新しい道
「元気出せよ、のけものフレンズ」
「俺はジャパリパーク出身じゃないよ!」
しかも除け者って……。
まあ、でもそうか。そうだよなあ。
左近に誘われてやってきたファーストフード店で、俺はポテトを齧りながらツッコミを入れる。
どうやら彼は俺が席替えの一件で落ち込んでる様子を見て、わざわざ声を掛けてくれたらしい。
まじで良い奴なんだよなあ。変態でさえなければ。
「でもさあ、みんな酷くない? なんで俺の事そんな嫌がるの? 俺、そんな悪い奴かな」
意外とメンタル的に弱っていたようで、俺はついつい愚痴を零してしまう。
俺だって一生懸命頑張ってるんだよ? 誰とも話せなかった頃と比べると幾らか成長だってしたと思う。
なのに立場変わらずの嫌われ者だ。
「……お前あんまり性格よくねぇもんな」
「えええ!? 俺って性格悪いの!?」
知らなかった……。
何だろう、ショックだぞ。
「いや、悪いって程じゃあねぇけどよ。夏芽ってさ、人の気持ちを読み取る能力がすげえ低いと思うんだよ」
「ふぐっ!」
「いや、これに関しては昔から思ってたんだぜ? 言わなかったけど」
「もっと早く言って欲しかった!!」
いや、本当は愛萌たちから言われてたから薄々自覚はしていたけれど。見て見ぬふりしてただけなんだけど。
「……このポテトしなしなだな」と顔を顰める左近はその事に対してはさして興味がない様子。もっと俺に興味を持ってくれてもいいんだぜ。
「……あ、おい、夏芽。あれ見ろよ」
まじで俺に興味ないんだな……。
「なに? どれ?」
振り返ると、そこには見覚えのある姿が2つ。
朝比奈さんと、そのお母さんだった。
二人とも手には多くの荷物を抱えている。
そう言えば、彼女の家はカフェを経営してるらしいし、今日はその買い出しかな?
「誰だろうな、朝比奈の隣にいる人。すっげぇ乳してやがるぜ。姉ちゃんか?」
「いや、母だよ」
「人妻だとっ!?」
「いや、未亡人だよ」
「詳しいなっ!!」
彼女は朝比奈さんの母。つまりは主人公の母だ。そしてかつてゲームのプレイヤーとしてこの世界に訪れていた頃は、俺の母でもあったというわけだ。
故に彼女の家庭事情は少しばかり知っている。
朝比奈家に父親がいない理由も、多分、元はゲーム的な理由なのだろう。
ゲーム世界のお父さんって、単身赴任で海外に追いやられてたり、亡くなってたり、家に居られないことが多いからね。
「左近こそ。ロリコンのくせに友達の母親に興味津々かよ」
「だから違ぇって。ロリが好きなんじゃなくて、好きな子がロリなだけだ。例え春花がどんな大人になっても、俺はちゃんと愛し続けるぜ?」
「へぇー」
左近は割と本気のようだけれど、春花はどうなんだろう。脈あんのかなあ。
あまりジロジロ見ても申し訳ないので、俺たちは席に座り直して教科書を開く。
さっきから雑談ばかりだが、一応は勉強の為に訪れていたのだ。
「つーか、テストまで後9日だっけ? 早すぎねぇか? あと8回寝たらテストじゃねぇか」
「9回じゃなくて?」
「前日は徹夜派だ」
「左近らしいな」
「今回は科目も多いからなあー。せめてクラス順位ワースト3位は抜け出してぇよなぁ」
左近そんな悪かったんだ……。
予想だけど、前回のクラスワースト3位は左近、皇さん、愛萌の3人だと思う。
万年ビリと秋梔夏芽枠が空いてしまったせいで左近がランクインしてしまった。なんかごめん。
「高校の勉強なんて、社会の役に立つのかよ」
「中学生みたいなこと言うなあ」
「じゃあ、逆によ。織田信長が本能寺で討たれたってことを知って、それが将来どう生きてくるんだ?」
「それは……あれだよ。織田信長も火災保険入ってれば天下取れたんだよ。保険は大事って事だよ」
「はぁ!? 織田信長、火災保険に入ってなかったのか! あいつそういうところあるよな〜」
え、知り合い? すげぇ馴れ馴れしいな。
「あ、そうだ夏芽、これ知ってっか? 『切り捨て御免』って言って切り捨てられなかったら、死刑になるらしいぜ」
「それどこ情報……?」
「ネット」
ネットかよ……。
「迷信じゃないの? 俺は必殺技を使って必殺してない人を何人も見てきたけれど、誰一人として死刑にはされてなかったよ? やったか?(やってない)みたいな?」
「……それ、アニメの話だろ」
うん。まあ。そうだね。
……勉強しようか。
何となくきまりが悪くなった俺は視線を落として勉強を再開する。左近が先程から歴史の話ばかりするから俺も歴史にチェンジすることにする。
ノートはあったっけなぁ。
ガサゴソとカバンを漁っていると、聞き覚えのある声が耳に入った。
「へえ、夜鶴ったらそれでご機嫌だったの〜。良かったわね〜。好きな男の子と隣の席になれて〜」
「ちっ、違うよっお母さん! 夏芽くんはそういうのじゃないよっ! 彼に迷惑だよ!」
「うふふ〜」
「おい、夏芽」
「う、うん?」
「今の聞こえてたか?」
