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他人からの評価



 放課後、愛萌から呼び出され、体育館裏へと向かう。

 掃除当番があった俺よりも先に教室を出たようで、ホームルーム後、愛萌の姿は見ていない。恐らく先に体育館裏で待っているのだろう。

 これ以上待たせる訳にもいかないので、小走りで急ぐ。


 それにしても、今日は新学期早々、とても濃い一日だった。

 始業式では生徒会を代表して喋ったし、纔ノ絛くんの夏休みを巡るお話も聞いたし、クラスメイトの前で意見も言ったし、最推しの転校生も来るし。しかも最推しの転校生である安藤さんにはスマホを勝手に乗っ取られて、LlNEを追加されてしまった。これでいつでも話せる。


 ……というか、今も、迷惑なくらい通知が届いている。どうやら、俺が安藤さんのヘルプに応じなかったことを根に持っているようで、保健室でメンテナンスを行っている安藤さんから、小言のような文がちまちまと送られてくるのだ。


 安藤さんには感情がないはずなのに、何故かその文面からはイキイキとしたものを感じ取れてしまう。今朝はあんなにも推しに会えたことを喜んでいたのに、少し疲れてしまっている自分にガッカリだ。

 俺の愛はこんなものだったのだろうか……。

 こんな体たらくでは、「推しへの愛が足りない」と、赤服くんに怒られてしまうかもしれない。


「ごめん、お待たせ」


 考え事をしている間に、いつの間にか体育館裏に着いていた。目の前にはヤンキー座りで待ち構える愛萌。スケバンにしか見えない。彼女は普段から靴が隠れるくらいにスカート丈を長くしているので、中が覗けるようなことはないが、何故かその座り方にはドキドキさせられてしまう。……多分、これはびくびくに近いドキドキだ。


「お前、どういうつもりだ?」


「ん?」


「ん? じゃねぇよ! ん? じゃ! メイド喫茶だよ、メイド喫茶! お前、発案するときめちゃくちゃあたしの方見てたよな!?」


 嘘……。

 それは正直、完全に無意識だった。

 もちろん愛萌のことを思っていたのは事実だ。

 けれど、それを本人に語るつもりはなかったし、むしろ愛萌には悟られたくないとすら思っていたのに。


「き、気の所為だよ」


 俺はついつい弱気になって視線を逸らしてしまう。

 愛萌はもう友達だ。だけど、ヤンキーに睨まれると怖いという気持ちは、たとえ相手が友達でも関係がない。


「えっと、ごめん。怒ってる?」


「怒ってねぇよ。ただどういうつもりなのか、それを説明してくれ。一体なんのつもりで、メイド喫茶なんてもんを提案したのかをよ」


「正直に言っても怒らない?」


「内容による」


 ああ、これ、怒られるの覚悟した方がいいやつだ。

 でも、だからと言って嘘をつきたくもない。

 よし。腹を括ろう。


「愛萌のメイド服が見たかったからです! それだけです!」


「開き直るな!」


「あう、ごめんなさい……」


 間髪入れずに言い返された。

 これは多分ある程度予想ついてたんだろうな。

 あう、とか初めて言ったよ。素で出てくるもんなんだなあ。


「……ったく、一二三の言う通りかよ」


「何か言ってたの?」


「…………いや、こっちの話」


 頬杖をついた手で口許を隠して目を逸らす愛萌。

 可愛いなあ、なんて。こんな時でも、俺は懲りなく愛萌を見てそう思ってしまう。どうしてこんな子が「可愛い」に対して、コンプレックスを抱くようになっなのだろうか。確かに、俺の言う可愛いは愛萌の内面に対しての感想であり、外見でいえば、可愛いよりも綺麗の方が正しいだろう。好みの差はあれど、誰が見たって愛萌を美少女だというに違いない。

 

 そんな彼女が──普段は大胆不敵な彼女が。

 頑なに拒むのは、何故だろう。

 


