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将来と呼べるものはない


「おう、夏芽! 今日からあたしもテスト期間で部活休みだから、寄り道して帰ろうぜ」


 帰りのホームルームが終わった後、愛萌がエナメルバッグを片腕に、そんな誘いをしてきた。

 もちろん断る理由はないんだけど──エナメルのカバンってそうやって背負うものなの? 

 極限まで紐を短くしたエナメルを肩に掛ける背負い方は俺の時代にはなかった。


「お、朝比奈もど──」


「行きます!」


 返事が早いな!

 こうして食い気味に返事した夜鶴を連れて、男虎愛萌一行はおしゃれなジェラート店へと向かったのだった。



「こういう店、俺ひとりじゃ絶対入れないよ」


「右に同じく」


 周りでキャッキャしてる他の学生達はみんな輝いて見えるし、何より女性客が多い。前世の俺からすれば無縁で、俺や夜鶴のような日陰者からすれば縁のないようなところだ。


「お前ら人の視線に敏感過ぎんだろ」


「で、でも、、夏芽くんと男虎さんが一緒にいると威圧感が増しますよね。私、逆に浮いてませんか? 何だか凄く視線を感じます」


 たしかに普段の夜鶴がこの場に居たら不良二人に奢らされている内気な少女にも見えるかもしれない。けれど放課後モードの夜鶴は三つ編みメガネを解除しているので、いい意味で目立つ。


「2人とも可愛いからなあ」


「夏芽くんっ!?」


「だから、お前、急にそういう事言うなって……」


「いや、でもさっき『あの人たち可愛い』って、言ってる子いたし」


 チッ、と舌打ちをする愛萌だけれど、そんなに悪い気はしていないようだ。愛萌の可愛いコンプレックスも早く治るといいんだけどね。


「ったく、夏芽はもういいから黙って食え。溶けるぞ」


「そうだね。頂きます」


 俺が選んだのはいちご味とみかん味。

 どちらも果肉入で、さっぱりしていて美味しい。

 ちなみに夜鶴はコーヒーとバニラ、愛萌はチョコミントとクッキーバニラだ。


「こーゆうの性格出るよな」


「チョコミントを選んだ貴女は目の前に座る男の子をもっと大事に扱うべきです」


「変な心理テストを生み出すな。ストロベリーを選んだ貴方はあたしに殴られろ」


「それこそ横暴だよ!」


 俺のツッコミに、夜鶴がくすくすと小さく笑う。

 愛萌はムッとした顔をしているけれど、ウケたなら何よりだ。まあ別にウケ狙いではないんだけどね。


「2人といると楽しいです」


「そいつはよかったよ。ったく、お前も普段からそれくらい笑ってりゃもう少し友達もできんだろうによ」


「うん。勿体ないと思うな」


 人と目を合わせるのが苦手という理由で、彼女は普段からメガネを掛けているらしいけれど、やっぱり勿体ないと思う。せっかく綺麗な顔をしているのに、それをわざわざ隠そうとするなんて。


「いいんです。どうせ私は日陰者ですから。学校だって1回遅刻しただけのほぼ皆勤賞なのに、入学式すら来なかった夏芽くんに存在感で負けてるくらいですから」


「いや、どーだろうな。もしかして逆じゃねぇか?」


「逆? ですか?」


「毎日ちゃんと来てるからこそ、影が薄いんじゃねぇの? 夏芽だって、『入学式をサボった不良生徒』として、初めは認識されてただろ?」


「なるほど! じゃあ、私も期末テストをサボれば!」


 何だ、この子。恐ろしいこと考えるな。

 認知されるためだけにわざわざ学校を休むって……。お母さんが泣くぞ。


「絶対やめなよ。成績悪くなっちゃうよ?」


「そうですか……。でも、学校の成績って私にとってはどうでもいいものなんですけどね。私の人生には将来と呼べるものはありませんから」


「夜鶴ってさ、三つ編みメガネなだけで、真面目なわけじゃないよね?」


 授業中なんて、毎度手紙を渡してくるくらいだし。成績がどうでもいいと言うのも、あながち嘘ではないのだろう。


「人は見た目じゃないんですよ?」


「けど見た目通りの陰キャじゃねぇか」


「うっ……」


 何これ四コマ漫画?


「あ、そうそう。今日、お前ら陰キャに絡まれてなかったか?」


「陰キャ……? 御手洗さんのこと?」


 彼女は別に陰キャじゃないと思うけど。


「あーわかんねぇけど、多分それだな。夏芽に負けてテスト2位だった奴」


 もう6月なんだし、クラスメイトの名前ぐらい覚えなよ。愛萌は冷たいなあ。

 まあ彼女はクラスのカーストでもトップのうちのひとりだし、下々の人間に興味は抱かないのかな。


「なんだお前偉そうに!」


「うわっ! ビックリした! 何だ急に。御手洗に噛まれでもしたのか?」


「いや、俺も御手洗さんも狂犬病じゃないよ」


「さすが夏芽くん。今の情報量からよくツッコミを入れられますね」


「ありがとう」


 けど俺のツッコミは柏卯さんには遠く及ばないだろう。彼女のツッコミのセンスには何度も驚かされた。


「あっ、そうだ! 聞いてくださいよ、男虎さん。夏芽くん、今回のテストで御手洗さんに負けたら退学するとか言い出したんですよ?」


「はあ? お前まーた馬鹿なことやってんな」


「いや、それどころじゃないですよ。もし夏芽くんが負けたらどうするんですか!」


「大丈夫、大丈夫。俺は余裕だよ」


 こうなった以上は、全教科100点を目指すつもりだ。つまり余裕。俺が負けるわけがない。


「すげぇ、自信だな」


「自信じゃなくて余裕だよ」


 同学年の生徒に勉強で負けるなんて考えたくもない。テストの勝負で負けるということは、即ち俺の人生そのものが敗れたということ。死んだも同義だ。俺はこんなところで死ぬたまじゃねぇ(フラグ)


「で、夏芽が勝ったら御手洗ががっこー辞めんの?」


「いや、それはないかな。そんなことしたらいよいよ俺の社会的地位が底まで堕ちる」


「いや、これ以上は堕ちねえだろ」


「何言ってんだよ、だぜ。左近はともかく、夜鶴や愛萌、赤服くんに二重さん、柏卯さんや皇さんとも仲良くなったんだぜ? 俺」


「女ばっかりだな」


「女ばっかりですね……」


 う、うるさいわい。


「ほら、このクラス女の子の方が多いし」


「ふーん」


 仕方ない。仕方ない。

 

「まあ、別にいいけどな。でもこれだけは聞きたい、お前らいつから下の名前で呼び合ってんだ?」


「ふぁっ!?」


「ぐふぁ」


「「し、死んだぁ……」」


「息ぴったりだな、お前たち」



 

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