本物と偽物
男虎愛萌を含めた友人たちと夢の国を満喫していた一二三三二一は腐の波動を敏感に感じ取っていた。
「北から……北から臭う」
その頃、人生初のジェットコースターに乗るという夏芽を赤服黄熊が励ましていたのだが、それをこの距離で感じ取るのだから、一二三三二一の嗅覚は鋭敏過ぎるといってもいい。
「おい、見ろよ、一二三。あのキャラクターなんかお前に似てね?」
「たしかに……私と似たような服装ね」
一二三三二一の前にいたのは、なんだか似たような格好をしているネズミの女の子だった。
「どうせだし、写真撮ってもらおうぜ!」
「え、ええ。そうね」
はしゃぐ愛萌に振り回されながらも、一二三は遠足を満喫していた。
☆☆☆☆
さて。今日、俺は生まれて初めてジェットコースターに乗ったわけだけれど……。
「全然怖くなかった。全然、ちっとも、怖くなかったぜ!!!」
「ずっと手を握って離さなかったくせによく言うでごわす」
「いやいや困っちゃうな、赤服くん。俺は全然大丈夫だったよ? ただ、赤服くんが手を繋いで欲しそうな顔をしてたから、俺は気を遣ってあげたんだよ」
「恐ろしく情けない男でごわす」
「うん……なっくん、さすがにここらもそれはどうかと思う……」
えええ。みんなの視線が冷たいよ。
「まったく、ジェットコースターくらい余裕とか言ってたのはどこのどいつでごわすか」
「何処もかしこも、ドイツは1個しかないよ!」
「屁理屈ですね」
「屁理屈だね」
「姫、あなたとあろう方が屁なんて言葉を遣うのはやめた方が……」
「そうですね。聞き苦しい言い訳も屁理屈もそろそろやめにしましょう。秋梔さんは自慰のつもりで発言してるのかもしれませんけど、傍から見たら自傷行為ですよ」
「ぐふぁっ!」
それは気付きたくなかった!!!
恥ずかしい!
柏卯さんは相変わらずの正論プチ毒舌だ。
「……本当はちょっぴり怖かった」
「急に素直になりましたね。やれやれ。自尊心の高い男は大変ですね」
「乳盛ってるプライドの高い女に言われちゃたよ」
「ぐふぁ……!」
ジェットコースター……ナメてたぜ。
いやあ、困っちゃうね。まさかこんなに怖いとは思わなかった。
たぶん次は平気だろうけれど、初見は結構ビビるって。ジェットコースターは恥をかかない為にも小さいうちに経験しとくべきだな。
二重さんなんかは左手でずっと前髪抑えてたけれど、よく手放しなんてできるよね。俺は赤服くんの手を握るので精一杯だった。
「あ、ちなみに柏卯さん。自慰行為はまた別の意味だから使うのは気を付けた方がいいよ?」
自分を慰めるって意味では全然合ってるけど、この場合は別の捉え方をした場合、あんまりお行儀の良くない言葉になっちゃうからね。
「ええ。知ってます。オ……お……お留守番の時にするやつですよね」
「へぇ、柏卯さんはお留守番の時にするんだ」
「私はしませんよ? した事もありません。一般論です」
若干焦った様子だが、努めて平然を装い、人差し指を立てながら語る柏卯さん。
「……一体なんの話しをしてるでごわすか?」
「こっ、ここ、ここらもよく、わかんなかったなあ」
「あー、いや、なんでもないよ」
赤服くんは本気で何の話か分からなかったようだけれど、二重さんは完璧に通じてるな。
耳まで真っ赤だ。ごめんなさい。
「……あれ。あれ! 秋梔さん、見てください!」
「え?」
袖をくいくいと引っ張る柏卯さんにつられて視線を向けた先には、くまさんがいた。
黄色くて、赤い服のくまさんだ。
「……あのキャラクター、なんか赤服さんに似てません?」
「たしかに。そんな気もするでごわす」
俺から言わせてもらえば、赤服くんの方がそこのくまさんに似ているのだが、まあ、黙っておこう。
「きゅーくん、せっかくだし、写真撮って貰いなよー」
「しゃ、写真でごわすか?」
「うん! ここらが撮ったげる〜」
「そ、そうでごわすか。ココラ姫が言うのならそうするでごわす。……が、姫に手を煩わせるわけにもいかないでごわすから、秋梔殿、頼んだでごわす」
「はちみつ美味しいクマー」
「……喋った」
「ここちむ汁美味しいでごわす」
「喋るな……」
写真を撮るのにも、数分の時間を費やしてから、次の目的地へと向かうのだった。
ブックマーク、評価ありがとうございます!
評価頂けたので、おまけのもう1話です。
あと1回くらい評価いただけたらランキング乗れるかもしれません。良ければ下の☆から高評価お願いします(必死)




