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ニーソは下着ですか


 俺は公園のベンチに男虎さんを座らせた後、近くのコンビニで絆創膏と消毒液を買って彼女の元に戻った。

 つまらなそうにスマホをいじる男虎さんだったけれど、ちゃんと待っててくれたようだ。


「男虎さんはチョコ好きですか?」

「え? まぁ、ふつーに好き」


 良かった。知ってたけどね。

 俺はほっと内心ため息を吐いて、レジ袋からアイスをひとつ取り出す。


「どうぞ。さっきはすみませんでした。ささやかなお詫びです。お納めください」


 一瞬キョトンとした男虎さんだけれど、ありがとうと言って、それを口に含んだ。

 その間に俺は先程のティッシュに消毒を付けて、傷口を綺麗にする。

 頭上からものすごい視線を感じるけど、俺はどうにか気付かない振りをして手当を続けた。


「……別に、秋梔は悪くねぇだろ? 走って飛び出したあたしが悪いんだし、ここまでしなくても……」


「でも、俺が注意してれば避けられた事故でもあるしね。それに怪我してる女の子を放置なんてできないよ」


「ふーん。秋梔、お前実は結構良い人なのか?」


「え?」


 思わず男虎さんの顔を見上げる。

 そこにはキョトンとした男虎さんがいた。


 彼女の言う「実は」の中には、俺が良い人じゃない事を前提としてる節があるけれど、どうに呑み込んで質問に答える。


「俺は良い人じゃないよ。ただ、臆病なだけなんだ」


 そして弱い。

 


 主張しないからと言って、気持ちが無いわけじゃない。

 悪くないからって善いわけじゃない。

 当たり前だと思って行動しているからって意思があるわけじゃない。


 それだけ。


 だって俺は、男虎さんの心配をしてる反面、怪我をさせてしまった自分を心配しているのだから。

 この手当だって、自分の罪悪感の払拭のためにしているに過ぎない。


 俺は自虐的に笑う。自分の矮小さを嗤う。


「自分が何かに傾くことを嫌う、ただの半端者だよ」


「へぇー。んじゃあ、あたしと一緒だな!」


 対して。

 初めて。今日初めて、男虎さんが笑った。

 皮肉にも、卑屈な俺の言葉を──俺とは違う、綺麗な笑顔で笑った。


 優しい風が桜の花弁を散らす。


 僅かに体温が上がるのを感じた。

 慮外。動悸。息を呑む。

 この気持ちをなんと表すべきだろうか。


 まさか君が、そんな言葉を零すとは思わなかった。


「なに惚けてんだよ」

「あ、いや。ごめん。なんでもないよ」


 ただ、ちょっと。見入ってただけだ。

 僕は絆創膏を貼り終えると、足首の方を見る。


「靴下脱がすね」


 俺は捻ったであろう右足の靴下に手をかけた。


「んっ……っ」


 小さく声を上げる男虎さん。

 これくらいの刺激で痛むなら、今日は学校を休んで病院に行くべきかもしれない。


「ッ、ハァ……くっ、何してんだよ。早く脱がせよ」

「痛む?」

「くすぐったかっただけだし。感じてなんかないんだから」


 なんでちょっとエッチな言い回しするんですか。

 そんな風に息を荒くして脱がせなんて言われてしまうと、ものすごくイケナイことをしているような気分になってしまう。


 だって、考えてみてよ。靴下なんて最早下着の一種だよ。

 出会って一日目で、下着を脱がすってアリなの?

 

「俺、朝から公園でこんな事をして、警察に捕まったりしないかな」


「アホかっ!」

「アオカン? 何言い出すのさ、男虎さん!」


 俺たちまだ未成年だよ!?


「どんな耳してんだよ! てか、靴下脱がすだけで捕まるわけねぇだろ!」


「そうだね。合法だもんね」


「そうじゃねぇ……」


 男虎さんが溜息を吐く一方、俺も深く息を吐いて覚悟を決める。

 これは医療行為だ。断じてイヤらしい行為ではない。



「これは医療行為、これは医療行為、これは医療行為──」



 煩悩が理性の壁をノックする。

 そうか。女の子の下着を脱がすって、こういうことなのか。

 ベルリンの壁が崩壊した理由が、少しだけ分かった気がする。(わかってない)


「おい、これを見ろ秋梔!」


 しゅぱぱぱぱーっとスマホの画面を操作した男虎さんがそのまま俺の方に画面を傾ける。


「ふむふむ、下着と靴下は別物、か。……なーんだ!」


 俺は人差し指を靴下の中に差し込むと、そのまま踵を露出させる。

 先程まで感じていた罪悪感のようなものは一切なく、シュルりと足の裏をなぞるように、靴下を脱がせていく。


「ひゃうっ……!」


 ピクリと、男虎さんが震える。

 そうか、彼女は土踏まずが弱いのか。


「お、お前! 急に躊躇いがなくなったな!」


 だって靴下は下着じゃないもん。

 

 俺は男虎さんの敏感なところに注意しながら、そのまま布を滑らせていく。

 やがて、ピンク色の突起物が顔を出した。

 尖った先端がぴんと立っている。


 ああ、やっぱり、彼女は男虎愛萌なのだ。

 可愛いものが好き。オシャレが好き。

 でも、それを表に出せない。恥じてしまう。

 俺と同じ臆病者。


 桃色のマニキュアが塗られた爪を見て、つい笑みが零れてしまう。


「お前、今笑っただろ?」

「うん。笑った」


 俺がそう言うと、男虎さんは顔を不機嫌そうに歪めた。

 怒っていると言うよりは、傷ついているのかもしれない。


「どうせ、私にはこういうの似合わないって思ったんだろ? バカみたいだって思ったんだろ?」


「ううん。違うよ。だって、すっげぇ可愛いもん」


 丁寧に塗られたマニキュアを見れば、彼女がオシャレや可愛いものに興味があるのは直ぐにわかる。

 ただ、それを周囲の人達に知られることを恐れているが故に、手ではなく足の爪に塗っているのだろう。


「愛萌の白い肌に良く合ってる」


「…………。」


 一瞬の硬直。俺達ふたりの時が止まる。

 しかし、放心気味に呆然としていた愛萌はハッとすると、顔を真っ赤に染めて騒ぎ出した。


「はっ? はぁー? バカ言うなし! あたしなんかに可愛いのが似合うわけないし。そんなのあたしが一番よくわかってるし!」


 俺はギャース、ギャース、と吼える愛萌を見て、ほっと息を吐いて微笑む。


「本当に君も臆病なんだね。けど、愛萌にはよく似合うよ。俺が保証する。だからもっと、自分に自信を持っていいと思う」


 俺は知っているのだ。

 今年の文化祭でメイド服を着る男虎愛萌が大人気を博すことも。

 ネットで注文したヒラヒラな洋服をクローゼットにしまい込んで一度も着れないままでいるいじらしさも。


 あれ、なんかストーカーみたいだな。

 ゲーム知識怖い。


 初対面でこんな事を言うのも変かもしれないけれど、それでも、俺は君の分まで自信もって言える。


 ──男虎愛萌は可愛い女の子だ、と。




ここまでお読みいただきありがとうございます。


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一風変わった作品展開になっていくと思いますが、これからもよろしくお願いいたします。

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