「僕はね、愛萌。君がメイド服を着てくれる日をずっと楽しみにしていたんだよ」


「……僕?」


「言ってない」


「言った」


 ああ、また愛萌と言った言ってないの不毛な戦いが始まってしまう。なんだか懐かしいな。たった数ヶ月前の話なのに。


「……あたしじゃ似合わねぇよ」


「またそんなこと言ってる」


「あ?」


「人はもっと自由な生き物だと思うな。誰がどんな格好をしたって、それは自由なんだよ。それを咎める権利は誰にもない」


「ムスリムが巫女服着てもいいのか?」


「それは屁理屈だよ!」


 酷い揚げ足だ。

 いや、実際それが可能なのか不可能なのかはわからないけれど、でも俺が言いたいこととはズレてるよ。

 愛萌が可愛いにコンプレックスを抱いているのは、別に宗教とか関係ないだろうし。


「じゃあ、お前がパジャマ姿で月面着陸したら許す」


「死んじゃうよ!」


 遠回しに死ねって言われたよ。

 愛萌に嫌われてしまった。


「……ふんっ。」


「別に似合う必要も──本当はないんだよ。きっとさ」


 好きなものを好きだって言うのは確かに難しい。

 俺だって、冬実々に好きだと伝えたら蹴られるし、春花に好きだと伝えたら防犯ブザーを鳴らされる。

 自分の想いを周囲が認めてくれないことなんて、よくある話だ。もちろん、人の悩みを、想いを、そんな言葉で一括りにするのは、間違っている。

 人は皆、何かしら自分にしか理解できない想いを背負って、生きているのだから。


 だから──


 だけど。


「愛萌が何を想っているのか、俺には理解できないけれど、今の愛萌に必要なものはわかるよ」


 たくさんの悪口に形容されながら、俺は一学期を過ごしてきた。それでも、俺を理解してくれる人はいたし、友達だと呼べる人だってできた。相変わらず俺を嫌っている人もいるけれど、今は前ほど表立って悪口を言われることも減った。

 

 そんな経験をしてきた俺だから言えることもある。

 偉くはないけれど、それでも偉そうに、己の経験を語ることくらいはできる。


「結局のところ、自分なんだ。自分が自分をどう思っているのか、それだけなんだよ」


 他人が原因で、他人が理由で、他人に影響されて、人は生きているけれど、それをどう捉えるかは、自分次第だ。


 今の愛萌を縛っているのは愛萌に他ならならい。

 これは愛萌が自分で乗り越える──試練だ。


「でも、あれだよ。別に愛萌を着せ替え人形にしたいと思ってるわけじゃないんだ。もちろん、愛萌のメイド姿は見たいけれど、これはあくまで──チャンスだと思って、提案しただけだから」


「あたしの為だって言いたいのか?」


「別に理由を押し付けるつもりもないけど……まあ、そういう捉え方もできなくはないかな」


 正直、俺にも自分のすべきことはよく分かっていない。

 俺は別に主人公じゃない。この世界は、俺を中心に回っているわけではない。愛萌のコンプレックスを無理やり克服させようとする俺の行動は、傍から見れば常軌を逸しているように映るかもしれない。

 愛萌からすればいい迷惑だろうし、夜鶴からすれば仕事を奪われた形になる。


 俺は試練なんか関係なく、愛萌には自分に自信を持って欲しいと思うけれど、こんな想いも愛萌にとっては、負担にしかならないのかな。


「…………。」


 もし、試練を乗り越えられなかったら、その生徒はどうなるのだろうか。仮に愛萌がここで文化祭をボイコットしたとして、ゲームではないこの世界の彼女の人生に、一体どんな影響があると言うのだろうか。


 唯一引っかかっているのは、先生のいう卒業適正という言葉なのだけれど……。

 その真意は、俺にもよくわかっていない。


「……わかった。お前の考えてることはだいたい分かったよ。正直、有り難迷惑な話だが、悪い気分じゃねぇしな。…………だからよ、その、金曜日の放課後、ちょっと付き合え」


「うん? いいけど。何か良い案でも?」


「ああ。メイド喫茶やるなら1回本場を視察した方が良いし、あーゆう服に慣れるためにも、1着くらい買ってみるもいいかもしんねぇし…………」


「そっか」


 実は愛萌は、ヒラヒラな服を1着、既に持っている。

 クローゼットの奥深くに眠らせて、着ないまま放置されているわけだが、それを指摘したらストーカーだと言われてしまうので黙秘。


「じゃあ、二人で行こっか」


「…………………………おう」





 

結構行き詰まってて、更新頻度落ちてるけど、

せめてこの章の間だけでも、頑張って3日に1回は投稿するぞ!!!!


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