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全肯定ペンギン

短め


 時間を少し遡り、回想に移ろうと思う。

 放課後、イメチェンをした朝比奈さんと出会う20分ほど前のことだ。



 本日の授業もすべて終了し、筆記用具類をカバンに詰めようとしたとき、底からひとつの黒い缶を発見した。


「あー、これ、飲んでなかった」


 それは担任の三崎先生がくれた缶コーヒー。無糖である。

 正直な話、俺にコーヒーはちょっと早い。

 甘ければ飲めるのだけれど、無糖にまでなってしまうと、美味しさというものをほとんど感じないのだ。


 かれこれ数日も放置しっぱなしである。


「飲むか……」


 この量なら帰りのホームルームが始まるまでに空けられるだろう。

 俺はプルタブをプシュッと開けると、まずはひとくち流し込む。


「うううぅぅ。苦い」


 苦し。いと苦し。

 これは辛い……。辛くないのに辛い。

 苦しくないけど苦い。


 俺はうえーっと、舌を出しながらも何度か挑戦する。

 三崎先生がくれたものを無駄にするのは勿体ないし、こんな姿を三崎先生に見せる訳にもいかない。


「早く飲まなくちゃ!」


 うげー。


「なーにやってるの? もしかして、修行かなっ?」


 ニコニコと、二重さんが声を掛けてくる。

 今朝の件もあつて、缶コーヒーひとつに苦戦する俺が、二重さんには見栄っ張りの子供にしか見えていないかもしれない。


「ねぇ〜え、なっくんは苦いの苦手なの?」

「そうそう」


「背伸びして買っちゃった〜みたいな?」

「ソウソウ」


「コーヒーは美味しくない?」

「SOU・SOU」


「ここらも苦手〜。甘いのがいいよね〜」

「うそうそ」


「もうっ! ちゃんとここらの話きいてよお」

「うがががががががががか!」


 ダメだ。無理だ。コーヒーは無理。

 グロッキーになった俺はその缶を二重さんに突き出す。


「二重さん、これ飲んでくれないかな?」

「え〜? ここらの話聞いてたあ? 苦いのは苦手なんだって〜」


 嘘だ。

 この子はキャラ作りのために甘いものが好きなキャラを偽装しているだけだ。

 実際は甘いものよりも苦いものが好きで、チョコレートだって、ブラック派。

 ゴーヤチャンプルももっさもっさ食べる。


 この学校嘘つきばっかりだな。


「二重さんしか頼れる人がいないんだ」


「しょーがないなあ。もう! ここちゃんにおまかせっ!」


 アイドルとしての彼女──「ここちむ」の決めゼリフと共にきゃるーんとウィンクした二重さんは、ちびちびと缶の中身を減らしていく。


 うーん、あざとい。


 そして男という生き物は、そのあざとさにどっぷりとハマる生き物なのだ。


「間接キスになっちゃったね」

「……っ! そうそう」


「どきどきしちゃうねっ」

「……そうそう」


 俺は緊張を紛らわすように、唇を舐めた。

 僅かに残った苦味が広がる。


「ほら、全部飲んじゃったよ!」


「二重さんはすごいなぁ。とっても頼りになるよ。俺のために苦手なコーヒーを飲んでくれてありがとう」


「もうっ! いいよ〜。ここらも、なっくんの役に立ててよかったあ。なっくんの為だからしたんだからね?」


「ありがとう。俺も二重さんだからこそ、頼ったんだよ」


 去っていく二重さんの背中を見送った俺は静かに机へと突っ伏す。


「……やっちまったぁ」


 二重さんが間接キスという単語を口にした瞬間、教室の幾つかの方向から殺気が飛んできた。

 恐らく全員が二重さんのファンだろう。

 朝比奈さんもどうやら二重さんのファンらしい。

 しかも、一番強い殺気だった。

 

 二重心々良とのコミュニケーションは1に肯定、2に肯定。3.4に肯定。5でようやく思考だ。

 彼女の言葉を否定したときには、ファンからどんな目に合わされるか分かったもんじゃない。


 一歩間違えればドカン!

 まるでバルカン半島のような御方だ。

 

 今朝、二重さんに遠足の班へ誘われた際に感じたあの気配は、気の所為なんかじゃなかったわけだ。


 頑張って媚売らないとなあ。


今日、もう1話投稿する予定です!

そちらも、よろしくお願いいたします!

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