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自宅謹慎



「男女平等社会になったらさ、女も徴兵されんのかな」


 繋いだ電話の向こうで、そんなことを話し始めたのは同じクラスの友人、男虎愛萌だ。

 御手洗さんとの件で学校を休んでいたこの数日、ほぼ毎日のように彼女が電話を掛けて来てくれていた。

 暇を持て余している俺からすれば、非常にありがたい心遣いだ。


 話の内容はほとんどが益体もないものばかり。

 雑談だったり愚痴だったり。でも、そんな話を意味もなく理由もなく気軽に話せる関係というのは非常に心地良い。


 まあ、今日に限っては、愛萌が少しだけ難しいことを話しているのだけれど。



 元々は球技大会の2日目、バスケットボールのチームが男女混合だという話をしていたのだけれど、どういう訳か話がこっちの方にまで逸れてしまったのだ。


 非常にデリケートで且つ、難しい話だ。


「うーん。男女平等ねえ。俺はどちらかと言うと公平さの方が大事だと思うけどなあ。どうしたって差異はあるし」


 現在のこの国は男尊女卑社会だといわれている。

 それが強まったのは、武士の時代。そう定義するならば、武力が権力に繋がったということは確かだろう。

 そう考えると、平和なこの時代で男尊女卑が未だに見られるのはおかしな話だ。


「ただ、その考えでいくと、女性も徴兵されるべきだって主張してるみたいになっちゃうんだよなあ。実際には、そうはならないと思うけどね」


「本当か!? あたしてっぽーで撃たれないか?」


 てっぽーって……。

 なんだか可愛いな。


「そこら辺はたぶん、心配しなくてもいいんじゃないかな」


「けどよ、けどよ。今日、理科でセンセーが言ってたんだけど、今男が産まれづらくなってんだって! そしたら、尚のこと、ヤバくないか?」


「あー、それね。まあ、別に愛萌が思っているようなことにはならないと思うけどね」


 Y染色体が縮小している、みたいな話は俺もかつて聞いたことがあるけれど、これが人類の滅亡に繋がっているかどうかに関しては諸説あるそうだ。問題ないという声も上がっている。


 それに、戦争だって、愛萌が存命のうちは起こらない。この国は平和だよ。……しばらくはね。


「あたしは痛いのも怖いのも嫌だかんな!?」なんて声を上げる愛萌は思いの外必死で、不謹慎にもちょっとだけ可愛いと思ってしまう。


「でもあれだろ? 少なくとも、ドッジボールで、男共は躊躇いなく女にボールをぶち当てる社会になるんだろ?」


「いや、そこは道徳心だから、別に平等になったところで変わらないんじゃないかな」


「雌雄を決するとかも、使えなくなるだろ?」


「それはー、うん。そうだね」


 少なくとも、俺が水無月透として生きていた時代には、失われた言葉だった。


「ヒロインを背に庇うヒーローとかの表現も性差別だあ、みたいに規制されるようになんのかな」


「いやあ。さすがに規制はされないと思うよ」


 ただ、時代は多様性や主張を受け入れることは義務のようになってきているのは事実だろう。

 理解を示そうとしない人間は攻撃対象なわけで。

 規制すべきだ、と声が上がってしまえば、せざるを得ない時代がもう目の前に迫っているのは確かだ。


 声の大きい人が強いってのはいつの時代も変わらない。俺みたいなホタテ野郎はビクビクしながら生きるしかないのだ。


「ただまあ、バスケはドッジボールと違って人にボールをぶつけたりする競技じゃないからね。普通に楽しめるんじゃない? それに、愛萌がバスケをしてる姿を見れるんだもん。今からワクワクだぜ」


「あー、でも、夏芽とあたし、同じチームだぞ」


「えっ!」


「お前すげえ運動神経いいじゃん? 1回一緒にプレーしてみたかったんだよな! 体育委員に頼んでチーム一緒にしてもらったんだよ」


 少し興奮気味に話す愛萌。

 どうやら俺の運動能力に期待してくれているらしい。


「けど俺、あんまりバスケやったことないよ?」


 ほら、俺ってパスとかあんまり貰えないし。

 

