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どっちもどっち



「聞いて驚けお前達! 俺のバイト先が決まったぞ!」


「「おお〜」」


 ベッドの上に仁王立ちする俺。

 ぱちぱちと拍手する妹たち。

 今日も秋梔家は平和である。


「働きはじめるのはテスト明けになるけど、今月末には家庭教師の方のお給料日が出るみたいだしね。これで少しは生活にも余裕が出るはずだよ!」


「おおおお〜!」


「凄いね! お兄ちゃん!」


「おうよ! 月末の夕飯も、もやしと納豆に加えて、一品料理を追加しちゃうぜ!」


「やっほーい! お兄ちゃんだいしゅきっ!」


 俺は飛びかかってきた冬実々に素直に押し倒されながら、頭を撫でてやる。いつもならバトルに発展するが今日の俺は気分がいい。


 金持ちは喧嘩しないのだ。


 俺は今、心に余裕ができている。

 金というものは財布と共に心まで満たしてくれるのだ。今日の俺は寛大だぜ。


「……お兄、ニヤニヤしててキモイ。シスコン」


 相変わらず春花は辛辣だが俺は許すよ。

 だって、余裕だから。


「それじゃあ、そろそろ寝ようか」


「えっ!? まだ8時だけど!?」


「分かってないな、冬実々は。余裕だよ、余裕」


「……。」


「お兄なんか変。金に取り憑かれたのかも」


 イヤな物を見るような目を向けてくる春花の視線も意に介さず、俺はベッドに寝転ぶ。


「扇風機もエアコンも要らないよ。今の俺なら全然耐えられるからね」


 俺は明日に向けてアラームをセットすると、そのまま眠りについた。






「やっぱり変!!!」


「なんだい? どうしたんだい?」


 朝食のタイミングになって、春花が大きな声を上げた。はしたない。


「お兄、お金に余裕ができるんでしょ? なんで朝ごはんがもやしなの!?」


「余裕だよ、余裕」


「意味わからんないし……」


 冬実々も一緒になってジト目で見つめてくるが、やはり俺は意に介さない。今ならピーマンだって余裕で食べられる。


「ほら、もうそろそろ家を出るよ」


「まだ5時だけどっ!?」


「そうだよお兄! 日の出と共に活動開始って、どこ時代の人間!? オジサンの努力を無駄にする気?」


「オジサン? 誰?」


「間違えた。エジソン」


 ああ、電気の話しをしてたんだね。

 早寝早起早出勤。いい事じゃあないか。

 せっかくこんなにも気持ちのいい朝なんだから。

 

「ダメだお姉ちゃん……。どうにかお兄の余裕を崩さないと……これ以上の変人になったら、人類の歩みに適合できなくなっちゃうよ」


「うーん、でも、お兄ちゃんはもう手遅れな気もするなあ」


 2人がかりで俺をディスり出す。

 それでも俺は──(以下略)


「二人は心が貧乏なんだなあ」


「うっ……どうしよう。ちょっとイライラしてきた」


「怒るの? ダメだよ冬実々。心に余裕を持たないと」


 俺は短気な妹に向けてため息をひとつ零す。

 少しは俺を見習って欲しいね。


「えらいえらい。我慢できて偉い」


 俺は冬実々の頭を撫でてやる。

 これで少しは怒りも治まるかな?


「こぉんのッ……っ! ふっ、ふぅー。が、我慢。我慢しなきゃ……」


 顔を赤くしてプルプルと震える冬実々。

 何だかスライムみたいだ。


「じゃあね、じゃあね、お兄。1000回クイズしよう。今のお兄ならきっと余裕だよ」


「うん? そうだね。今の俺なら何でも出来ると思う」


 1000回クイズがどれほどの難易度かはわからないけれど、今の俺なら例えどんな問題が出てきても余裕だ。


「じゃあ、まず『春花可愛い』って1000回言って?」


「(春花可愛い)^1000」


「違う! もっと心を込めて! ちゃんと1000回言って!」


「春花可愛い春花可愛い春花可愛い春花可愛い春花可愛い春花可愛い春花可愛い春花可愛い──




 ──春花可愛い春花可愛い春花可愛い春花可愛い春花可愛い春花可愛い春花可愛い春花可愛い。よし、終わったぞ?」


 かなり時間が掛かったとは思うが、一度も噛んでない。大変と言えば大変だったが、俺が乗り越えるには大した壁じゃない。つまりは余裕だ。


「そう? じゃあお兄に問題!」


 お、いよいよか。

 1000問クイズと言うくらいだからかなりの難易度に違いない。受けて立つぜ!


「ハナは可愛いでしょーか?」


「え? うん」


「正解!」


「……はい?」


「以上! 1000回クイズでしたぁ。ロリコンお兄、妹大好き過ぎてこわーい♡」


「んんんんっ!?」


 あれ!?


 この子はもしかして、そのセリフを言うためだけに、俺に1000回も可愛いと言わせたのか?


「1000回も言う必要あった? 10回で良かったよね」


「うん。でもまあ、お兄なら余裕でしょ?」


 ケラケラと笑う妹を見て、ブチリと血管の切れたような音が鳴る。


「あれぇ〜? まさか怒ってないよねぇ? お兄は余裕だもんねぇ〜♡」


「ま、まさか! 俺が怒るわけないよ? これはね、問題に正解したことによる歓喜の震えだよ。妹のイタズラを笑顔で許すのが兄の役目だからね」


 口ではそう言っても身体は正直だ。

 怒りに震えた腕がピクピクと痙攣する。


「あっれぇ〜? お兄、唇の端がぷるぷるしてるぅー。なんだかスライムみたいだね。ざぁーこ♡」


「き、効かないね。俺はハナみたいに短気じゃないんだよ」


「そーだね。お兄つよいつよい。いーこ、いーこ。我慢できてえらいね♡ 頭撫でてあげるね」


 クスクスと笑いながら俺の頭を撫でる春花。

 俺は屈辱を感じながらも、必死で耐え──

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