友達
テンポよし!
「お待たせ! 行こっか!」
放課後、一旦生徒会室に寄った俺は柏卯さんと校門の前で待ち合わせをしていた。
「俺、あんまり駅周辺のお店とか詳しくないんだけど、柏卯さんはよく来るの?」
「いえ。私もタピるのは初めてです。飲み物一杯に何百円も掛けるって、なかなか勇気がいりますから」
確かに。
SNS蝿達は映え代金としてその額を払っているのだろうけれど、俺みたいな日陰者は写真を撮っても見せる人がいないし、タピオカドリンクにはただのドリンクとしての価値しかない。
故に、少し高く感じてしまう。
「あなた、SNSやってる人達をハエ扱いしてるんですか? 普通にクソ野郎ですね」
「可愛い女の子の画像にいいねがいっぱい付いてるのとか見ると、誘蛾灯に集る蛾みたいに見える」
「だったらそれは、ハエじゃなくてガじゃないですか。言ってる事無茶苦茶だし、陽キャに対する僻みが強すぎですよ」
たしかに。ちょっと反省しようかな。
「柏卯さんはSNSやってないの? 蝿〜とか言ってないの?」
「一応やってますよ。クルッポーっていう呟きを発信するアプリです」
「へぇー」
まあ、多分、あれだな。
厨二発言しまくりで、フォロー120人くらいに対して、フォロワー20人くらい。しかも、そのうち8人くらいはエッチな裏垢。DMにはマルチ商法の勧誘が沢山貯まっているのだ。
「偏見が過ぎます。ほら、これ見てください。意外とちゃんとしてますから」
柏卯さんに渡されたスマホに映っていたのは、平仮名であびすと名付けられたアカウントで……ふむ。どうやらキャラ弁を頻繁に載せているらしい。
並んだ写真はどれも彼女が学校へと持ってきたお弁当だったり、お家で作っただろう手の込んだ夕飯だったり。
前々から思っていたけれど、料理のセンスがあるみたい。
どれを見ても美味しそうだ。
「主婦の人ともやり取りしてたりします。お料理の隠し味とか教えてくれたりするんですよ?」
「えっ……もしかして柏卯さんって、ネット上の人とコミュニケーションを取ってるの?」
「はい。まあ、そんな感じですね」
「ひ、ひどい! 柏卯さん裏切り者だ! 何だよ! ネット陽キャじゃないかっ!」
お弁当を載せる度に、毎度120件ほどのいいねと何個かのリプライが来ている。
ひ、ひぇぇぇぇ。
「しかも、柏卯さん、絵文字だって使いこなしてるじゃないか! 俺なんてビックリマーク付けるだけでも緊張するのにっ!」
「秋梔さんは……明治時代の人ですか?」
遡った写真から時系列順に写真を眺め、ついに1番新しい写真に戻ってくる。
その写真はお昼の時柏卯さんが食べていたお弁当と同じ、ハチマキを巻いたくまさんのお弁当だ。
そこでふと、その写真と共に添えられた文に目が行く。
『今日は熱血クマさん弁当! 放課後、初めて男の子を遊びに誘います。お願いクマさん、力を貸して!』
俺は何やら見てはいけないものを見てしまったような気がして、すぐに画面をスクロール。そのまま柏卯さんにスマホを返す。
「いやいやいやいや」
落ち着け、俺。
別に深い意味はないのだ。多分。
柏卯さんが俺の事を好きとか、これはデートだとか、そういう事じゃない。
勘違いするな。浮かれるな。
もし、柏卯さんにその気があるのならば、そう易々と俺にスマホを見せてきたりなんてしないだろ。
「鎮まれ俺の左心房!」
「死にますよっ!?」
「なんと言うか、色々とキャパオーバーしちゃったみたい」
「貴方陽キャに親でも殺されたんですか?」
「いや、親はマグロに殺されたらしい」
「え、ネタですか?」
「マグロだけに?」
「親の死で茶化さないでください!」
「あくまで例え話として聞いて欲しいんだけど、手漕ぎボートでマグロを釣りに行く人をどう思う?」
「はい? いるわけないでしょう、そんな馬鹿な人。ネジが飛んでるとしか思えません。前世でどれだけの悪行を働いたらそんな残念なおつむになるんですか。人間じゃないですよ、そんなの。死んで当然です」
「な、なるほど」
この流れで俺の父親ですとは言えなかった。
いやぁ、ハッキリ言う性格だとは思っていたけれど、ここまで言うのか、柏卯さん。すごいや。
「って、ごめん、柏卯さん。ちょっとそこの本屋さん寄ってもいいかな?」
「いいですよ。買い物ですか?」
「うん。ちょっと知り合いにプレゼントをね」
さて。どんな本をプレゼントすれば、一二三さんは喜んでくれるだろうか。




