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誤解




「おい、見ろよ。秋梔だぜ」

「あいつ、男虎さんを病院送りにしたって、先生が言ってたぞ」

「まじかよ。でも、秋梔が道端で金髪の女子を地面に転がしてたって噂流れてたよな」

「あ、私も先輩が、流血した女の子を運んでる男子生徒を見たって」

「何それ。人目のつかないところに連れ込んだってこと?」

「クズだな」

「あいつ、昨日の放課後朝比奈さんのこと呼び出して乱暴しようとしたらしいぜ? ギリギリのところでニノマエが止めたって」

「おう! 俺が朝比奈さんのピン──」

「女の敵だな」

「てか、あいつまたシャツに血ついてるぞ」


 男虎愛萌を病院へ送り、遅刻登校した夏芽を出迎えたのはそんな噂話だった。

 彼ら彼女らがする噂話は、確かに間違ってない。

 愛萌のことを病院に送ったのも事実。

 転ばせてしまったのも、血を流した彼女を公園に運んだのも事実だ。



「来たな、秋梔。今日も随分とやらかしたそうじゃねぇか」


 昨日の放課後の話をまるで自分の武勇伝のように語っていた(にのまえ)が、夏芽と対峙する。


「え、いや。……えっと」


 言葉が見つからず、黙りこくる夏芽。

 しかし、それを睨んでいるように捉えた一一(にのまえはじめ)とその友人が警戒心を強めて睨み返す。



「おい、秋梔。お前何考えてんだ?」


「えっと、みんなに睨まれて怖いです」


「ふざけんなっ!」


「びくぅっ!」


 ニノマエが掴みかかろうとするのを隣にいたクラスメイトの一人、知久英次(ちくえいじ)が止めて、話を引き継ぐ。


「昨日のことはニノマエから聞いた。お前、放課後に朝比奈さんを呼び出したらしいな」


「うん。朝比奈さんには悪い事をしたって思うよ」


 静かな声だった。

 まるで本当に申し訳なく思っているように聞こえるが、それが事実なのだとしたら、今朝も男虎愛萌と問題を起こしたりなどしないだろう。ゆえに、(にのまえ)達は、それを演技と捉える。

 


「ちゃんと話すよ。朝比奈さんとちゃんと話すから、えっと、とりあえず俺は行くね?」


「行くってどこにだよ」


「朝比奈さんと話に、だよ。二人でちゃんと落ち着いて、話して、謝りたいんだ」


 ──この男、何も反省していない!


 その声は顔からは想像もできないくらい弱々しいものだが、そんな演技に騙されるはずがない。

 また2人きりになったところで、昨日と同じことが繰り返されるはずだ。

 そう考えた一は目の前の男がまるで罪悪感を感じていないことに薄ら寒いもの感じる。


「お前を朝比奈さんと二人きりになんて、できるわけねえだろ!? 何考えてんだよ!」


 (にのまえ)は思わず夏芽の肩を掴む。


 夏芽はそれに対して驚いた顔をしたが、やがて何かに気付いたように、ふっと微笑んだ。


「ニノマエくんは優しい人なんだね。でも、俺を信じて欲しい。きっと、ちゃんと、解決するから」


「お前はやってる事と言ってる事がめちゃくちゃだ」


 目の前の不良生徒の言うことを信じろと言われて、誰が信じられるだろう。


「……友達、できたじゃん」


「あ?」


 ニノマエは夏芽が小さな声で何か言ったのを聞いた。なんと言ったのかまでは聞き取れなかったが、夏芽が小さく微笑んだのを確かに見た。


 それが不気味で──気持ち悪い。


「一くんにとって朝比奈さんはどんな存在?」


「なんだよ、急に」


「君は朝比奈さんの、何?」


 答えを待たず踵を返した夏芽を止める者は誰もいなかった。



☆☆☆


 俺が学校に登校したのは昼休みになってからだ。

 今日は学校に登校したら1番に、朝比奈さんに謝ろうと思っていたのだけれど、教室でその姿を見つけることはできなかった。


 しかもニノマエくんは完全に俺を悪者にした武勇伝を話モリモリで語ってるていうか、騙ってるし、多数で囲まれたし、なんかもう、帰りたい。


 そんなことを考えて、逃げるように廊下へと出てしばらく歩いた頃、「秋梔くん!」と俺を呼ぶ声がした。


 今まで俺が歩いてきた道を振り返ると、そこに立っていたのは、朝比奈夜鶴だった。

 決して大きな声ではなかったけれど、一生懸命振り絞ったような、必死の声だった。

 

