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秘策



 愛萌との練習も済ませ、いざ試合。

 今日のバスケはひとクラスを3チームに分けて、試合を行う。

 俺と愛萌は1年B組のBチームだ。

 メンバーには、瀬戸くんや向日さんといった、スポーツが得意な人材が揃っている。

 他のチームよりも偏りがあることから察するに優勝を目指せ、ということだろう。


 1年B組には、愛萌の他に3人のバスケ部員がいる。

 男バス組が唐桶(からおけ)桜流(おうる)くんと、久遠(くおん)迦雲(きゃうん)くん。

 女バス組が小牧(こまき)(れい)さんだ。

 Bチームのキャプテンに愛萌が抜擢されたように、唐桶くんがAチームのキャプテン、小牧さんがCチームのキャプテンに選ばれている。

 久遠くんは俺たちBチームだ。


「おうーし、ぜってぇに優勝すっぞ!」


 愛萌の方は気合十分といった様子。

 メラメラと燃えている。


「夏芽はあれだな、まずは見て勉強した方がいいな」


「うん。そうするよ」


 サッカーに比べバスケは初心者がファールを取りやすいスポーツだ。

 最低限そこには注意して今日は頑張るとしよう。

 今日の大会は5分クオーター制。27チームの中で優勝を目指すなら20分の試合を5回も行わなければならない。試合に出ない間、体力は温存しておくべきだろう。


 愛萌や久遠くんなんかは、全試合出る体力はあるんだろうけど。


 一試合目は1年C組Aチームとの対戦だ。

 

「頑張れ〜!」


 ジャンプボールの準備に取り掛かる久遠くんに応援の声をかけると、何故か瀬戸くんが一瞬だけこっちを見てから、直ぐに視線を戻した。


 試合開始。


 タイミングとバネを活かした久遠くんがジャンプボールを制し、速攻。

 ボールを受け取った愛萌が敵を躱しレイアップ。

 先制点を奪取した。練習のときも思ったけれど、やっぱり彼女、速い。

 なんで手元を見ずにあんなドリブルができるんだろう。付け焼刃の俺では間違いなく無理だ。

 それに久遠くんもそうなのだが、経験者というのは間のとり方が上手い。


 相手チームには経験者がいなかったようで、テンポよく得点を重ねていく。

 見てるこちらまで疲れてしまうほどの試合展開。

 相手チームなんて、ほとんどボールに触れていないのに延々と走らされている。シャトルランかな。


 結局、3Qで愛萌が、4Qで久遠くんが下がり、大差をつけての勝利となった。


「なんか思ったより余裕だったな」


「うん。いい感じに温存できたね。……で、次が本命かあ。本気でやるなら外からいくしかないだろうね」


 愛萌と久遠くんが何だか難しそうな話を始めたのでボーッと眺める。


 次の試合は俺も参加するとのことだったので、先に身体を解しておこうと思い、ボールを片手にコートに立つと、何かにぶつかった。


 ぼよりと、硬いようなそれでいて弾力のある何かに弾かれよろめく。


 それはまるで壁だった。


「あっ、すみません……ちょっと余所見してまして」


「イヨイヨー。ダイジョウブ?」


「うちの女子バスケットボール部の部長だよ。モンスターキ・ム二ク・ダルマ・ゴブ・リンオーク・エンシェントガム先輩──みんなモムダちゃん先輩と呼んでるぞ」


 いつの間にか生えてきた愛萌がその人を紹介してくれる。


 彼女の身長は恐らく220cmを超えていた。

 ドレットヘアーの黒人で、筋骨隆々、スポーツをするために生まれたような相貌である。


「シッテマシタ? ガムニハ、ショウミキゲンガ、ナインデスヨー」


 とても気さくでユニークな方らしい。

 俺は、二カッと笑って差し出してきた手を握り返す。

 やはりと言うべきか、手も相当大きく、力を入れているわけではないのだろうが、圧迫感が凄い。


「よろしくお願いしますね、モムダちゃん先輩」


「ウンウン。ツギノシアイ、ヨロシクヨー」


「……え?」


 俺たち、次の試合この人と戦うの?

 マジで? と、確認するように愛萌を見る。

 それが伝わったのか、彼女は真剣な顔つきで頷いた。


 ──外からいくしかないだろうね。


 先程の久遠くんの言葉を思い出す。

 なるほど。つまり彼女の守備範囲外から攻めるということだろう。



「いいか、夏芽。次の試合は3点で攻める。下手に突っ込むくらいならガンガン打ってけ。大丈夫、攻撃は止められなくてもシュートが3回中2回入れば同点だ」


「……いや、NBA選手でもスリーポイントシュートの成功率は50%に届かないって言ってたよね?」


「大丈夫だ。それは相手の守備もNBA選手だからだろ? ほとんど初心者しかいねぇ一学校の大会でなら、あの人たちは9割決めるし、あたしだって7割決めてやる」


 手のひらにグッと力を入れる愛萌。

 負けるつもりは微塵もないらしい。

 なら俺も、弱音ばかり吐いてる訳にはいかないな。


 この試合、なんとしても勝たせてもらう。

 俺は意気込んで、コートに立った。






 試合開始。

 実際にコートに立ってみると、試合の流れは想像以上に早かった。

 モムダちゃん先輩の動きは初心者の人達とパスを回していくチームプレイ。

 たぶん本気ではないのだろう。勝ちに行きたいという熱意は感じない。

 それでも決めるところは決めてくるし、あの手足の長さは尋常じゃないほどの防御力を誇っていた。

 リバウンド、全部取られたもん……。


 点差はほとんど接戦。

 若干こちらが優勢ではあるものの、使っているエネルギー量が全然違う。

 2Qが終わった時点で、こちらのメンバーは満身創痍とまではいかないにしても、だいぶ疲労した様子だった。


「にしても夏芽、全然点入んねぇな」


「うっ……」


 前半で決めたシュートは一本だけ。

 めっちゃシュート外しました!


「いや、お前ボール運びは上手いし、パスも的確だから助かってはいるんだけどよ、後半戦はモムダちゃん先輩がそれを見逃してくれるとも思えないしな」


「弾道が低いんですよ。秋梔くんのシュートは」


 後半の動きについて考えていると、愛萌の話を遮り、久遠くんがそう言った。

 愛萌相手に話すときとは違い、丁寧語。


「本来、ゴールはボールの直径よりも20cmほど大きく設定されているんです」


「へえ、そんなのほとんどボール2個分じゃん! それを聞くと、確かにこんなに外れるのも変な気がするな」


 恐らく俺の打つシュートは、決まるか決まらないかの前段階。必須条件を満たしていないのだ。

 弾道……入射角、反射角とかそういう話かな。


「たぶん秋梔くんは感覚よりも頭脳でスポーツをするタイプですよね?」


「……うん、そうかもしれない」


 さすがにシュートを打つ際に入射角や反射角を計算するようなことはしないし、そもそもできない。

 ただ試合の流れのようなものは頭で考えてる……気がする。


「実は僕もなんですよ。今から少しだけアドバイスをしますので、よく聞いていてください」


 俺はタオルで顔を拭い、久遠くんの話に耳を傾けた。



「まず相手陣地にバナナの皮を仕掛けてですね……」


 この学校、まともな人いないの?


 

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