「う、うん? ごめん。聞こえてなかった。なんの事かな」
本当は聞こえてました。朝比奈さん親と話す時は声大きいんだね。
「……夏芽」
「なに?」
「お前、生命保険はちゃんと入ってるか?」
「切り捨て御免されるのっ!?」
あまりの言い分に、つい身を乗り出してしまった俺は、即座に後悔することになる。
「あっ! 秋梔くんっ!?」
見つかってしまった。しかも最悪のタイミングで。
「あらあら〜二人ともすっごく美形。夜鶴のお友達かしら〜?」
「はい。お母さん。夜鶴さんとは仲良くさせてもらってます。あの、良ければご一緒にどうですか?」
やめろ、左近。
友達の母親をナンパするな。
というか、左近は別に朝比奈さんと仲良くないだろ。二人で話してるところ見たことないぞ。
「それじゃあお邪魔しちゃおうかしら〜」
「ちょっ、お母さん!?」
「貴女にこーんなかっこいいお友達がいるなんて。お母さんちょっと妬けちゃうわ〜」
頬に手を当てて微笑む朝比奈母は、本当に俺達の席の隣に腰を下ろしてしまった。
まじか。
かつては俺の母親でもあったせいか、彼女と話すのはなんだか照れくさい。
「……えっと、クラスメイトの秋梔くんと郷右近くんです」
「よろしくお願いします」
「お願いしまーす」
「はーい。よろしくね〜」
どことなく気まずそうな顔をしている朝比奈さん。俺もこちら側の人間なので気持ちはよく分かる。
しかし、さすがは陽キャラというか、人とのコミュニケーションが積極的に取れる左近は朝比奈さん母と会話を弾ませ、既に打ち解けている。
「……初対面とは思えないね」
「うちの母がすみません」
朝比奈さんは恥ずかしそうに俯きながら、メガネを弄る。
「……ところで、その、秋梔くん。さっきの聞いてました? あれは母の早とちりというか、誤解というか……」
朝比奈さんはもじもじと指を絡ませて、上目遣いでこちらを覗いてくる。
多分さっきのだよね。
わざわざ聞いてくるってことは聞かれていて欲しくなかったということ。ここはどうにか誤魔化さないと。
──コホン。よし!
「キ、キイテナイヨー。ナンニモキイテナイヨー」
あ、やべ。やらかした。
「そ、そうですか……。よかったぁ〜」
やらかしてなかった。もしかして俺、自分で思ってるより演技力抜群?
「ねえ〜夏芽くんも私とお話しましょ〜」
「あ、はい」
「うふふ〜。夜鶴ったらね、家では夏芽くんのお話ばっかりするのよ〜」
なんだこれ爆弾か?
ちらりと横を見ると朝比奈さんが顔を真っ赤にしている。
「お、お母さん! 秋梔くんに変なこと言わないで! 秋梔くんに『他に友達がいない』と思われたらどうするの!」
なんだそのちっぽけな見栄は。
いや、まあ、ちゃんと友達がいることは知ってるから大丈夫だよ。家で俺の悪口さえ言ってなければ全然いいです。
「秋梔くん? 夜鶴ったら家じゃ夏芽くんって呼んでるじゃない。どうしてそんなによそよそしいの〜?」
しれっと、そんな事を口にする朝比奈母。
俺も三者面談などで経験があるが、親というものは話して欲しくないことほど言ってしまう生き物なのだ。これなんて地獄?
──ゴンッ!
「死んだ……。私死にました。……お母さんのせいで秋梔くんに嫌われます。最悪です……」
「朝比奈さん、家だと結構面白いんだね」
「ははっ……ははは。どうぞ笑ってやってください。私の人生はもう終わりです」
朝比奈さんは机に頭を打ち付けたまま鼻声でそんな事を言う。誰でも家庭での話しを外に持ち出して欲しくはないよな。
「でも、俺は嬉しかったな。朝比奈さんとの距離が縮まったみたいで」
「……ほんとですか? 気持ち悪くないですか? 影では馴れ馴れしく呼んでて、引きませんか?」
「ううん。全然。どうせならこれからも……その、下の名前で呼んでくれた方が俺は嬉しいな」
俺は気恥しさのあまり頬を掻きながらも、なんとか自分の心の内を伝えた。左近達からの生暖かい視線が気にはなるものの、ぐっと堪えて朝比奈さんからの返事を待つ。
「え……えっと、じゃあ、よろしくお願いします、夏芽くん」
「うん。よろしくね、夜鶴」
「はう……」
──ゴツン!
「気絶してる……」
「うふふっ。甘酸っぱいわ〜。将来は夏芽くんみたいな子が夜鶴の恋人になってくれたら嬉しいんだけどね〜」
「そ、そうですかね、あはは」
こういう時、なんて返すのが正解なんだろうか。
俺にはさっぱりわからないよ……。
「まあ、この子に恋はまだ無理……か」
一瞬、何処か意味あり気な、それでいて少し寂しそうな笑みを浮かべる朝比奈母。しかし、直ぐに取り繕うように笑顔を浮かべこちらへ話を振った。
「ねえ、それよりなんだけれどね。2人ともちょっと聞いて欲しい話があるのよ〜」
「話……ですか?」
「実は娘から聞いたんだけどね〜。夏芽くんって、今アルバイト探してるのよね? よかったら2人ともうちのカフェで働かないかしら〜?」
「「やります!!!」」
恐ろしいくらいの即決即断だった。




