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コミュ障立つ。

「はいはーい。転校生が気になるのは仕方ないけど、まずはこっちを見てくださーい」


 学級委員の発知子女(ほっちきす)さんと石部金吉くんが教壇に立ち声をあげる。


「本校では10月に文化祭が行われます。当然このクラスでも出し物をすることになるのですが、何か案のある方はいますか?」


 その声に、教室中がざわざわとし始める。

 みんな想い想いの言葉を投げ、候補が上がっていく。それだけで、彼ら彼女らがどれだけ文化祭を楽しみにしているのか分かるようだった。


「夏芽くんは何かやりたいことないんですか?」


「うーん。どうだろう。俺はみんなと一緒に楽しめるならなんだっていいんだけどね」


 正直、俺が何を言ったところで結果は変わらないだろう。このクラスの出し物はメイド&執事カフェなのだ。ゲーム時代もそうだった。


 そして俺は、愛萌が恥ずかしがりながらもメイド服に身を包み、一気に男子からモテ始めることイベントが発生することも知っている。俺が前世で好きだったイベントのひとつだ。今となっては愛萌も俺の友人ではあるが、推したいという心は捨てていない。


 安藤さんを最推しだとは言ったが、愛萌だって大好きだった。メイド服姿みたい。写真撮ってタペストリーにしたい。フィギュア化して欲しい。抱き枕カバーになって欲しい!


「……。」


 いや、犯罪だなコレ。

 立派なストーカーだぞ。2次元相手なら許されていた行為が三次元になった瞬間急に犯罪になったな。

 あれ、よく考えたらアニメ化された主人公達って、自分の物語のヒロイン、つまりは恋人だったりする存在を、勝手にグッズ化されて販売されてるのか。そう考えると、なんか少し気の毒になってきた。自分の恋人が抱き枕カバーになって他の男に抱かれたり、薄い本にされたりってどういう気持ちなんだろう。脳が破壊されたりしないのかな。


「遠い目を確認。どしたん? 話聞こか?」


「……いや、もうそれはいいって」


 擦りすぎだよ。


「はいはーい。みんな一旦静かに〜。ある程度候補が出てきたからこの中から決めるつもりだけどいいですか?」


「え……」


 声につられて黒板を見るも、そこにメイド喫茶の文字がない。お化け屋敷や焼きそば屋さん、展示会など、色々あるのにメイド喫茶がない!


「なんで……どうして」


 いや。

 なるほど。そういうことか。

 そういえばメイド喫茶は秋梔夏芽が提案したんだった。ならばここで俺が動かなければ、歴史が変わる。歴史が変われば愛萌のメイド服姿が見られない。


「……。」


 だけどここで俺がメイド喫茶を提案していいのだろうか。既に上がった候補を見て盛り上がるクラスメイトの前でメイド喫茶を提案していいのだろうか。したい。けどする勇気がない!


「うーん」


 うーん。うーん。


「よしっ!」


 諦めるか。

 それがいちばん無難だ。

 俺が先程夜鶴に言った言葉に偽りはない。みんなとできるなら、なんだっていい。なんだって楽しい。俺が少し我慢すればいいだけなのだ。


 だから今回は潔く引く──のか? 本当に?


「……。」


 推しが、男虎愛萌が! メイド服を着るチャンスなんだぞ?

 こんなことを言っては気持ち悪いだけかもしれないが、初めて愛萌にあったときからずっと楽しみにしていた。


 それに、これは愛萌が変わる切っ掛けになる大事な一歩なのだ。

 誰よりも可愛さに憧れ、しかし自分へのコンプレックスからそれを認めることができない。

 そんな愛萌が大勢の人間からの評価を得て自分を好きになれるチャンスなのだ。決して彼女は「可愛い」が似合わない存在ではないのだと、そう彼女にわかってもらうチャンスなのだ。



 愛萌は推しだ。

 そして大切な友達だ。

 そんな友達がコンプレックスを解消し、幸せになれるかもしれない機会を、俺が臆病だって理由だけで奪っていいのか?

 いい訳がない!


 なんのために生徒会役員として大勢の前に立って話をしてきた?

 なんのために不良生徒としてこれまで悪名を広げてきた?


 今日、この時の為だろう!


 逃げるな。立ち上がれ。

 覚悟を決めろ。


 俺はもうただの弱虫じゃない。

 孤独なだけの人間じゃない。

 俺は弱くて、情けなくて、自分の足だけで立てるような立派な人間じゃないことは、嫌という程理解した。だけど、今生(こんじょう)は、俺を支えてくれる仲間ができた。

 例えどんなにみっともない姿を晒しても、受け止めてくれる友達ができた。


 俺はひとりじゃない。

 だから立て。今、ここで!



 さあ。

 立ち上がるんだ、俺!


 ──ガタッ


 椅子を引き、立ち上がる。

 ざわめいていた教室がピタリと音を止めて、全員の視線がこちらへと集まる。


「どうした、秋梔夏芽」


 石部くんが目を細めて言う。

 たったそれだけのことで、俺の心臓はバクバクと音を立て、呼吸が不規則なものになった。


 上手く息が吸えない。

 悲しくもないのに目頭が熱を持ち、涙が出そうになる。吐きそう。おしっこちびりそうだ。

 だけど、俺は、変わりたい。

 愛萌を変えるために今俺がここで変わりたい。


 さあ、言え。

 口を開け。声を……声を絞りだせ。


 俺は──


「俺は、メイド喫茶がいい」


夕方くらいにもう1話投稿する予定です

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