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動き始める暗黒


「え、だから、人首先輩。同じ生徒会の人。男だよ……多分」


 先程まで俺が話していたのは生徒会書記の人首百一先輩だ。

 確かに長い黒髪をしていて、後ろから見た姿は女性のようにも見えるが、恐らく男である。


 先輩にはとある頼み事があって、話しを聞いてもらっていたのだ。


 風紀委員とのあれこれはあれど、俺の仕事はあくまで生徒会書記。

 恥ずかしい話なのだが、来月に行われる部活動予算会議の資料づくりが難航していた。それを相談をしたところ、同じ書記の先輩として今度1日付き合ってくれることになったのだ。

 口数は少ないが、とてもいい先輩だ。


「尻拭いをしてもらうようで少し情けないけど、頑張らなきゃ」


「尻っ……? お前が、そっちなのか?」


「え?」








「……悪い。あたし、なんか勘違いしてたわ」


「みたいだね」


 いや、なんか、噛み合わないなあって思ってた。

 違うよ。俺は人首先輩と恋仲じゃあない。

 普通に女の子が好きだ。


 愛萌は自分が変な勘違いをしていたことが恥ずかしかったらしく、長くない髪で赤くなった顔を隠している。目じりには涙もうっすらと溜まっているみたいだ。


「欲求ふま……ぴぎゃっ」


 おでこを愛萌の拳が襲う。

 秋梔ボディじゃなきゃ泣いてた。

 

「さては、俺と人首先輩でぼーいずらぶな妄想をしてたな?」


「するか! そもそもあたしは、相手を女だと思ってたんだぞ?」


「へぇ〜じゃあ、愛萌は男同士の愛の物語に興味はないんだ?」


「ねぇよ」


「びーえるの本とかゲーム持ってないんだ?」


「もっ、て、ねぇよ」


「ふーん?」


 おやおや。この反応、たぶん持ってるな。


 ちなみに俺は前世でBLゲームを持っていた。

 妹に買いに行かせて、密かに楽しんでいたのだ。

 何故かと言えば当然、友達がいないからだ。


 『トモ100』をプレイしていた理由と何ら変わりはない。


 画面の向こうの青年たちは俺と仲良くしてくれる。仲良くの仕方に若干問題はあるけれど、俺にとってはそれが心地良かった。まるで友達ができたみたいで、嬉しかった。


 ぱおんぱおんしてるシーンは興味がなかったので基本的に飛ばしていたし、気軽に場面スキップの出来ない書籍は買ったことがなかったけれど、まあ楽しみ方は人それぞれということで、認めて欲しい。


 もしかしたら、愛萌や二重さんが俺に人との距離感が近いと言うのは、その影響もあるのかもしれない。


「で? 愛萌は何冊持ってるの?」


 シラを切るつもりだったのだろうが、そうはいかない。結局、怪しむ俺の目に耐えかねたように、愛萌が白状した。


「一二三が……あたしの幼馴染がそういう趣味なんだよ。そんで、何冊か借りたのが、ある」


「ふーん。一二三さんって腐女子だったのか」


 これはいい事を聞いた。

 実にいい事を聞いた。今度差し入れしてあげよう。

 仲良くなれるかもしれない。


「お、おい! お前、余計なことすんなよ?」


「しないしない」


 俺たちの関係に有益なことをするのだ。


「それに、一二三さんと仲良くなれたら、愛萌と一緒にお昼ご飯も食べれるかもしれないしね」


 まあ、愛萌のグループで俺を敵視しているのは一二三さんだけではないので、なかなか難しいかもしれないけれど。


「信用できねぇな。お前絶対なんか企んでるだろ!?」


「俺はただ一二三さんに悪い人じゃないって思ってもらいたいだけだよ」


 本屋さんでいい感じのを二冊買ってプレゼントすれば、きっと喜んでくれるに違いない。


「お前が自信満々になればなるほど、あたしは怖いんだよ……」


 愛萌はジト目でこちらを見る。

 なかなか酷いことを言うじゃないか。

 友達ってのは信じ合うものだと、俺は思うぜ?


「んむ〜」


「なに? にらめっこ? 負けないよ?」


 俺はこちらを見る愛萌に変顔を見せつけた。

 実は俺、にらめっこが得意だ。妹達も大ウケである。

 春花曰く、俺の変顔は本当に変らしい。

 逆に本当じゃない変ってなに?

 


「っあっはっははは」


 やがて吹き出すように愛萌が笑う。

 というか大爆笑だった。あ、いや、そう言えば爆笑って大人数が大きく笑うって意味だったっけ。

 一人が大笑いする時は日本語でなんて言うんだろう。

 ……そのまま大笑いか。


 俺が独り合点をしている間に、愛萌は笑い疲れたように深呼吸をしてから、目じりに溜まった涙を拭う。

 ただその瞳にはどこか影を感じた。


「やっぱ、あたし夏芽といる時が一番楽だわ」


「そう?」


 褒め言葉と受け取っていいのかわからないな。


「ああ。お前変な奴だし、あたしが多少変なこと言っても、夏芽は気にしないだろ?」


「そういう、ね」


 全く失礼な奴だ!

 俺は確かに、人との関わり方が下手かもしれないけど、変じゃないぞ! 多分。


 俺が心の中で否定していると、愛萌は「変なことついでに、少し愚痴を聞いてくれるか?」と言った。


 全然構わない。

 むしろ、待ってたくらいだ。いや、俺が待たせちゃったのか。


「正直……あたし、今、余裕が無い。家族の事とか、部活の事とか、勉強の事とか。今まで散々サボってきたツケかもしんねぇけど。色々考えなきゃいけないことがあって……しんどい」


 その気持ちは──よく分かる。

 俺も親の期待に応えられるのが楽しくて……やがてはその重みに耐えられなかったから。


「好きなはずの事が辛くなることもあるよね」


 別に一緒に落ち込みたかったわけじゃあなかったのに、前世のことを思うと少しだけ気持ちが滅入る。


「そう! そうなんだよ! わかるか!?」


「ま、まあ?」


「だよなだよな! そうだよな!」


「うん。愛萌は頑張ってるよ。俺なんて未だにバイトの面接を避けてる……」


 練習なら完璧なのになあ。

 本番は壊れたディスクみたいになるに違いない。


「あー。留年したらどうしよう、夏芽」


「夏芽? 夏芽先輩だろっぺスゥ……」


「まだちげぇ!」


 暴力はやめてってば……





☆☆☆☆



 薄暗い部屋で少女がひとり魔法陣の上に立っていた。



「獄炎の大禍。水の衣。崩壊せし世界。災いの時はすぐそこまで来てる──」


 物語が今──動き始める。

お読みいただきありがとうございます。


これから数日掛けて内容を少し修正することにしました。

基本的には誤字脱字の修正と文脈の修正です。

物語の内容は変わりませんが、加筆する可能性もあるので、その場合は活動報告で連絡させていただきます。


次のお話もよろしくお願いいたします。

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