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決戦前



 5月中旬。

 俺は5月中旬を迎えた。ゴールデンウィークには、もうハチャメチャで大変な事件が起きてしまったのだけれど、それは今割愛し、平和で怠惰な5月中旬を送っている今日この頃の話をしよう。


 この数日間で友達こそ増えなかった俺だけれど朝比奈さん、愛萌、二重さん、左近、柏卯さん。プラス赤服くんとはだいぶ仲良くなれたと思う。


 さて、5月中旬と言えば、もうすぐ一学期の中間テストなのだ。しかし、そのテストと同じくらい大事なものがある。


 それが、テニスのトーナメントだ。

 俺は柏卯さんとペアを組んでトーナメントをある程度勝ち上がらなければ成績が大変なことになる。というのも、以前の授業で俺と柏卯さんは授業中に砂場遊びを始めるという暴挙を働いてしまったのだ。


 通知表に5以外の数字がつくなんてありえない。

 

 何としてでも勝たなきゃならん。


「双刃の剣と双器の衣ってさ、結局なんの事だったの?」


 トーナメントを5限に控えたお昼休み。

 俺は生徒会で使う資料をまとめながら、たこさんウィンナーを齧る柏卯さんに問う。


 ちなみに、今日の柏卯さんは自分でお弁当を作ってきたらしい。くまさんのキャラ弁で、クオリティもかなり高い。


「……? 何ですかそれ」


 お前が言ったんやろがい!


 なんで俺の方はこんなにモヤモヤしてるのに、当の本人が忘れてるんだよ。


「……クックック。我が言葉に囚われし傀儡よ。いちいち我の言の葉に意味を見出すな」


「それ、かっこつけて言うセリフじゃないよね?」


「フッ」


 俺のツッコミを鼻で笑う柏卯さん。

 ちょっとイラッとする。こうして俺をちょくちょく小馬鹿にするくせに自身はかなりのポンコツなのだから、尚のことタチが悪い。


「今日のトーナメント大丈夫なの?」


「当然。我がダークジャベリングで敵を穿って見せようぞ」


「……いや、その技封印したじゃん」


 今日この日まで、トーナメントを勝ち上がるための練習は続けてきた。必ず殺せない技と書いて必殺技と読む柏卯さんの技もすべて封印してきた。

 彼女の圧倒的運動センスのなさにはかなり驚かされたが、最近は一応は上達している。


「絶対勝とうな」


 俺は拳を突き出し、それに柏卯さんも合わせる。

 大丈夫、俺たちならやれる。きっと勝てるはずだ!


「おおー。気合入ってるね〜?」


 誰かがぱんっと俺の両肩を叩くようにして声を掛けてきた。顔を上に向けるようにして確認するとそこには二重さんの顔が。


 思いの外近くてドキッとしたがすぐに顔を戻して振り返る。

 一方の柏卯さんは気配を消して影に溶け込んでいた。彼女は人見知りだが、中でも二重さんが怖いらしい。柏卯さんは彼女のことを悪魔の飼い主と言っていたが、あながち間違いでもない。


「たしか二重さんペアと当たるのは3回戦目だったよね」


「うんっ負けないぞ〜」


 相変わらずの輝くアイドルスマイル。

 見ているだけで元気になれるなあ。


「お互いそこまで勝ち上がれれば、だけど」


「言うねぇ〜」


 二重さんは宣戦布告のように捉えているけれど、どちらかと言えば、心配なのは自チームだ。運がいいとこに、現役テニス部のクラスメイトと当たる可能性があるのは決勝戦のみ。それでも安心できないが。むしろ、一回戦負けも十分考えられる。


「スポーツマンシップに則って全力で戦おうね。……あ。ごめん、柏卯さん、ハサミ持ってる?」


 二重さんと話しながらも筆箱を漁っていた俺はハサミを自宅に忘れてしまったことに気付く。


「すみません。持ってません」


 ありゃりゃ。

 

「ん! ここら持ってるよ〜?」


 ぴょこぴょこと、自席に戻ってハサミを持ってくる二重さん。ハサミのサイズと形状を見るに、恐らく裁ち鋏。なんでこんなもの持ち歩いてるの? 護身用かな?


 んー。あれ。

 キャップが外れない。


「二重さん、これ……」


「あ、ごめん。呼ばれちゃった!」


 他のクラスメイトにお呼ばれしてしまった二重さんが席を外す。人気者だなあ。

 何かとあざとさの目立つ彼女だけれど、同性のファンも多い。誰からも好かれる──それがここちむなのだ。


「あの人、私とキャラ被ってますよね」


「え、どこが?」


「ツインテールです。高校生になって尚、ツインテールを続けられる猛者が私以外にもいるとは……」


「柏卯さんはロリ枠だけどね」


 ちなみに、二重さんと柏卯さんでは髪の毛の長さが全然違う。柏卯さんは髪の毛が長いが二重さんの場合は長さがその半分くらいしかない。


「失礼ですよ? 私は立派なレディです。3年後にはグラマーになってます」


 うーん。


 多分だけど、彼女はこれ以上成長しないと思う。

 これまでも『トモ100』というゲームの世界とは違った展開があった。しかし、大まかな流れや設定までは変わらないし、何より秋梔夏芽のこの体も、既に18歳のものだ。


 多分彼女がこれ以上大きくなることはないだろうなあ。


「なんですか? その気に障る微笑みは。……というか、いつまでやってるんですか、それ」


 糸のように目を細めながら、柏卯さんは俺の持つハサミを見る。


「これ、全然キャップが外れないんだよ」


「フッ。……当然だろう。聖剣とは選ばれた者のみが抜くことのできるものだ。真の持ち主以外の呼び掛けには応えぬ。……我に寄越してみろ」


「……? 真の持ち主は二重さんでしょ?」


「……うるさい」


 言葉のチョイスに自分でも認める欠陥があったようで、柏卯さんはブスっと顔を顰めてハサミをひったくる。


「魔を払う剣よ。我が呼び声に応えよ!」


 ──そして。


「っあれ。えっと。うっ。んぬぬぬ。うぬぅぅぅ。……あっ!」


 やはり黄昏の女帝であってもそのキャップは固かったようで、めちゃくちゃ力んで引っ張ったキャップが外れるには数分を要した。


「……ぜはぁ。ぜはぁ。わ、我にかかればこんなもの、造作もないわ」


「肩で呼吸してるけど? トーナメント大丈夫?」


「……ぜはぁ。ぜはぁ。わ、我にかかればこんなもの、造作もないわ」


 NPCかな?


「……見てください、秋梔子さん。このハサミ錆びてますよ」


 どうやら、ハサミがキャップから外れなかったのはそれが原因らしい。

 

「あれ?」


 でもこれ、ステンレス製だよな。

 そう簡単に錆びたりしないはずなんだけど。


 疑問に思いながらも、俺は柏卯さんから受け取ったハサミを見て、ハッとする。


 ──血だ。


 錆びのような赤黒い粉。それらは全て乾いた血だった。


「……」


「どうしたんですか?」


「いや、なんでもないよ」


 これで資料を切る訳にもいかず、俺は柏卯さんから隠すようにポケットへとハサミをしまった。


 と、ちょうどそのタイミングで昼休み終了を告げる鐘が鳴る。いよいよ、トーナメントの始まりだ。


 俺と柏卯さんはジャージをマントのように翻して教室を出た。

 

「さあ、宴を始めよう」




お読みいただき、ありがとうございます。

よければブックマーク、評価していってください。

次話もおよみいただけると嬉しいです!


(最近、朝比奈さん出てきてない。。。)

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