夏芽と左近。
楽しくアルバイト生活を満喫していた彼らだったが、帰り道にクラスメイトの纔ノ絛龘を見かける。
しかし、どうやら彼の様子はおかしいようで──
何だかんだで、SNSを始めることになったため、今日は幾つか職場風景の写真を撮った。俺自身、あまり写真を撮られることに慣れていないため、変な顔ばかりで、修正のために余計に時間を取られてしまった。
それに比べ、左近の方は容量がいいと言うか、自然な表情を浮かべていてすごいと思いました。はい。
「それじゃあ、お疲れ様です!」
「おつかれさまで〜す」
着替えや引き継ぎを終えて、左近と帰宅する。
夏の日はだいぶ伸びていて、もう7時だというのに全然明るい。
夜鶴のお母さんから差し入れでもらった棒付きのアイスを口に含みながら、だらだらと駅まで歩く。
ぬるい風が体を冷やしてくれることはなく、ただただ心地悪い。
「んあ。あえあんのおうあええお?」
「なに?」
「あれ、纔ノ絛じゃねぇの?」
左近はアイスを一気に口へ含むと、棒をプラプラしながら、道の端を指した。
「本当だ」
「相変わらずキョドってんな。ちっと声掛けてみっか」
言うや否や、左近は「おーい」と声を掛けながら纔ノ絛くんの方へと歩いていく。
彼のコミュニケーションには、遠慮という概念はないのだろう。少し羨ましい。
そんなことを考えながら、俺も追うように、小走りで近づいた。
「な、なんのようですか……?」
左近に問いを投げかけた纔ノ絛くんだったのだけれど、俺の顔を見ると、表情を強ばらせた。
「実はよ、お前の様子がおかしいって話を夏芽としててよー。昨日もキョロキョロしながらこの道歩いてたんだってな? 俺も一ヶ月前に見た時から気になってたんだが……なんだよ、なんかあったのか?」
「い、いえ、別に……」
そう言いつつも、纔ノ絛くんは体を小さく縮こませると、辺りをキョロキョロと見渡している。まるで何かに怯えるように。
「あー。お前夏芽のこと嫌いだったりするか? 大丈夫だって。こいつ話してみるとすげぇ良い奴だぜ?」
「別に嫌いってことはないですよ……。ただ、ちょっと近づいて欲しくないだけで」
それ、嫌いと何が違うんですか?
直接的表現を避けられたことで、余計に傷ついた感がある。
「えっと……」
纔ノ絛くんはしばらくの間、黙り混んでしまったが、やがて覚悟したように口を開いた。
「実はボク、ストーカーされてるみたいなんです」
ストーカー……。
その単語には嫌な思い出しかない。
二重さんを巡るあの事件は、今でも時々夢に見ることがある。怖かった。ほんと、マジで死んじゃうかと思ったよ。
「……とりあえず、場所を移そうか。今の話が本当ならここも危ないかもしれない」
俺たちは纔ノ絛くんを連れて、朝比奈さん家のカフェへと戻る。幸いにも、その間の移動中にはストーカーの気配もなく、無事にたどり着くことができた。
店内はだいぶ空いていて、お客さんは俺たちの他に1組しかいない。お盆期間ということもあり、客入りが減っているようだ。
夜鶴は未だエプロンを身につけたままだったが、店が空いているということもあり、俺たちと一緒に話を聞くことになった。
纔ノ絛くんは、つぶらな瞳をうるませて、話を再開する。
「さっき郷右近くんが言ったみたいに、一ヶ月くらい前、同じようなことがあったんです。その時は数日続いて──でも直ぐに終わりました。ですが、昨日と今日はすぐ近くまで迫られてるような気がして……」
「相手の特徴とかわかんねぇの?」
「ボクも怖くて直視はできなかったのでよく分かりませんが、男の人だったと思います」
「警察に相談した方が良さそうだな」
「そうだね」
「相談は──しました。だけど、ストーカーって恋愛絡みの場合のみ、犯罪として成立するみたいなんです。ボクは男ですから……その、男が男に対するストーカーは恋愛感情によるものとは認められない、とのことで……」
「なるほど。時代だなあ」
「え?」
「あ、いや。なんでもないよ」
この時代は、水無月透として生きていた時代よりも前になる。平成の終わりであるこの世界では、あまり同性愛というものが浸透していないらしい。
まさかここで、前世はもっと未来を生きてました。なんて言う訳にもいかないので、誤魔化しておく。
「つーか、やっぱりお前男だったんだな」
「え? あっ、はい。……家庭の事情でこんな格好をしていますが、少なくとも身体は男です。見てみます?」
「見る!」
「見るな!」
つい大声を出してしまった。
左近は好奇心旺盛というか、なんというか……。
ダメだよ、纔ノ絛くん。左近はこういうやつなんだから……。
「俺はてっきり女の格好をした男って設定の女かと思ってたぜ?」
「ええぇ。めんどくさい。性別を偽る意味なんてあるんですか……」
「ねぇな」
纔ノ絛くんの言葉に左近は納得した様子を見せる。が、男装した女子生徒がクラスに一人いることを俺は知っている。
ほんと、キャラ濃いな、うちのクラス。
「話が逸れたね。今回の件だけど、1番早いのはやっぱりストーカーを捕まえることだと思う」
警察が動いてくれない以上、自分たちでどうにかするしかない。現実世界──というか、前世の俺ならば、こんなこと考えもしなかった。
けれど、『トモ100』の世界はこういったイベントで溢れ返っている。何かしらの解決方法がある……気がする。のです。確証はないけれど。
「捕まえるっつっても、現実的じゃあねぇだろ」
「そうですよ。……それに危ないです」
まあ、そうだよね。
だけど纔ノ絛くんが困ってるし……。
何かが起こってからじゃ遅いし。
「纔ノ絛はさ、夜遅い時間に出歩かないようにとかできねぇの? 親に相談するとか」
「すみません。親には頼れないです。ボクの家は母子家庭で、母はいつも遅くまで働いてるんです」
どうやら彼は毎日塾に行っているため、帰りが遅いのだという。
自分のために身を粉にして働いてくれる母に報いる為にも、好成績を残し、大学にかかる奨学金をただで借りるつもりらしい。
そんな未来のことまで考えているだなんて。
素直に尊敬する。俺もこれまで勉強を初めとした努力をしてきたけれど、それでも彼ほどの明確な意識や目標があったわけではない。
彼の覚悟は尊敬に値する。心の底から、そう思う。
「あの、朝比奈さん、どうかしました?」
「あっ……えっと。いえ、何でもないです……」
心配そうな顔をする纔ノ絛くんにつられて隣を見ると、顔色を悪くした夜鶴の姿があった。
「……ごめんなさい。あの、私はもう仕事に戻りますね」
トレーを抱えて、そそくさとその場を離れてしまう夜鶴。
「どうしたんだ? あいつ」
「ボク、何か変なこと言っちゃいましたか?」
分からない。
何故彼女は──あんなにも苦しそうな顔をしたのだろう。
不思議に思いながらも、纔ノ絛くんのストーカーについて話を進める。
残念ながら、これといっていい案は思い浮かばなかった。




