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見栄-1=三重-1



「いやぁ、お前ついてないなぁ」

「は、はぁ」


 俺の背中をバシバシと叩く担任の三崎先生が、楽しそうに笑っている。

 

 朝比奈さんと別れた後、今日の遅刻の理由を説明するついでに、昨日の放課後に朝比奈さんと何があったのかも聴取されたのだ。


 どうやら先生は朝比奈さんからも話を訊いていたようで、ニノマエくんの勘違いだということを先生も理解してくれた。


「そんな君に先生がジュースを奢ってあげちゃおう。ワッハッハー。元気出せ少年! 大志を抱け!」


 愉快な先生だなぁ。

 ただ、これだけ豪快に笑っている人を見ると、自然と気分がそちらに引っ張られてくるのだから、不思議なものだ。



「なんだ? 何飲む?」

「えっと、じゃあメロンソーダで」


 俺は校内設置の自動販売機にあるメロンソーダを指してボタンを押す。


「いただきます」


 一方の先生は『さるかに合戦』って酷い話だよなあ、と言って無糖の缶コーヒーを手にした。


「さるかに合戦……ですか」


 あまりにも唐突だったので、反応に遅れた僕だけれど、しかしどうやら全く関係のない話でもなさそうだ。


「猿は悪ぃよ。猿が悪ぃよ。けどさ、猿とカニのいざこざに、栗やらハチやらが出てくるのは納得いかないよな。万が一子ガニの話が嘘だったらどう責任を取るつもりなんだろうな、あいつら」


 子供の言うことを鵜呑みにする大人にろくな奴はいねぇよ、と先生は鼻で笑う。


 教師が言っていい言葉なのかな、それ。


「そもそも親ガニだって、早く育たなきゃちょん切るとか柿の種に脅迫してたけど、あいつもあいつだろ? 脅迫だって立派な罪だと私は思うね」


「でも、相手は植物ですよね?」


「けど、牛の糞が自我を持ってる世界観だぜ?」


 ありゃ、カニの子供もろくな大人に育たねえわ。なんて、いつの間にか、昔話に文句を言うコーナーが始まってしまった。

 些かカニに対して厳し過ぎないだろうか。


「先生は猿派なんですか? 物語の見方変わってません?」

「じゃあ、秋梔は子ガニの味方をするのか? 変わってるな」


 先生は無糖のブラックコーヒーを片手で弄びながら笑う。

 あたかも自分の意見が主流だと思ってるみたいだけれど、そんな事ないと思うんだよね。

 多数決したら普通にカニ派が多そう。




「確かに痛快な復讐劇だと私も思うけどな。だけど、 私からすれば──まあ、ネットとかでもそうだけど、何も知らない部外者が寄って集って悪者をリンチする。それを正義だと言い張る。なんてのは、怖ぇ話だよ。そうなると加害者も被害者だな」


「でも、それって自業自得なんじゃあないですか? 罪を犯したならば、それくらい仕方ないと思います」


「はえ〜。お前、意外と厳しいな。まあ、間違いじゃあないだろうよ。お前は正しい。けど、虚しい」


「……。」


「事件と事後は別件だと、先生は言いたいわけだ。今のお前のクラスに置ける立ち位置は猿と一緒だな。親ガニが朝比奈で子ガニが一と言ったところか」


 それならクラスメイト達は言うまでまもなく──


「え? いや、秋梔、さすがにクラスメイトを全員牛糞呼ばわりは看過できないぞ?」


「言ってません。そんな事、一言も言ってません」


 俺、何言っても悪いふうに捉えられちゃうな。


「しょぼーん」


 強いて言うなら全員蜂かな。

 チクチク刺さって痛いからね。


「ただ、そうやって配役を当てはめてみると、あれですね。先生は俺の味方をしてくれるってことなんですね」


「は、はあ? 別にあんたの為じゃないんだからねっ! 学年主任への道の為なんだからっ!」


「そんな私欲まるだしのツンデレありますか!?」


 可愛いけど。

 ちょっとときめいちゃったけど。


「実はな。先生、高校時代は演劇部に入ってたんだ」


「嘘ですよね?」

「嘘だ」


 この人は現在ソフトボール部の顧問で、プロへの道も開けていたという噂だ。

 そんなすごい人が高校時代に別の部活に入部しているわけがない。


 なんて事を考えていたところで。


 まあ、なんだ、つまりはだな──と、先生は前置きをして、話の締めにかかった。


「『おこないはおれのもの。批判は他人のもの、おれの知ったことじゃない』。つまり、そういう事だ、秋梔」


「えっと、勝海舟の言葉でしたっけ?」


「そうだ。お前、馬鹿そうに見えて意外と博識だな」


「先生、生徒に対してその発言はちょっと……」


「とにかく。先生は、気持ちの上ではお前の味方だが、あくまで部外者だ。お前が助けを求めない限りは手を差し伸べるつもりはない。言わなくてもわかってもらえる、だなんて期待はするなよ。先生にも、クラスメイトにも」



 先生のその言葉は、額面通通りに捉えたならば、冷たいものかもしれない。

 だけど、今の俺にはこれ以上なく心強い言葉に聞こえた。


 先生はぽんっと缶コーヒーを投げ渡してくる。

 それをキャッチした頃には先生の姿は消えていた。


「……ブラックは飲めないんだけどなあ」


 俺は階段を上り教室へと戻る。

 

 まさかこの缶コーヒーが、多くの人を巻き込む大事件に発展するなんて、このときはちっとも考えていなかった。

 


ブックマーク、評価、ありがとうございます。

励みになってます。


ついに、一章が終わりました。


これにてチュートリアル完です。


次回、いよいよ第一の試練がはじまります!

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