匆匆頓首
「あ、あの、開けてください。ここから出してください!」
突然だが、僕こと水無月透は影が薄い。
それに気付いたのは3年前だ。
友人のいない僕にとって、それは特筆するに値しない個性かもしれないが、されどその個性が僕を困らせる事に最近ようやく気づいた時分である。
今だって、自動ドアが開いてくれないまま立ち往生中。
イジメやイジりすら受けないド陰キャの僕を唯一イジめる存在が、この自動ドアだ。
「頼む、僕を承認してくれよ」
へんじがない。ただの こどく のようだ。
しばらくして、他の客が店に入ってきたタイミングで、僕は隣をするりと抜けて、店を出でいく。
手元にはVRゲームの『友達100人できるかな!?』
これは現実に敗北した僕への救済措置のようなものだ。
高校3年生を目前にした春休み。
僕はこれを買うため、久しぶりに塾以外の用事で家を出た。
僕の両親はとても厳しい。
お陰で高校も一流校に合格し、そこでも好成績を収めることができていた。
しかし何故だろう。
僕の学力が上がるたび、人生の価値が下がっているような気がしてならなかった。
大事な物を取り零しているとしか思えなかった。
「友達が欲しい」
切実な願い。
ただ、己の気持ちに気づいたときにはどうしようもなく手遅れで、僕の世界には僕だけしかいないことを悟った。
そう。
僕には人との関わり方が全くわからなかったのだ。
だからこそ──それを学ぶためのゲームだ。
主人公が100人の友達とフジ山の上でおにぎりを食べる事を目標に奮闘するこの学園シュミレーションゲームは今の僕が求めるものを全て内包していた。
VRの仮想空間でなら──NPC相手なら、友達作りができるのではないか。
そう考えた僕はこのゲームに手を伸ばしたのだ。
「店舗限定でしか買えないところに、引きこもりやコミュ障を無理やり家から出させようとするいじましい意図を感じるけどね……」
このゲームはかなり内容が多彩で、好感度を上げると恋愛も可能なのだとか。50人近いヒロインから好みの子を選べるなんて贅沢過ぎると、発売前から話題になっており、恋愛シミュレーションゲームとしての精度も高い。
また、主人公の性別を女にすることもできる。
β版では男子16人の逆ハーを築いたというOLの情報もあるほどの自由さだ。
果たして、友達に飢えた結果、腐男子に走った青年はこの世に何人いるだろうか。
果たして、友達に飢えた結果、熱血スポーツ漫画やヤンキー漫画の主人公の顔に、切り取った自分の顔写真を貼り付けた青年はこの世に何人いるだろうか。
「僕だけだろうなぁ……。でも、今日で生まれ変わってみせる。僕は夢に向かって一歩踏み出すんだっ!」
歩みだした一歩。
自分に向かってくるトラック。
それが僕の瞳に映る最後の景色だった。
連載始めました。
一風変わった俺TUEEEEをどうかお楽しみ下さい。