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【閑話】柏卯さんと秋梔くんはタピりに行くらしい

朝比奈夜鶴視点



 さすが秋梔くんです。

 テニス経験者の向日さんと、アイドルとして高い運動能力を持つ二重さんのペアを打ち破ってしまうとは……。


 隣の席で未だ体育着姿のまま授業を受ける秋梔くんをチラ見してすぐに黒板へと目線を戻す。


 今、秋梔くんは授業が終わってそのままの格好だ。ゆえに、彼がパタパタと服の首元を掴んで仰ぐ度に、柑橘系の香りと汗の匂いが混ざった体臭がこちらへと漂ってくるのだ。しかも、鎖骨がチラチラと覗くものだから、ついつい目がいってしまう。


 失礼だってわかってるよ?

 でも、見ちゃう……。汗の匂いも癖になるって言うか、ついつい油性ペンの臭いを嗅いでしまうみたいな、あれと同じ。中毒性があるみたい。

 

 ダメってわかってるけど。


 気になっちゃうの! 


 風が臭いを運んでくる度嗅いじゃうの!


 ふしだらな女でごめんなさい。

 

『((むー)(げん)耳鼻(にーびー)舌身(ぜっしん)(にー))^24』


 般若心経の一節を繰り返し、心を沈める。

 そもそも、私は今こんなことをしている場合ではないのだ。


 私はガサゴソとカバンを漁り、息を吐く。

 実は今日、私は『秋梔くんを遊びに誘おう作戦』を決行するつもりでいる。


 ここ最近、私のでば……私が秋梔くんと関わる機会が減っている気がするからだ。

 周囲からはあまり評判が良くない秋梔くんだけれど、彼にもちゃんと友達はいる。

 このままでは席替えと同時に秋梔くんは私のことを忘れてしまうような気さえしてくる。


「それは嫌だなぁ」


 それは嫌だ。


 私は静かな闘志を燃やしながら、作戦決行のホームルーム終わりを待った。






「あの、秋梔くん、今日の体育お疲れ様です」


「うん。ありがとう! 結構頑張った!」


 帰りのホームルームが終わり、ガヤガヤとした空間で、私は秋梔くんに声をかける。

 いつものように爽やかな笑みを浮かべる秋梔くんは無邪気にガッツポーズを見せた。


 よ、よーし。頑張れ、私。

 鞄からポケットへと移したソレを手のひらに握る。


「あの、ですね、秋梔くん。秋梔くんに渡したいものがあるんです」


 私は意を決して、ソレを手渡す。

 くしゃりと曲がってしまったタピオカドリンクの割引券だ。

 

「いいの? ありがとう」


 私は嬉しそうに笑う秋梔くんを見て、ほっと息をついてから、練習した言葉をもう一度頭に浮かべる。


『これ一枚で二人まで使えるから、良ければ今日の放課後、一緒に行きませんか?』


 よし。これだ。これならいける!


 頭の中はクリーン。


 言えっ! いけ! 私!


「あ、あの……」


「嬉しいよ、朝比奈さん! 実は俺、今日柏卯さんとちょうどタピりに行く約束してたんだ! うわぁ、すごいタイミングだなぁ」


「ほ、本当にすごいタイミングですね」


 うわぁぁぁーん。


 私は心の中で号泣する。

 

 うわーん。割引券だけ取られた!


 喜びが滲み出たこの笑顔を前に「やっぱり返してください」なんて言えるわけもない。


 天罰!? 匂いを嗅いで鎖骨をチラ見した罰なの!?


「ありがとう、朝比奈さんっ」


 うっ。そんな幸せそうな顔をしないで……。


「た、楽しんできてくださいね」


 ぴくぴくと痙攣する唇の端を誤魔化しながら踵を返し、私はダッシュで帰宅した。

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