「時間……もらえませんか?」


 彼女が掛けた大きなメガネで上手く表情を伺うことができないけれど、少なくとも声は本気のものだ。


「よかった。俺も朝比奈さんを探してたんだ」


 小走りで間を詰めてくる朝比奈さんを待ってから、歩き始めた。


 通り過ぎる各教室からは賑やかな声が聞こえる。

 最後に誰かと弁当食べたのいつだろう。

 ……いや、そもそも最初すらないや。

 

 

「えっと、どこに行くんですか?」


「うーん。特に宛はないけれど、でも何かをしながらの方が話しやすいかなって」


「お気遣い、ありがとうございます」


 ……いや、君への気遣いではなく、俺の問題です。口下手で悪かったな!


「そう言えば、三崎(ささき)先生が秋梔くんを呼んでました。登校したら会いにくるようにって」


「わかった。……先生は職員室かな?」 

   

「いえ、さっきは喫煙所の方に」


 あの人、タバコ吸うんだ。

 体育の先生なのに大丈夫なのかな。


「案内しますね」


 一歩踏み出した朝比奈さんは、俺と横並びになる。

 さわりさわり。彼女が左足を踏み出す度に、朝比奈さんの右隣を歩く俺の太ももをスカートが擽る。


「昨日はごめんね」


 謝罪の言葉は俺が思うよりもすんなりと口に出た。


「怖がらせるつもりも、迷惑をかけるつもりもなかったんだ」

 

 ただ君と友達になりたくて。


 その言葉が喉から出かかって、呑み込む。

 そんな資格、俺にはもうない。


「……私の方こそすみませんでした。昨日のことも、今日のことも、全部……全部! ごめんなさい」


 彼女の声は少しだけ濡れていた。

 それは後悔か、不安か。

 俺にはわからないけれど。


「えっと、今日って言うのは?」


「クラスのみんなには本当のことを話そうと思いました。でも、私が学校に来たときには噂が広がってしまっていて──」


 俺が教室に来たときも、ニノマエくんはまるで武勇伝のように朝比奈さんを救ったときの話をクラスメイトに語っていた。

 そこに水を差すのは、確かに難しいだろう。

 みんなが共通の敵を前にして盛り上がっている中、1番の被害者が「あの人は悪くないです」と言ったところで、空気が悪くなるだけだ。


 最悪、朝比奈さんの立場まで悪くなってしまう。

 

 そうだ。


 俺と一緒にいては朝比奈夜鶴(あさひなよづる)の立場まで──


「……あの! 私たち、友達になれませんか?」


 えっ?


 俺の正面に回り込んだ朝比奈さんが、目を真っ直ぐに射抜いて問う。


「……嬉しい。すげぇ、嬉しい」


 朝比奈夜鶴……この世界の主人公。

 君は俺を──僕を信じてくれるんだね。


 そしてこんな俺と友達になりたいと言ってくれる。


 涙が出そう。


 ありがとう。

 その一言で俺の心はこんなにも救われる。

 だから──


「ごめん。朝比奈さんとは友達になれない」


「……っ!」


 きっと、俺が朝比奈さんの傍にいれば彼女に対して多大なる迷惑をかけるだろう。

 友達100人を目標に掲げる彼女を俺が邪魔してはならないのだ。


「俺は無力だからさ」

 

 君の為にできることが何もないのだ。

 できる限り関わらない。それで精一杯。


「……わかるよね? 今の俺の状況も、俺と関わると朝比奈さんがどうなるかも」


「でも──」


「だから! ……待ってて欲しい」


 いつか俺がみんなの評価を覆せるくらい、立派な人間になって、胸張って君と肩を並べられる友達になろう。


「約束、ですよ?」


「うん。約束だ」

お読みいただきありがとうございます。


あと一話投稿したら、次の章に入りますので、いよいよ第一の試練です。


次話もよろしくお願いいたします。


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