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クラスメイト1.皇妃



 俺は別にヤレヤレ系の主人公ではないけれど、問題ごとの起きない、なんてことのない日常というのも悪くないと思う。

 ずっとぼっちで生きてきた俺にとっては、友達と過ごす日常をなんて事のない日常もなんて事あるものなのだが、それでも平穏はいいものだ。


「……ふむ。今のところはまずまずだな」


 今俺の手元にあるのは、返却された一学期中間テスト達。残るは地理だけだ。


「秋梔夏芽〜」


 先生に呼ばれてテストを受け取る。

 その点数は──


「うっ、嘘だっ! どうしてっ!?」


 有り得ない。思わず声が出てしまう程度には有り得ない点数がそこにはあった。


「せ、先生……これ、採点ミスとかじゃあ、ないんですよね?」


「当然。それが君の実力さ」


 おじいちゃん先生は「ふぉっふぉっふぉ」と笑うと他の生徒達にもテストを返していく。


『あいつ赤点か?』

『ざまあみろってんだクソ強姦魔』

『さっさと退学になればいいのに……』


 デパートの一件以来クラスメイトは恐れより怒りの感情を向けてくるようになった。


 彼らの間では、既に俺は朝比奈さんと愛萌と二重さんと柏卯さんに手を出した変態野郎ということになっている。

 愛萌と二重さんは否定してくれているが、朝比奈さんと柏卯さんの交友範囲の狭さゆえに疑いは憶測の範囲を超えず、俺は最低人間として扱われているわけだ。


 ただ、それも今目の前のテストの点数に比べればどうでも良いこと。


「お? どうした夏芽。お? 赤点か? ちょっと見せてみろよ!」


 ニヤニヤとイタズラな笑みを浮かべた愛萌が俺のテストをひったくる。


「点数はーっと……げっ。96点……?」


「シッ! あんまり大きい声で言わないでよ。プライバシーの侵害だよ」


「お、お前……誰のテストをカンニングしたんだ?」


「いや、別にしてないけど」


「朝比奈か? 朝比奈のテストをカンニングしたんだな!?」


 愛萌はダッシュで朝比奈さんのところに向かいテストの点数を聞き出している。なにしてるんだろう。


 再びダッシュで帰ってきた愛萌は何故か顔を青くしている。


「おかしい。あいつは57点だった。カンニングしたのになんでお前の方が点数高いんだ?」


『秋梔のやつカンニングしたのかよ』

『ありえな〜』


「カンニングしてないからじゃないかな」


『してないってよ』

『な訳あるか!』


「カンニングしたならこんな点数……僕が取るはずないんだ。96点なんて……」


 ひとつのミスは仕方がない。

 誰にだってミスはあるものだ。でも2問間違えはもうたまたまで片付けられるものじゃない。

 完全な準備不足だ……。


「どうしよう。母さんに怒られる……」


 僕が不甲斐ないせいで──母さんがまた心を痛めてしまう。

 僕がちゃんとしなくちゃいけないのに。僕がこんなんだから。


 迷惑を、心配を、不安を──


「……つめ! おい! 夏芽っ!」


「いだぁ!」


 痛い。何するんだよ。


「暴力はよくないよ」


「お前が急に固まるからだろ」


「……っ。ああ、そっか。ごめんね」


 そうだ。僕は、水無月透はもう死んだのだ。

 今は秋梔夏芽として生きている。母さんも、もう居ない。


「96点が個人的に結構ショックだったみたい」


「お前、嫌味がひでぇぞ。あたしに対する宣戦布告か?」


「いやいや。滅相もございません。俺は愛萌みたいに何かを頑張ってるわけでもないからさ」


 結局、まだアルバイトだって始めていない。部活動もしていない。

 そんな俺には勉強くらいしか取り柄がないから。

 これだけは誰にも負けたくない。


「期末テストを頑張るよ」


 テストを配り終えた先生の一声で、俺たちは全員自分の席へと戻っていく。


 俺が落としたのは全教科で6点。高校1年生2周目でこれはいいのか悪いのか……。


「頑張んないとなぁ」




「ふん。ご機嫌よう、秋梔夏芽くん。少しお話いいかしら?」


 休み時間。何となく納得がいかないままテストを振り返し睨みつけていると、クラスメイトが1人、話かけてきた。


 皇妃(すめらぎひな)──まるで深窓の令嬢のような佇まいであり、キューティクルてかてかの長い黒髪と、少しつり上がった目尻が特徴的な女子生徒だ。


「今回のテスト、出来はどうだったかしら?」


「まあ、そこそこ。課題は多く見つかったよ」


「そう。先程貴方が96点を獲ったと聞こえたわ。私、これでも貴方のことを一応ライバルだと思っていたのよ?」


「なるほど」


「96点ねぇ……正直、裏切られた気分よ」


「……っ!」


 つまり彼女は、俺のことを点数を競うライバルだと思っていたのにも関わらず、96点なんて不甲斐ない点数を獲ってしまったがゆえに怒っていると、そう言うことだろうか。


「ねえ、貴方のテスト結果も見せてもらえるかしら」


 バンっと机の上に叩きつけられたのは皇さんのテスト達。俺も対抗するように、引き出しからテストの入ったファイルを取り出して皇さんに手渡す。


 俺は皇さんのそのテストたちを見て……思わず目を見開いた。


「えっと……」


 皇さんのテストの点数は、どれも10点前後。

 ほとんどが点数一桁だった。


「なんて言えばいいんだろう」


「くっ……。やっぱりそうなのね。貴方馬鹿そうな顔をしてるくせに勉強は一流じゃない」


「皇さんは利口そうな顔をしてるのに勉強は四流だね」


「黙りなさい。殺すわよ」


 過去最高にストレートな罵倒が飛んできた。

 いや、今のは俺の言葉も悪かったけど、この点数で俺とライバルになるって……つまり、俺の事を馬鹿だと思ってたってことでしょ?

 結構失礼じゃない?


「困ったわ。私、もしかして遠足を休んで独りで補習を受けなければならないのかしら」


「よくわかんないけど、慰めの言葉も浮かんでこないよ」


 最高得点14点って……どういうこと?

 というかクールなすまし顔のくせにめちゃくちゃ字が下手っぴ。殺虫剤をかけられたムカデみたい。


「まあ、いいわ。それならそれで……。ねえ、秋梔夏芽くん。貴方アルバイトとか探してないかしら?」


「え、まあ、探してる」


「そう。なら少しの期間だけ、私の家庭教師、やってみない?」



クラスメイトの紹介を兼ねて、何話か短編が続きます。次のクラスメイトは石部金吉くんです。

久しぶりの男子キャラ!


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