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「五将軍」


 階段には一定間隔で青い蝋燭が並んでいた。途中何度も扉をくぐりながら進んでいたが、いつ上につくとも分からない道の長さに退屈してきた。

 暇潰しも兼ねて骨男に質問をしておくことにするか。


「ちなみにだけど、俺にやったみたいな魔王召喚って今までも経験あるの?」


 階段を進む骨男、ホロウの背に問いかける。


「ええ、先代魔王様もまた違う世界から来られた豚人の魔王です。今までは代々この地を治めていた由緒正しい魔王家がいらっしゃり、我々四天王もまた代を重ねながらそこに仕えておりました。しかしその魔王家も先先代で絶えてしまい、このままでは家臣、領民一同路頭に迷うことになると、最後の策として召喚したのですが…」


「ですが?」


「結果から言えば失敗でした。先代の魔王様の実力は、その…正直なところ我ら四天王に毛が生えたようなもの。誰も口に出しては言いませんでしたが魔王様としても感じるところがあったのでしょう。我々四天王は魔王様に疎まれるようになりました。それから魔王様は実力の高さと裏腹に野に埋れていた連中を自ら雇い、直属の配下とされました。それが今の『五将軍』です。」 


「ほーん」


 すげえじゃん先代。人を見る目があったんだな。


「最初は近衛に過ぎなかったあやつらは言葉巧みに魔王軍に取り込み、着々と配下を増やしていき、ついには『五将軍』を名乗るようになりました。しかし我々四天王の部下たちがそれを黙って見ているわけもなく、兵士同士の抗争が始まり、激化しました。魔王軍は自然と二つにわかれたのです。それが将軍派と四天王派の争いの始まりです。」


「へーえ」


「ムオト様、『五将軍』はあなた様に取り入ろうとするはずです。ですが決して心を許してはいけません。」


「なんで?」


「色々と黒い噂が絶えないのです。正直なところ、先代暗殺も奴らの謀略ではと私は思っています」


 いや黒い噂っていうか、魔王軍って存在そのものが真っ黒なもんじゃないの?

 ていうかよく考えたら勝手に召喚されて勝手に殺された可能性があるのか先代魔王…。やっぱりブラックだよこの会社。


「杞憂であればよいのですが…。とにかく『五将軍』のなかでもあの男には要注意です」


「あの男?」


「デゼル。『鉄火のデゼル』です。竜人の男で、武芸はもとより魔法も超一流。家柄もあり、少数精鋭の竜人たちの首領でございます。それにも関わらず目立った功績がなく、ここまでかなりの苦渋を舐めてきた者です。その反動か功名心の高い性格で我々四天王につまらぬ争いをふっかけてくることもしばしばあります」


 都合の良いことに魔王軍は二分されて争っている。

 ちょっとお互いの勢力に火をつけて、騒ぎが起きている内にとんずらしてしまおう。

 俺はただの大学生なのだ。

 化け物同士の争いなんかに参加させられたらかなわん。


「ムオト様の召喚も、五将軍に漏れないように我々四人のみの秘密にしております。ヤツの驚いた顔が目に浮かぶようですわ!」


 ホロウはカタカタと顎を打ち鳴らして笑ってるが、俺の記憶違いじゃなければ魔王城は風前の灯火って言ってなかった?

 秘密兵器ともいえる大魔王召喚を仲間に隠すのはどうかと思うんだけどなあ。


「いや、お前らの問題だから好きにすればいいんだけどさぁ…。」


 意外と余裕があるんじゃないかなんて考えていたら、ようやく出口に着いたようだ。


「お待たせしました。私が案内させていただくのはこの扉の先までです。しばらくお待ちいただければ、リリエラが魔王様専用の武器庫までご案内する予定です」


 リリエラってあの黒い翼の美人さんか。

 彼女とはぜひ話したい。

 できればお茶をご一緒したい。

 大事なところを見られたという恥ずかしさもあるが大丈夫。こちらが恥ずかしがるそぶりも見せなければあちらも「あれ、見た、よね…?」と逆に不安になるはず。

 そこで仲良くなって少し経った後に「いや、俺パンツ履いてたよ?」と言われれば確かにそうだったような気がしてくる。

 嘘つきはそうやって過去を帳消しにするのだ。

 そしてこんなんだから俺はずっと童貞なんだ。


「魔界最高峰の武具を揃えたコレクションです。至高の魔剣や魔杖に加え、伝説級の魔道具もあります。必ずや大魔王様のお気に召すかと。」


 ほう。なら今すぐお家に帰れる魔法のボタンとかないかな?


「それでホロウはこれからどうするの?」


「ムオト様のご案内をリリエラに引き継ぎラカン、モルガウと合流し、三人で大魔王様の準備が整うまでの時間を稼ぐつもりでございます。現在勇者パーティを先頭に聖アレーティア王国軍は天竜山脈を越えたところ。本隊が城下のアラク大荒野に至るまで丸一日はかかりますが、勇者パーティのみ時空間魔法で転移してくる可能性が高いですからその前哨戦を」


 ああ、外堀りが埋められていく…。

 そんなことされたら俺が戦わなきゃいけない流れができるじゃないか。

 頭を抱える俺になにを勘違いしたのかホロウは、


「ご安心ください。我ら全身全霊で時間を稼ぎます。手勢をすべてぶつければ仮に勇者と戦うことになっても十五分、いや十分は保つかと!」


 なんて言い出した。

 いや、もう少し自信持てよ。何で負ける前提なんだよ。

 四天王ってもっとこう傲慢な感じで一人ずつ挑んで負けていく存在じゃなかったっけ?


「リリエラは時空間魔法の使い手です。今は他の作業をしているため多少お待たせしますが、移動は一瞬ですので大魔王様はゆっくりご準備の方を整えていただければ!」


「お、おう」


 一体どんな言い訳をすれば逃げさせてくれるのだろう。

 頭をフル回転させて考えたが、まったく名案が浮かばず焦燥が募るばかりだ。

 ギギィと音を立ててホロウが扉を開く。

 この扉の先に何か言い訳の種がありますように!


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