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「玉座の間」


「ここが玉座の間です。」


 玉座の間?

 階段を上りきった先の扉を開けるとまず、バカでかい椅子の背がみえた。

 これが玉座か。

 まさか玉座の後ろに隠し扉があったとは。

 扉を出て、椅子の横まで行くと玉座の間の全容が見えた。


「でっけえ…」


 高さも広さも野球スタジアムの半分ほどだ。

 鯨くらいはある超弩級のシャンデリアが天井からぶら下がり、金色の光を怪しげに放っている。

 さらに床一面が毛足の長い赤黒の絨毯で覆われていて、試しに軽く跳んでみても足音が吸われてしまって聞こえない。

 二本一対で赤いカーペットの道を挟み正面扉まで続いている極太の大理石の柱だけが白色で、部屋全体としては赤と黒が基調だ。

 「魔王」とか言われてもよく分からなかったが、このいかにもな玉座の間を見るととてつもない財力と権力を持った存在であるようだ。

 逃げよう。絶対逃げよう。

 身の丈に合っていないどころの話ではない。

 俺はこの世界で詐欺師とか空き巣とか、とにかく小物として生きていくんだ!


「だっ、大魔王さまぁっ!!!」


 俺が下衆な夢の実現を決意して拳を握りしめていたら突然大声が聞こえた。

 驚いて玉座の横から下を見下ろすと数人の人物というか怪物が跪いて頭を下げていた。


「お初にお目にかかります、大魔王様!私『五将軍』の一人デゼルでございます。」


 残り4人も次々に挨拶するが、俺は瞬きもせずデゼルとかいう男を見つめていた。

 こいつがホロウの言っていた要注意人物か。

 見た目はほとんど普通の人間と変わらない。  

 赤髪を肩まで伸ばし、軍服を着た美青年だ。

 違いといえば立派な角が頭の両側から一対生えていることくらいか。


「だ、大魔王様の召喚を先ほどラカン殿にお聞きして遅ればせながら参上した次第です。もちろん我々五将軍も四天王同様貴方様に誠心誠意お仕えするつもりでございます。」


 身長は180センチある俺より高そうだ。 

 割と筋肉質みたいだし、紅い瞳の眼光は鋭い。

 うん、喧嘩しても絶対勝てないな。

 ホロウも竜人は少数精鋭とか言ってたし、見た目以上に強いのかもしれない。

 四天王もそうだが、五将軍とかいう奴らも相当の実力があるのだろう。

 逆に言えば魔王が殺され士気を失ったとはいえ、明らかに人間より強そうな魔族を真正面から敗走させる勇者とも絶対に戦いたくない。

 なんとかこいつらの隙を見つけて逃げなくては。


「だ、大魔王様。そろそろご容赦をっ。」


「ん?」


 右目を瞑って考え込んだままデゼルを見つめていたら、彼はいつの間にか四つん這いになって苦しそうにこちらを見上げていた。

 うわっ、俺別にそういう趣味ないんだけど。

 それともあれかな。これって魔王軍式の最敬礼みたいな感じかな。


「さ、さすがの魔眼でございます。まさか視線に乗せた魔力の重圧のみでこのデゼルの膂力に勝るとは」


 魔眼?

 そんな中二病必携スキルみたいなの持ってないし、さっきホロウの背中とかもずっと見てたけど何もなかったぞ?


「げ、限界でございます!そろそろ息がっ!どうか視線を外していただけると!」


「ああ、すまんな」


 なんか知らんが見られていると苦しいらしい。照れ屋さんかな?

 言われる通り視線を外してあげると大きく息を吸ったあとゴホッゴホッと大袈裟に咳き込む音が聞こえた。

 隣にいた鳥頭の怪物がそっと背中をさすってやっている。

 ホロウはデゼルが先代魔王の暗殺に関与したみたいに言っていたがそんなに悪い男には見えない。

 見られるのが恥ずかしいとかいいつつ四つん這いになってみたり結構愉快な奴じゃないか。


「それにしても一万年前大陸全土を手中に納められた伝説の大魔王様を召喚されるなどという大事をなぜ事前にお知らせいただけなかったのかな、ホロウ殿」


 鳥頭の隣にいた白髪の老紳士が恨みがましい目でホロウを見ていた。

 いや、ほんとそうだよな。

 俺もそう思う。できるだけ仲悪くしてくれ。

 できれば争い合って俺のことなんて忘れてくれ。

 だって俺大魔王なんかじゃないもん。


「伝令!伝令ー!勇者がついに正門の守りを破り、城内に侵入したとの報告が!」


 その時、緑の小鬼のような生物が玉座の間に駆け込んできた。

 えっ、勇者もう来ちゃったの?

 俺が召喚されてから1時間もたってないよ?


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