 ……泣きそう。



 ちなみに、私立鈴音学園の球技大会は3学年9クラスによるトーナメント戦で行われる。

 2日間に渡る大会の内容は、1日目が男子サッカー、女子バレーボール。そして2日目に男女混合バスケットボールだ。

 野球などとは違って、初心者だけでもある程度は形になるようなものをチョイスしたのだろう。

 少なくとも、ドッジボールはないので、愛萌が危惧するようなことは起きないだろう。

 まあ、愛萌の場合はそこら辺の男よりよっぽど力も強いけど。


「あ? 今あたしのことゴリラみたいだって思っただろ?」

 

「思ってないよ!?」


「ほんとかよ……。まあ、いいけど。夏芽も土日挟んだら、すぐに学校だろ? ちゃんと体は動かしてんのか?」


「いやあ、それがそうでもなくて」


 一応、毎朝ランニングをしてはいるものの、運動自体はそれくらいのものだ。後は買い物くらいしか外に出る機会もないし、球技大会……動けるか心配だ。


「おいおい。大丈夫かよ。どうせ暇なんだろ? 普段は何してんだ?」


「ナニって言われると、ナンとも言えないけど、強いて言うなら最近はパパゴ語を学んでるよ」


「ぱぱごご? なんだそれ。なんかの呪文か?」


「いやいや。全然違う。とりあえずまあ、しこしこと頑張ってるよ。学校もないわけだし、長時間集中もできるからね。お陰で精が出るよ。今もしてる」


「しこしこ? 精が出る? 今もシてる!? おっ、お前、ナニやってんだ!!!」


 うわっ。ビックリ!

 

「急に大きな声出すからビクッてしちゃったよ」


「お前、怒鳴られて反応するタイプなのかよ!?」


「え? いや、うん。そうだよ?」


 普通に。

 ビックリした時の模範的な反射だと思うけど。

 

「愛萌は違うの?」


「あたしは違ぇよ。全然違ぇよ」


「そうなんだ。へぇ〜変わってるね」


「お前が言うか。……お前が言うかよ」


 何故か落ち込んでしまった愛萌。

 ただ、異端なのは間違いなく彼女のほうだと思う。


「い、いや、まあ、いいんだけどよ。ただその……電話してる最中にするのは止めてくれ、頼むから」


「ああ。ごめん。失礼だったね」


 もしかしたら、愛萌は勉強ついでに相手にされているようで気に入らなかったのかもしれない。大丈夫だよ。愛萌が優先だよ。


「愛萌は可愛いなあ」


「……っ!? おい、やめろ! マジでやめろ!」


 お嫁に行けなくなっちゃうだろ、となんだかよく分からないことを言い出す。

 いつもの照れ隠しよりも数段強めの拒絶。

 俺、またなんかやっちゃいました?


(おい、見ろ。姉ちゃんが男と電話してるぞ!)(ホントだ! なんか顔赤くね?)(ひゅーひゅー)う、うるせえ。今あたしは大事な話してんだ! あっち行ってろ!」


 弟かな?

 電話の向こうでギャーギャー騒いでる男の子の声がする。


「ははっ」


 仲の良い姉弟で良いね。

 なんだかこっちまでホッコリしてきちゃうよ。


「イギャャャャャァァァ!!!」


「!?」


「バキッ!!! ゴリッゴリッ、バキッ!」


「!?」


 ……な、何の音?


「お、お待たせ夏芽。ちょっと転んじまってな」


「い、いや。俺も丁度今来たところ」


「は?」

 

「な、なんでもないです。ところで今のは……?」


「なんかあったか?」


「えっと……」


「なんかあったか?」


「いいえ。何も無かったです」


 怖ぇよ。

 男虎愛萌怖ぇよ!!


 やはり彼女は怒らせてはいけないのだと、改めて理解した。ただ、この時の俺は既に彼女からのヘイトを溜めていることを知る由もなく──。

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