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クラスメイト2.石部金吉


 石部金吉は学級委員長だ。

 真面目を絵に描いたような相貌で、短い髪と黒い縁のメガネが特徴の生徒である。

 苦労性な性格ゆえか、若干白髪が混じっており、頼れる男として、クラスを取り仕切っている。


 そんなクラスメイトを見かけたのが、遠足を数日後に控えたある雨の日のことである。




 皇さんの家に家庭教師をしに行った俺は帰り道、公園に蹲る男の姿を発見した。

 よく見ると、その人は我が校の男子生徒の制服で身を包んでおり、折りたたみ傘を片手に持ちながら、何かをしているようだった。


「あの、落し物ですか?」


「え?」


 俺の声に驚いたように振り返ったのは同じクラスの学校委員長──石部金吉くん。

 そして、その手には猫が抱えられていた。


 どうやら彼は、雨の中、この猫を介護していたらしい。


 優しい人なんだなあ。


「おやおや、君は同じクラスの秋梔くんではないかね」


「そうだよ。こんな所で、奇遇だね」


「奇遇? ああ、そうだな。確かに奇遇だ」


 メガネをスチャッとした石部くんは悠然と立ち上がりこちらに対面した。

 俺はその動きが何故か気になり、思わず身構えてしまう。彼からは敵意を向けられた時のようなプレッシャーを感じたのだ。


「え、えっと……何をしていたのかな?」


「クックック。面白いなあ、君は。僕が何をしていたかだって? 見ればわかるだろう?」


 フッ、と嘲るように笑った石部くんはやれやれと首を振ってから、親切にも語ってくれた。

 

「まあ、君がそれを望んでいるようだからね。敢えて口に出して言ってやろう。……僕は、今、この子猫の首を締めていたのだよ」


 そう言って、またメガネをスチャッとする。


「えっ、何やってるの!?」


 この人そんな事してたの? サイテーじゃんか。

 命を大切にしない奴なんか大嫌いだ! 


「おっと、そう睨むなよ。お前にはどうすることもできない」


 余裕の表情を崩さずに石部金吉は笑う。


「誰かに言いふらそうとしても無駄さ。これを学校で広めようとしたところで、真面目な学級委員長の僕と不良生徒の君、皆は一体どっちを信じるかな?」


「ベタ過ぎる……」


 実は悪者だった委員長という設定も、その口から零れる言葉もベタだ。ベッタベタだ。

 そして最低だ。まさかこんなアニメみたいな悪者がいるなんて……まあ、ゲームの世界だもんな。


「何故悪い子の俺が委員長をやっているのか不思議なようだな?」


「いや、別に……」


 悪い子って表現で済む問題じゃない。

 猫の首絞めは立派な動物虐待だ。


「そもそも僕は生まれながらに悪い子なのさ。委員長というのは仮の姿。僕はみんなを騙しながら腹の底で笑っていたのさ」


 またメガネをスチャッとしながら邪悪な笑みを浮かべる石部金吉くん。聞いてもないのにどんどん喋るなあ。


「ま、まあ石部くんがどんな本質の人間であれ、委員長としての立場を真っ当に全うしてくれれば、俺は構わないよ。いのちだいじに しないといけないとは思うけどね?」


 皆に信じられた虚実は真実である。これが俺がこの世界で得た教訓でもある。

 石部くんが善人として振る舞い続け、誰にもバレなければ、それはもう善人と言っていいのだと、俺はそう思う。


「それじゃあね。俺も帰るし、石部くんも風を引かないようにね」


 俺は踵を返してその場を後にしようとしたのだが、そんな俺を石部くんは呼び止めた。


「待ちたまえ。最後にひとつ、質問に答えてもらう。でなければ、みかんの空き箱で凍えているこの猫をキックするぞ」


 それはよくないな。


「なに?」


「秋梔夏芽。君はどうして今日この場に現れた? きみの家の最寄りは、もっと奥だろう」


 スチャッ。


 最寄りの駅を把握されている!?


「まさか。僕の弱みを握るために着いてきたのではあるまいな?」


「しないよ、そんなこと」


「どうかな。二重心々良の件もあっただろう? ここちむのファンにはろくな奴がいない。君もストーカーという奴なのでは?」


 すごい偏見だ。

 それに、俺は別にここちむのファンではない。

 あくまで、二重心々良の友達だ。


「俺、今日は皇さんの家庭教師をしてたんだ。彼女、勉強が苦手みたいで」


 皇紀という名前なだけあって、家はめちゃくちゃデカかった。玄関だけで、俺のアパートの部屋と同じくらい。格差社会の真髄を見た気がする。


「……お、お前ッ! ついに皇様にまで手を出したのか!?」


 皇様って……。


「別にやましいことなんてしてないよ。普通に勉強を教えただけ」


「うっ、嘘を言えっ! エッチな本を音読させて『これも保健の勉強だからなグヘヘ』と言ったり『次は体育だ。上体起こしをしろ。俺が足を押さえててやる』と言って、いやらしく足に触れたり、揺れる胸を観察したりしたのだろうがっ!」


「なんて妄想力だ……」


 それに皇さんの胸は揺れるほど大きくはない。


「今日は理科と数学をやったよ」


「『君のホクロは何個あるのかなぁ』とか『俺の雄しべから花粉が!』とか言ったのか!」


「……脱帽だ。さすがの俺でもそこまで気持ちの悪い発言はできないや。さすが委員長。妄想力も委員長だね」


「くっ……。皇様! どうしてだ! 僕の家庭教師は断ったのに……!」


「下心見え見えだからだと思うよ?」


「バカを言え! 僕は普段からクールに振舞っているぞ」

 

「じゃあ、単純に学力が足りなかったんじゃない? 今回のテストの学年順位1位は俺だしね」


「もう少しマシな嘘をつけ! お前如きが僕より高い学力を持っているわけないだろう! この下半身ブルドーザーめ!」


 ひ、ひどい!


 我が校では学年順位は自分の順位しか公開されないため、嘘つき放題である。けど、1位は本当なんだよな。そもそも俺、人生2周目だし。


 ちなみに俺の下半身はブルドーザーどころか、伝家の宝刀だ。大事にされ過ぎて抜き時を失っている。というか、一度も抜かれたことがない。

 

「殿下の包頭だと?」


「別にラッピングはされてないよっ!」


「くっ。まあいい。僕は今回のテスト、学年順位27位だった。僕でも27位なのだよ。学校にもまともに登校していないお前が1位? 冗談も程々にしろ!」


「実は俺、不良だから、サボったりするのをかっこいいと思ってるんだ。だから、学校を休んでサボってるふりをして、陰でコソコソ勉強してたんだよ」

 

「そんな嘘が通るかッ!」

 

 ですよね……。


「あ、そうだ! 石部くんのお勉強も見てあげようか? そしたらもっと順位上がるよ?」


「誰がッ! お前なんかにっ!」


「え、でも皇さんのこと好きなんでしょ? 一緒に勉強できるよ?」


「馬鹿を言うなっ! 僕は恋などにうつつを抜かすような軟弱者ではない! そもそもだな、委員長である僕が──ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ」


 わかりやすいなあ。

 まあ、認めないなら別に、いいけどね。


 結局、こんなやり取りが、誰かが通報して猫を引取りに来た動物愛護センターの人が来るまで続いた。



「くしゅん」


 靴下は濡れて、風邪も引いた。

お読み頂きありがとうございます。

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では、次話もよろしくお願いします!

次回は一二三三二一です。

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